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情熱の死の淵から

希死念慮がひどくて目が覚める。
このところそうだ。
表向きは前向きな自分を装っているが、正直しんどい。
自殺企図までするエネルギーがないので朝はだらだらして過ごす。
何度も何度も繰り返していたオーバードーズも、包装から薬を取り出すのが果てしなくめんどくさくてやろうと思わない。
体は動く。
昨日絶不調の中運動に行けた。
パワーは出なかったけれど(その割にはスミスマシンで40キロ担いでスクワット15回×3セットはがんばれた)動くことはできる。
布団からも出られる。
謎だ。
運動をすれば(何かの薬をキメたかのように)目はキラキラするし、気持ちもスッキリするのだけど、翌朝目覚めれば絶望感の砂漠の中で一人立ち尽くしているような気になって、雨を待てども降る気配はなく、ただ朝が来てしまったことに対し胸がシクシクと痛むのである。
なんで。

昨日友人からLINEをもらった。
相当心配をかけてしまっているようだった。
申し訳ない。
今は情熱の炎が消えかけていて、心が死んでいるのだと思う。
残滓を掬いあげようとすると、灰になって手からこぼれていく。
いやだ。私はまだ限界になんかなりたくない。
体はそう主張するのに、心の中の炎が日ごとに小さくなっていく。
せめて種火だけは残ってくれないかな。
そしたら薪を集めてきてくべるから、少し待っていてくれないかな。
「待てそうにないよ」と体の内側から聞こえる。
え? 今のは誰の声?
お願い待って、あなたが消えてしまったら私はどうやって生きていけばいいの。
情熱のない人生は死んでいるのと同じだ。
「パンとサーカス」と人々は言った。
パンだけじゃ生きられないんだ。サーカスへの興味を失った人間は生命を維持できても心を維持できないんだ。
いやだ。本当は死にたくない。
起き抜けに希死念慮に苛まされているのに、まだほんの少し生きている心の中の種火が死にたくないとあがく。
まだ。
まだ。
物語の主人公が私のことを待っている。

「ねぇ……ねえってば……」

ん……?

「ねえKyo-asu、なんであたしのことまだ書いてくれないの? あたしのママみたいな冒険が早くしたいよ」
今、すっかり小さくなった炎の中からおてんば娘の声でそう聞こえた。
さっきの声の子。
はっきりと聞こえた。
そうだね。
あなたのこと、まだ書いてないね。
声はあなたの声だったか。
あなたの名前はアリシア。
私は知ってる。
あなたのママがどんな冒険をしたのかも知ってる。あなたがこれからどんな冒険をしようとしてるのかも知ってる。
ねえアリシア、あなたのこと頑張って書くから、Kyo-asuのお願い事ひとつ聞いてくれるかな。
私がいろんなところから薪を一所懸命集めてくるから、その間この炎を守っていてくれない?
ちょっと時間かかるかもしれない。
体がギシギシ痛むから動きにくいんだ。三半規管もやられてる。
でもあなたもあなたのママもいろんなことを乗り越えられる素敵な魔女だから、待てるよね。
待っている間は、何をしていてもいいよ。
お願い。
一生のお願い。
私の人生をかけて、あなたをえがいてみせるから。

心の中から彼女の声が聞こえたとたん、目から涙があふれてきた。
いままで放っておいてごめん。
情熱の死の淵から私を救ってくれるのは、いつだってあなたたちだよね。

明日も朝がくるのが(今から)怖いけど、あなたたちがいる限り炎は小さくなっても完全には消えないってわかった。
大丈夫かどうかはわかんない。
でも消え入りそうな炎の中に声を見つけようと思う。

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