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【小ばなし】レレレのラ・ラ・ランド

同志Aからのお題:身代わり

 

「おやおや、新吉じゃないか」
「あっ、これは御隠居。おはようございます」

「朝からどうしたんだい。土を車に山積みにして、通りを行ったり来たり。しかし何だ、昔から忙中閑ありと言うじゃないか。ちょっと上って、冷たいお茶でもおあがり。準備するから、瓦版でも読んで待ってなさい」
「ありがとうございます。ちょうど喉がカラカラで。お言葉に甘えて、一杯いただきます」

「あー、冷え冷えでうまい」
「唐国渡来の香片茶じゃ。さあ、もう一杯」

「さて、新吉よ。朝から精が出るのはよいが、一体何をしているのじゃ」
「実は御隠居、うれしい仕事ではありませんが、お上のご命令で、南蛮国に差し出す出島を造っております」
 「ほう。先の戦で南蛮国に占領された土地が、ようやく返ってくると喜んでいたら、返してやってもいいが、その代わり別のところに最新の陣地を造ってよこせ、と言っているアレか。戦に負けたはといえ、南蛮国にモノが言えない幕府も情けない。出島の造成は、大層難儀な作業と聞くが…」

 「もう、本当の底無しです。埋め立てやすい浅瀬から作業を始めておりますが、この先にマヨネーズ並みの柔らかい地盤が…何でも深いところは海面下90mまで存在するとか。その軟弱地盤にを7万本もの砂の杭を打って「地盤を改良する」って、お上は言い張っているんですが、そんな作業ができる船は、わが国には存在しないんです。しかも予定地には活断層が2本走ってるって話もあって」
「無謀じゃな」

「わしらの税を注ぎ込んで、完成できるかどうかわからない工事してるんですよ。南蛮国に約束したからっていうお上のメンツだけで。まあ、こっちも商売だから、ご命令通りに仕方なく土運びしてますが、本当にこれでいいのか、訳わかんなくて…」
「過ちに気が付いたら、幕府も途中で引き返す勇気が必要じゃのう」

 「それで、さっきお茶を飲みながら、ふと思いついたんですよ。無理な工事をしなくても、南蛮国の陣地にぴったりの土地があるってことに」
「それはどこじゃ」
 「都の外れに、とある瓦版屋が広大な土地を持っているのはご存知ですか」
「ああ、何とかランドとかいう。さすが、わが国で一番の瓦版屋だけに、遊園地にゴルフ場に野球場…実に広々としておる。本業より盛況かもしれんな」

「そのラ、ラ…ランドは出島がすっぽり入る面積なんです。これを使わない手はない。美しい海の身代わりになればと、土地を“寄進”すれば瓦版屋の株もぐーんと上がるってもんです。都の防衛の要にもなる。しかもお上に近い瓦版屋だ。お殿様の『レガシー』づくりのお手伝いで、主筆も鼻高々という訳です」

 「いやいや確かに妙案」
「でしょ、ナイスアイデアでしょ」

 「しかし新吉よ、「身代わり」とは言い回しが少々物騒じゃ。
ミ代わりだけに、ドを越してはならぬ」

「レレレのレ!」

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