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デザイナーの4象限:前提編

デザインという言葉は今非常に広い意味で使われている。それとともにデザイナーという言葉の意味も広がり、収集がつかなくなりつつある。

「デザイン思考」と関連して時として揶揄されるのが「付箋デザイナー」という職種。UIデザインも戦略デザインも服のデザインもできないけれど、「デザイン思考」のワークショップをやって付箋をぺたぺたはることはできます!という人たちだ。こうやっても文字にすると冗談のように聞こえるけど、某社にはこの「付箋デザイナー」が山ほど存在する。それどころか「デザイナーの役割は、お客様の意見を導き、まとめることで、自分が何かを生み出すのはデザインじゃない!」という断言を二度ほど聞いたことがある。

「付箋デザイナー」に違和感を覚えるのであれば、それはどうしてか。じゃあお前の考えるデザイナーとはどういうものかをちゃんと述べるべきではないか。そうやって自問自答すること数年。ようやく最近結論がでたので書いてみる。とはいっても長いので何回かに分けるつもりだ。というわけで今回はその前提。
「異なるデザイナーの仕事」について。

-1→0と0→i

そもそもデザインに何を期待するのか?ここではこの二つに分類してしまう。

-1→0


というのは、ユーザビリティとかUXのあからさまな欠陥を是線する試み。ユーザビリティ評価をしました10点要改善点が見つかりました。それではこれを直していきましょう。問題は明白だし、改善の方向性もわかりやすい。例えて言えば道路に空いている穴を埋めるような仕事である。

この「デザイン」のメリットはわかりやすい。定量化もできるような気がする。ユーザの操作時間が減りました。エラー率が減りました。タスク達成率が改善されました。基本的に聞こえるかもしれないが、重要性は変わらないし、この観点で「ちょっとなんとかしてほしい」というUIだかUXは世の中に山ほど存在する。

問題は

この試みをいくら精緻に行なったところで、元々の商品だからサービスがダメだった場合、それを救うことにはならない点にある。タスク達成率が10%から95%に向上したところで、そもそもやっているタスクが無駄だったりユーザが0だった場合には世の中に対するインパクトは0である。いくら道路を綺麗に舗装したところで、その道路を利用する人がいなければ意味がない。

さらには

この−1→0のデザインだけではビジネスとして成立させることは難しい。これは経験的にみて事実である。

0→i

ここで「i」と書いているのは複素数である。なんとなく思い出してほしい。実数は一本の数直線の上に並んでいるが、複素数は平面上にある。

この0→iのデザインは「今はなにもない or 特に問題がない or 問題があることはわかっているのだが、それが何かわからない」といった場合に新たな価値、方向性を具現化する営みである。

進む方向は複素数なので、方向性がどこにあるかわからない。それが正しいかどうかもわからない。1+2iと5−4iのどちらが「大きい」かもわからない。比較するためには比較の方向を定めねばならないが、それはどうやって決めるのか。正解は存在しない。新たな価値を作り上げる、提案するとはそのような営みである。

ここでは「主観」が重要になる。誰がどう言おうと、この提案の方向性を決め、承認するのは主観以外の何者でもない。それゆえの難しさがあるのだが、ビジネスで大きく成功しようと思えば、この0→iのデザインを避けて通ることはできない。

以上が−1→0と0→iという区分である。多分世の中にはもうこの区分を表す言葉があるのだと思うが、「iは平面だから方向性がわからない」という点が気に入っているので、これを使う。

次の区分は人によっては意味不明だと思う。しかし私は実体験からこの二つの種類の「デザイナー」が存在することを知っている。

HelperとCreator

Creatorとは文字通り何かを新しく作り出す人。ではHelperとは何か?

Helper


冒頭述べた「付箋デザイナー」のことである。デザイン思考のプロセスを熟知している。注意点も言葉で明確に述べることができる。ワークショップのファシリテーションを「実行する」ことができる(しかし良いワークショップとは何か?について深く考えることはしない)
ワークショップを実行し、お客様の意見を付箋に書き留め模造紙の上に貼る。それを「適切に」まとめることができる。その結果をまとめ納品すれば仕事は完遂。

Helperがコミットするのは「顧客がデザイン思考のプロセスを実行することを支援する」ことであり、価値あるアウトプットを生み出すことではない。顧客が請求書を承認することが、自分たちが価値ある仕事をしたことの証である。

(再度書くが)こう書くと冗談としか思えないが、実際にHelperは日本の大企業に多数存在しており、ペルソナシート、インタビューシート、カスタマージャーニーマップ、ソリューションブレストのまとめを納品することで報酬を得ている。

Creator

Creatorは自ら新しい価値を生み出すことにコミットする人である。顧客が彼らに依頼する前は想像できなかったアウトプットが、Creatorもしくは顧客によって生み出され、そして結果として顧客が
「これが我々が欲しかったものだ」
と納得し報酬を払う。

「デザイン思考」は一つのツールとして用いられる場合もあるが、それに固執することはない。役に立つと考えられる手法ならなんでも取り入れるし、「デザイン思考」の原則を無視することもある。Creatorがコミットしているのはプロセスではなく結果。

さてこれらの二つの軸をX,Y軸とするとデザイナーの世界は4象限に分けられる。それについては以下次号。

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