欧米で広まるアジア人差別・ヘイトはなぜ起こった?そして日本のグローバル企業はどう対応すべき?
このnoteのポイント
・最近ソーシャル上でよく見かける「#StopAsianHate」や「#hateisavirus」とは?
・トランプ前大統領による序章、新型コロナウイルスによる爆発によって深刻化する人種差別
・グローバル企業や海外進出している韓国企業では早くから立場を表明する企業が多い中、日本企業の立場表明は少ない
・グローバル市場に進出する日本企業として考えておきたい対応策とは?
皆さま、こんにちは。
Good Tideチームメンバーのショウです。
今回の内容は今アメリカで多発している、アジア人差別に関してです。
SDGsというと、地球温暖化や気候変動という環境保全に関するイメージが高いと思いますが、教育や人権などの社会環境の平等性に関する目標もあります。
アメリカの黒人差別Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)運動もまだ記憶に新しいと思いますが、なぜアメリカで差別に関する運動が立て続けに起きているのか、紐解いてきたいと思います。
ぜひ最後まで読んでみてください。
1. #StopAsianHateとは?
「#StopAsianHate」や「#hateisavirus」などのハッシュタグをソーシャルメディア上で見たことはありますか?
現在「#StopAsianHate」を使用したInstagramの投稿は2.4万件、「#hateisavirus」は1.5万件もあります。(2021年3月16日現在)
これらのハッシュタグの由来はBlack Lives Matterの運動と似ており、主にアメリカで起こっているアジア系アメリカ人やアジア系民族への差別を止めようという運動に関するハッシュタグです。欧米でアジア人やマイノリティに対する嫌がらせは以前から見られますが、最近はアメリカのニュースでアジア人への卑劣な暴行や傷害事件、行き過ぎた嫌がらせに関する報道が増えています。
ニューヨーク市警の統計を比べてみると、2019年にアジア系住民へのヘイトクライム(差別を原因とした事件)が1件起こったのに対し、2020年は上半期のみで20件も被害が報告されています。
また、去年発足した、パンデミック下におけるアジア系住民への差別の撲滅を目指す団体「Stop AAPI Hate」へは、去年の3月から年末までにかけて、2,808件もの直接的なヘイトクライム体験が寄せられているとのことです。
https://stopaapihate.org/reportsreleases/
これらの事件を止めるべく、デモを起こす人やソーシャル上で「Stop Asian Hate」や「Hate is a virus」というフレーズを使用して差別を止めることを主張する人が増えました。
では一体なぜ、アジア人への暴行や差別がニュースで取り上げられるほどひどくなったのでしょうか。
この問題を紐解く社会現象に、トランプ前大統領の白人至上主義政権と、中国の武漢で初めて確認され、現在世界中に蔓延している新型コロナウイルスが大きく関わっていると思われます。トランプ前大統領は「Make America great again アメリカ第一主義」をスローガンに、アメリカとメキシコの国境線に壁を作る政策を掲げるなど、差別的発言や行動を取り続けました。このような差別的な思想を持つトランプ前大統領が政治に関与し始めてから、少しずつ社会へ分断が生じ、白人以外の住人に対しての嫌悪感が徐々に膨らんでいったと考えられます。
そこへ、新型コロナウイルスが武漢から世界中へ広まり、各国の経済や人々の生活へ著しく悪影響を与え始めました。トランプ前大統領は、中国の武漢から始まった感染症のため、「チャイナウイルス」「カン・フルー(中国を連想させるカンフーと感染症のフルーを組み合わせた造語)」という差別的な言葉を発したことで、アジア人差別や暴行が爆発的に増えたと見られます。
人々が感染を恐れ、不安を抱えている中、一国のリーダーである大統領がこのような差別的な発言をしたことで、国民はパンデミックを生みだしたことに対する怒りを、アメリカに住むアジア人に対して暴力や傷害、差別的言動という形でぶつけ始めたと考えられます。
(参考:https://www.ellegirl.jp/celeb/a35622034/c-stop-asian-hate-campaign-21-0225/)
2. 人々の意識と行動
Google Trendsのいくつかの検索結果とソーシャル上の投稿を元に、この問題に対する社会の意識を見ていきたいと思います。
(※検索結果の数値は、100 の場合はそのキーワードの人気度が最も高いことを示し、50 の場合は人気度が半分であることを示します。0 の場合はそのキーワードに対する十分なデータがなかったことを示します。)
アメリカでキーワード「Asian Americans」の検索動向を調べてみると、2019年の年末から検索数が徐々に増え、2020年5月31日から6月6日にかけてピークに達し、100という数値を記録。その後検索数は一時的に下がりましたが、2020年の年末から現在にかけてまた徐々に増え始めています。
