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2023小満日記

どうやら編集者5年目に突入したらしい。丸4年ってことなんだけど、「5年目」突入って言うと「そんなに経った?」と思う。

原因不明にまぶたが腫れて困っている。読書量が増えたせいか、それに比例して酒量が増えたせいか、もしくはその両方か。あるいは仕事のせいか、人間関係のストレスか、うーん思い当たる節しかない……。

さらに、料理や家事をこまめにやっていると、6月だというのにまだあかぎれが治らない。べつだん凝ったものを作っているわけではなく、面倒だからとろくに火を入れなくていい野菜や納豆ばかり食べているとさすがに元気がなくなってきたので、肉を食べなければと思い、ある日スーパーにとことこ歩いて行ってカゴに厚切りのステーキ肉だけを放り込み、まっすぐに帰って塩で焼いてそれだけ食べた。焼き加減は気を使ったけれど、考えるのも面倒でつけ合わせも主食もなし。なんでこんなことをしているのか、自分でもよくわからない。サバンナのライオンもたぶんわかっていない。生きるということがよくわからなくなることはある。特に、休日なんかに(人生って長いな……)と思い始めたら、わたしにとってはそれは警鐘なのだ。

さいわい、まだそれを警鐘と察知できるほどには落ち着いているというか、危なくなったら肉を買いに行く判断力も残っている。ステーキのおかげで気力を取り戻しはしたが、文学フリマ東京参加者のポストを見ているとなぜだか別件で落ち込んでしまい、そこからはさらに小さく暮らしていた。ジムに週4くらいで行くのを3週間続けた。スマホにゲームをインストールしてちくちくこなす。それがなんであれ、やることがあるというのは助かる。

それでも久しぶりになにかしら生産的な活動をしたいと思い、noteのマガジンのヘッダー画像を簡単に作ってみたりもした。無料テンプレートをいじっただけのものではあるが、やりたいと思った夜にすぐにしあげ、ささやかな達成感を味わう。それから、爆発する前に……と、自分だけにのしかかっているようだった負担を少し分担してもらう交渉をしたら、効果が見られた。翌朝起きたら「あっ大丈夫になったぞ」というのがわかり、そこから天啓のように「雑誌が必要だ!」となり、またてくてく歩いて行って本屋で雑誌だけを買った。近くのカフェですぐに読み始め、そして読み終わった。金曜なのに酒を飲まなかった日。2時に寝たらなぜか4時に目が醒めて6時に「だめだこりゃ」となって散歩に出かけた。行ったことのないパン屋を探して朝ごはんを買おうと思ったら臨時休業で、それが立て続けに2軒。そういうこともあるのだ。7時から開いてるパン屋同士は絶妙に遠く、これだけで一時間近く散歩できたことになる。

3軒目にようやく開店直後だったパン屋は、洗練されすぎておらず、手に取りやすく、しかも焼き立てだった。名前がわからないけれどチョコレートが練りこまれたパリパリのパンがものすごくおいしかった。ごく近所にお気に入りのパン屋があるものだから、徒歩圏内でもぜんぜん開拓してなかったのだな、と気づく。

これに味をしめ、午後も気分新たに喫茶店を開拓したくて早めに家を出た。家から目的地の途上で、休憩地点になりそうな場所を、お腹の空き具合と合わせて算出しただけの、ほんとうになんとなく選んだカフェだったのだが、そこが大当たり。

まず、パスタランチセットでワインが追加料金なしで選べる。しかし今日はこのあと展示をふたつ見たかったので、たっぷり1分悩んだ末、アイスコーヒーにしておくことにする。

次に、セットのサラダのドレッシングが「なんだこれ?」という旨さで興奮する。通常、街角のカフェのランチセットのつけあわせのサラダにそこまで期待したりはしないものだ。今までにどこかで食べたことがあるうまみには違いないのだが、それがこういうお店のドレッシングと結びつかず、正体不明のまま悶えながらさらえた。

