日本の医療ないし介護に関わる問題につい重要なこと

 わたしが一番重要と考える問題は、サービス付き高齢者住宅(以下、サ高住)の居室 に キッチン設備 がないことである。なぜなら、入居者である高齢者にとって、それは食生活における主体性の喪失につながるからだ。
 サ高住になぜキッチン設備がないのだろうか。それは3つの側面、すなわち法律、経営者の事情と家族の事情がある。
 高齢者の居住の安定確保に関する法律では、居住部分の床面積は25㎡以上、原則として台所、水洗便所、収納設備、洗面設備、浴室を備えたものとしている。ただし、「共用部分に居室と同等以上の居住環境が確保される場合には、居室には要しない」という例外規定がある。これにより、キッチン設備は約2割にしか居室に設置されていない。
 経営者側の事情に関しては次のことが考えられる。サ高住建設が開始された時期には、多額の国庫補助金があてられていた。また相続税法改正と時期が重なっていた。このような背景のもと、多くの異業種が参入したため、施工管理の効率化が優先され、また工事予算も圧縮された。
 家族の事情としては、安全リスクを最小限におさえたい気持ちと入居費用の予算に限りがあることである。居室にキッチンを備えると、火災やガス漏れなどのリスクが高まる。また、居室にキッチン設備がある施設は一般的に高額になる。
 さて、居室にキッチン設備がないと、なぜ入居者の食生活における主体性の喪失につながるのか。
 自宅で暮らす健康な60 歳以上を対象とする台所家電使用の現状調査によると、電子レンジ、冷蔵庫、ポットなどを毎日使用している頻度は高かった。サ高住の基本入居者は60歳以上の自立高齢者、軽度の要介護高齢者である。「今までしてきたこと・今できること(残存能力)」を継続できるように周囲が支援することが、高齢者の要介護度を上昇させないために重要である。高齢者の残存能力を維持し、主体性ある生活を喪失しないために、キッチン設備は必要なのである。
 では、このような状況を改善するためにはどうすればよいか。
 まず現状を発信する。キッチン設備の設置場所と使用状況の現状調査と、家族に遠慮せざるを得ない高齢者自身の声を拾い上げ、その結果と問題点を発信する。次に考え方を発信する。食生活における主体性を維持することは、高齢期の心身の健康に重要であり、そのためにキッチン設備は必要であるという考え方を、サ高住経営者、建築設計者、高齢者家族、そして高齢者自身にも発信する。
 居室にキッチン設備がある施設のニーズが高くなれば、居室にキッチン設備がある仕様が標準になる。その結果、要介護度が上がらず、自立したサ高住生活をより長く楽しむことができるのである。

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