(Google Trends「Asian Americans」2019年1月1日から2021年3月16日の検索動向 2021年3月16日現在)
このいくつかのピークをアメリカの新型コロナウイルスの新規感染者数と照らし合わせると、2019年の年末からコロナウイルスの脅威が徐々に見えてきた頃、そして2020年の秋から爆発敵に増えた点と比例して、アジア系アメリカ人が多く検索されていました。
(Google Search アメリカのコロナ新規感染者の推移 2021年3月16日現在)
さらにキーワード「stop asian hate crimes」を調べてみると2021年の2月14日から20日にかけて98という数値、そして2021年2月28日から3月6日にかけて100という数値を記録しました。また、キーワード「stop asian hate」で調べてみると、2月21日から27日の間の検索数が、前週から急激に増えていることが分かります。
(Google Trends「stop asian hate crimes」3月16日より過去12か月の検索動向 2021年3月16日現在)
(Google Trends「stop asian hate」3月16日より過去12か月の検索動向 2021年3月16日現在)
2021年に入り、アジア系のお年寄りをターゲットにした生死に関わる暴行事件や、刃物で切りつけるという劣悪な傷害事件が増えています。今アメリカ全土で起こっている現状を知り、アクションを取ろうとする人々の意識が、このような検索結果の数値に現れているのではないでしょうか。
実際ソーシャル上では、デモや運動を呼びかける内容やその様子、個人の思いを投稿する人々が増えてきています。
アジア人が差別を止めて欲しいと訴える声はもちろん多いですが、中には人種関係なくアジア人差別に反対する人の投稿もあります。無知やパンデミック下の現状に怒りを覚える一部の人々が暴力的な言動へ走ることもありますが、それと同じくらい、あるいはもしかしたらそれ以上に平和で差別のないコミュニティを作りたいと人種の分け隔てなく尽力する人々もいます。この社会への姿勢は企業にも見られるものです。
3. 企業の#StopAsianHateに対する対応
それでは企業がこの社会現象に対して、どのような行動を取っているのか見ていきます。
▼Apple
アップルのCEOのティム・クック氏は、Twitterで人種差別を無くすために人々へ団結する必要性を投稿し、また会社として被害を受けた方々を支援すると発表しました。
【日本語訳】
「アジア人コミュニティに対する暴力の増加は、あらゆる形態の人種差別に対して私たちが団結しなければならないことを痛切に、そして緊急に思い出させてくれます。私たちの社会に憎しみの場所はありません。Appleのチームは一丸となり、被害を受けた人々を支援するグループに寄付を行います。」
ユーザーからは、この声明を支持する声が多く寄せられました。その一方で、自身が体験した差別や、差別に対して思うことをコメントとして寄せる人も見られました。
この文面から人種を越えて人種差別という行動からお互いを守り、また卑劣な言動や暴行の虚しさを伝えようとされていると感じられます。そして、人種差別を行う一部の人に対してメッセージを送るのではなく、人種差別を行っていない大勢の人に対して今取るべき行動や思いやりの心を思い出して欲しいというメッセージが読み取れます。
CEO自らが発信をすることで、アップルとしての姿勢のみならず、アップルで働く人も代表したメッセージになったのではないでしょうか。
▼LANEIGE
ラネージュはグローバルに展開している韓国のコスメブランドで、日本でもクッションファンデーションなどで知っている方が少なくないのではないでしょうか。
アメリカでも展開するラネージュは、韓国発祥のブランドとしてアメリカのユーザーへ向けて発信をしました。投稿写真はシンプルにラネージュの真意、平等と平和が読み取れるフレーズが書かれています。このシンプルなメッセージが、今分断されているアメリカ社会に必要な言葉なのではないかと感じます。
投稿では、ラネージュはアメリカ社会で民族や人種を越えて多様性が尊重されれば、もっと安全で平和なコミュニティが作られると信じていると提言。安全で平和なコミュニティを創造するため、アジア人差別に対する認知を上げるために発信していくと強く伝えています。
また、被害にあった場合の緊急連絡先や相談先、寄付が出来る団体名を掲載し、被害者や支援者が行動を取れるように情報を載せています。
このようなアウェアネスを上げる行動に対して、肯定的な反応が多く寄せられており、ユーザーから支持を得ていることが分かります。韓国系民族も含むアジア人へのヘイトクライムに関して、韓国のグローバルブランドが声を上げることで、アメリカに住む韓国系アジア人は勇気づけられたのではないでしょうか。
