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香りの歴史の新しいページ

「革新的な論文を次々と発表する新進気鋭の研究者」などというと、メディアがこぞって取材を申し込む華々しいイメージがある。
しかし、私が修士課程で学んだことは、「知られていないことはたくさんあるけれど、1つの論文で書ける新しいことは、先行する論文に1ページ加えるどころか1行程のメモを残すくらいなものだ」ということだ。まして、修論で書けることなどメモにさえならないかもしれない。
世の中に新しいものを送り出すということは、分厚い歴史書に桜の花びらより薄い紙を1枚貼り付けるようなものなのだろう。

私はプロではないし、鼻の解像度だっておそらく平均的なところだから、素人の戯言程度に思っていただきたい。

何をもって「名香」と呼べるのか。について、ずっと考えている。
古い時代に作られたからということでも、高価な香料を惜しみなく使っていることや、調香に長期間かけたからでもなく、爆発的に売れたからでもないと思う。
フレグランスの歴史を変えたもの、人々の意識を変化させたもの、社会の変革に寄与したもの等、要するに人の琴線に触れる嗅覚的体験の変化を起こしたものではないかと考える一方で、もっと単純に、人が普遍的に良い香りだなと感じるものかもしれないと思う。

科学の発達により、現代ではより多くの香料が使えるようになり、香調(香りのジャンル)も増えた。真剣に良いものを作ろうと思えば、それは大変なことだが、素人でも好きな香料を掛け合わせて作ろうと思えばできる時代だ。
しかし、その中からいわゆる「名香」と呼ばれるものは生まれにくくなっているように感じる。
フレグランスがお手軽になってしまったからなのか、いち研究分野が研究し尽くされてしまったからなのかはわからない。
ここ数年以内に作られた革新的で素晴らしいと思うようなフレグランスだって「名香」として100年以上残るものかわからないのだ。

それに加えて、センセーショナルなネーミングや、派手な広告に頼るフレグランスも多くなってきたように思う。
フレグランスの過去を踏襲するとは何なのか、マーケットシェアだけがフレグランスを評価する指標なのか、フレグランスに携わる方々にそんなことを考えてみてもらいたい今日この頃だ。

フレグランスの歴史に新たな1ページを綴ることは困難なことだ。フレグランスが生まれて後世になればなるほど、その難しさは計り知れないのだろうと思料する。

クリエーションディレクターの役目は、時代遅れにならずに、この過去を蘇らせること

調香師 フランシス・クルジャン:ドキュメンタリー映画『Inside the Dream Dior』


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