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【展覧会鑑賞後記:『地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング』展 〜青野文昭 作品評〜】

【境界の磁場、郷愁の彼岸】

壮大な一つの“磁場”を形成している空間に足を踏み入れる。
高く積まれた箪笥の狭間で、
ヴァナキュラー的な写真・雑貨類がディティールをなす。
廃墟をも思わせる壁面群を巡り
路は神社の境内を模した象徴的な“場”へと終着する。
集積された古物が発するすえた匂いに、
遠い記憶の断片を呼び起こされた…。
 
感受性の寛容さを保てていた幼少期の夕暮れ時。
路地裏を抜け、
気がつくとフと足を踏み入れていた未知な場所。
見慣れた景色と地続きであるはずなのに、
決して立ち入ってはいけない地に、
辿り着いてしまったのではないかという奇妙な焦燥。
しかし同時に、どこか不可思議な魅惑さに、
どこまでも引き寄せられる感覚もあった。
そう、確かにあの場所には、
見慣れた世界と異世界の境界に湧出する“磁場”があった。
 
幼少期の記憶に残るあの場所は、
神社の境内だったのかもしれない。
そこには黒い陰影だけの何かが横たわっている。
レヴィナスが言う、“私”の内に在る“他者”の投影を、
私の“身代わり”としての“覆われた絵画”のように、
身体的に感受した経験だったのではないか…と、
青野作品を後にする道すがら、不意に思い当たった。

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