それから、本日のパスタ……炙りチーズときのこのミートソース。ここでわたしはなぜランチセットのドリンクでワインが選べるのかを分からされた。ミートソースがうますぎるのだ。パスタの分量に対してミートソースの量が多く、これだけで酒のあてになること間違いなしの濃さ。残ったソースを休み休み味わっていたら、サラダのお皿を下げにきた店員さんに下げられそうになったので焦り、よほど追加でワインを頼みたかったが、ランチセットでアイスコーヒーを頼んだ客が急に覚醒したようにワインを追加したりしたら怖いよねと思い直す。

うまサラダとうまパスタ
つよつよアイスコーヒー

食後に、泣く泣く選んだアイスコーヒー……まさかこれがラスボスだったとはね。コーヒーにぶん殴られたかと思った。液化した炭を飲んでるのか?というほどに強く、豊かで、味がずっと先のところまでキラキラしていた。こんなにごついアイスコーヒー、かつて飲んだことがない。放心状態でお会計をするとき、レジに豆が置いてあったのでそれとなく訊いてみると、アイスコーヒーの豆は別にブレンドしておりここで売っていないとのこと。と、そう説明してくれた男性がもしかしてここのマスターなのだろうか……すごくサーファーっぽいけど……きっとそうなんだろうな。サーファー……? いや通おう。と、そのようなひとときを過ごしたあと、日射しの下で御所をつっきり、京都市歴史資料館へ。以前から気になっていた特別展「八瀬の歴史をまもり、伝える」の展示と、株式会社修美による文化財や美術工芸品の修復事業について学んだ。

そのあと、本田征爾さんの個展「‐明るむ音 微睡む巳‐」へ、Bonjour! 現代文明にお邪魔した。ライブも見た。F.H.Cの変拍子が心地よい。
本田さんの個展は二度目だけれど、年に一回京都で作品を見られるのが楽しみで仕方がなくなっている。幻想的な絵画作品と、立体作品。絵画もかなり好きだが、幻想的な絵から飛び出してきたような立体作品は、一転して、とても愛らしい感じでそこに生まれている。連れて帰りたいほどである。手元で愛でたい。ああ愛でたい……。しかしとりあえず身の丈にあったものを……と思い、SNSで拝見してから気になっていたピースの古い空き箱に絵付けされた作品を購った。句とかZINEの話を少ししてから辞す。

会場をあとにすると、昼間の熱気も夜風に流されて心地よい。歩いているとなんとなく飲みたくなって、近くの酒屋で缶ビールを、薄いの(バドワイザー)と濃いの(ピルスナーウルケル)を買った。キンキンに冷えているうちに飲みながら川まで歩き、小川の側に腰を下ろして、風とせせらぎだけの薄暮にゆっくりと飲み干すのは本当に気持ちがよかった。少しく酔ったのか、自分がここ数ヶ月のあいだ、何に対して感情をむけてきたのかをじっと考えた。一方で、もういい加減こういう状態にも飽きたなとも思う。これを開放するにはいかって発散するしかない。怒りは上手く還元すると、ここ2週間どこを探しても見当たらなかった、エネルギーとして使うことができる。何も攻撃性とかじゃなく、まず立ち上がるための最低限のエネルギーを、どこかから捻出してこなくてはならないのだ。そこからようやく歩み出せるというものだ。そもそも、這いつくばってでも成したいものごとが、わたしにはあるのだ、だからもうこれ以上うずくまっているわけにはいかないのだ。

その夜はアラームをかけずに寝て、起きたらバッとInDesignを立ち上げて制作を開始した。とりあえず職場のとはバージョンが違うから、慣れるために蟄居通信のビジュアル版(瓦版)のテスト制作。

瓦版蟄居通信の発想は小学校でつくるような「かべ新聞」。もしくは雑誌の1ページ。今の時代って、UI的に1枚のコンテンツが好まれるような気がする。印刷するとしても数十円で済むような…だから瓦版なのである。訴求力…自分に足りないもの。

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京都での気ままな暮らしを綴っています。日記ですが、毎日書けないので二十四節気ごと、つまり約15日ごとにつけています。それで「二十四節記」と…

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