そして海外の問題に対して声を上げることで、国際社会への関心が見せかけではなく、しっかりと意識や日々の行動へ落ちていることをアピールできたと思います。
▼FOREVER 21
カルフォルニアのロサンゼルスに本社を置くアメリカのファストファッションブランドFOREVER21(フォーエバー21)は、インスタグラムで「#stopasianhate」のハッシュタグを用いてブランドの姿勢を示しています。
フォーエバー21は、暴力的なアジア人差別と憎悪を非難し、アジア人系アメリカ人の運動を支援すべく、支援団体へ寄付を行ったと報告。また、フォーエバー21と共に人種差別を無くし、より良い未来を育む行動を取るよう促しています。ユーザーからの反応は、肯定的なコメントやいいねが多く付けられ、この行動が称賛されていることが分かります。
フォーエバー21を利用するユーザーは若年層が多いため、若い世代へ差別の虚しさ、暴行や暴言の倫理的部分について発信していると感じました。また、韓国出身のご夫婦がアメリカで始めたブランドであるフォーエバー21がアジア人に対するヘイトを止める運動を支援したことについて、私は「共生」や「協調性」という言葉を連想させられました。
アメリカのようにとても多様性のある国では、どの人種が優れているなどの優劣をつけることはとても危なく、多様であればあるほどインクルーシブ(包括的)なコミュニティや人々の寛容性、共に平和に生きる重要性が大切だと改めて考えさせられました。
これら企業の行動に対し、批判的な反応が見られる場合もありますが、ポジティブなアクションを取ることに対して一定数の称賛や支持をする声が見られます。世の中で起きているネガティブな出来事にに対して、解決やより良い社会のためにポジティブな行動や支援を行うこと、味方だと伝える発信をすることは、大多数の方には称賛される勇気ある行動だと見られるのではないでしょうか。
4. 日本のグローバル企業が取れるアクションとは?
日本でも、環境保全や環境に対するSDGsへ取り組み始めることや、未来を見据えて活動をする大切さに気付く人や企業は増えてきているかと思います。
一方で海外市場に展開する企業であっても、他のアジア系企業と比較すると日本企業の中に人種差別に対して明確に意見を言う企業は少ないです。実際、今回のアジア人差別や黒人差別という人や民族・人種が対立する問題に対しての取り組みはセンシティブな部分があるため、発信や支援を行うことを難しいと感じる企業もいるのではないでしょうか。
SDGs17の目標のうち、目標10は「人や国の不平等をなくそう」です。そして、目標10下にあるいくつかのターゲットに以下の内容があります。
ターゲット10‐2
2030年までに、年齢、性別、障がい、人種、民族、生まれ、宗教、経済状態などにかかわらず、すべての人が、能力を高め、社会的、経済的、政治的に取り残されないようにすすめる。
ターゲット10‐3
差別的な法律、政策やならわしをなくし、適切な法律や政策、行動をすすめることなどによって、人びとが平等な機会(チャンス)をもてるようにし、人びとが得る結果(たとえば所得など)についての格差を減らす。
(詳しくはこちらから:https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/10-inequalities/)
環境のみならず、人に対しての目標もSDGsのゴールには含まれています。環境と人、両方のために企業はどのような行動を取っているのか、ユーザーや顧客は常に見ているでしょう。
全ての人が平等にチャンスがあり、そして平等に接してもらえる世の中を目指すには、影響力のある方々や組織がリーダシップを持ち、勇気をもって発信をや行動をすることが第一歩になっていくと思います。
5. あとがき
組織を代表して社会にある差別に対して立場を表明することや、組織として意見を発信することは、重みのある行動だと思います。発信内容や意見によっては肯定的な反応のみならず、批判的な反応を受けることもあるでしょう。
しかし、社会で起きている出来事に対して発信をしないということは、「無関心」と思われる可能性もあります。興味がないという印象は、ある種のネガティブイメージ、強く言うと「見て見ぬふり」をしているようにも見えてしまうかもしれません。特にそうした受け取られ方は主張がはっきりしている欧米諸国で顕著で、そうした国に事業として進出していても社会課題に対してアクションを起こさない企業への批判は時として大きくなります。
社会問題や変化に対して熟知していない、直接関係していない場合でも、関心を持ち、発信する必要はあると思います。何が、どうして起こっていて、未来のためにどのようなことに取り組めるか、個人や組織としても考え、たとえば今回の人種差別の問題が起きたときにすぐに発信できる体制を持つことは大切です。
人種や民族関係に止まらず、社会で起こっている問題に対して意見を持ち、その姿勢を見せることは重要なのではないでしょうか。
次回もお楽しみに。
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