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『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』 井上芳雄さんのクリスチャンについて

※レポではない主観強めの感想です。
※タイトルのとおりなので他のことにはほぼ触れていません。
※Wの甲斐くんや他のキャストの皆さんを含めた感想は下書きにしたため中…my楽後に思いっきり書きます!✍️



夜寝る前も、朝目覚めても、そこにいる。取り憑かれてるんだ。

アブサンを呷る前の、サティーンに取り憑かれてる「ショーのことは考えられない!僕はもうサティーンのことしか考えられない」なクリスチャン状態であることを認めれば楽になれると思って供養!セリフの中の「サティーン」を彼が演じるクリスチャンに置き換えたいほど熱に浮かされてる。作品違いだけど「早く認めるんだ俺への愛を」ですね、トート閣下。閣下とお呼びした方が良いかしら?(byサティーン笑)あんまりにも心奪われてしまったので一旦私の中で吐き出すためのnote。

来年の再演が公式発表されて本当に嬉しいし、Your Songの訳詞に掛けて「なんて素晴らしいムーランルージュのある世界」という気持ちで、見える景色が明るくなったような気持ちすらする。『ムーラン・ルージュ・ザ・ミュージカル!』、大好きになりすぎて、確保したチケットが1枚ずつ減っていく寂しさを抱えながら帝劇に通ってたんだな…と再演発表を受けた安堵感で思い知ったところがある。

そして再演も嬉しいんだけど、来年までもう浴びられないの…?って本気でロスになりかけてるほど千秋楽があまりにも良くて。回数重ねるごとに新解釈を提示しまくるの、残りの出演回全部見たくなるのでやめてくれませんか…?ってなった。沼の深さが強すぎる。でも千秋楽で見せてくれたクリスチャン像が個人的にベストヒットすぎたので、しばらくその記憶にすがりながら生きてくんだろうな…ウッウッ…少なくても次の公演が始まる前までは…ラグタイム初日が芳雄さんのムーランルージュ千秋楽から2週間後という脅威のスケジュールに私が白目。再演が約束された来年が待ちきれないよ〜!(全員揃って再演発表したのだから全員続投だと信じてるよ!!)公演の回数だけクリスチャンの解釈が生まれるんだろうと勝手に思っているけど、いつか公式解釈が聞きたいのでバイマイでお話してくれますように。再演決定を舞台上で発表する時に「2014!」と言い放った平原タイムスリップ綾香さんの如く言うのであれば笑、ムーランルージュの本番とラグタイムの稽古の間にのど自慢や24時間テレビに出てしまう井上テレポーテーション芳雄さんなので、多分過去を振り返ってる時間すらないんだろうなというのは徐々にわかってきたところ。
ちょっと話はそれるけど、博多座エリザベート後のバイマイで『最後のダンス』を歌われた後、「僕の2023年のエリザベートは完結」と幕を下ろす流れがものすごく綺麗だった思い出。

井上芳雄さん、もはや「生きるエンタメ」だと思ってます。ありきたりな言葉で恥ずかしいけど(Your Song)、シンプルな言い方をすると、見せ方が派手で華やか。有無を言わせぬ圧倒的な歌唱力。それでいて喜怒哀楽の表現やそこにたどり着くまでの過程も毎回違うので、観ていて飽きないどころか、何回でも見たくなる。芸が!細かい!今日はこないだとここが違ったな〜とか考えるのも面白いけど、そんな考察すら野暮なんじゃないかと思えてくるほど、ただただ「考えるな、感じろ」と浴びせてくれる。

芳雄さんの魅せ方には年齢の概念は無いんだなとは念願のmy初日となった本公演初日に強く思ったけど、サティーンよりも人生や社交界の経験が浅いクリスチャン像に寄せにいく芳雄さんの無敵の立ち回りがすごいなと毎回感動していたなぁ。経験のなさ故にサティーンに即メロメロになってしまうウブなクリスチャン像が、百戦錬磨のミュージカル界のプリンスの掌の上で転がされる形で成り立ってるなんて、その事実を考えるだけで鳥肌立つ。もはや何でもどんとこいと言わしめるような圧倒的安心感。
プログラムのサティーン役とクリスチャン役4名の鼎談の中で、「みんなと違って役と離れてる」という言い方をされていたのも、こないだの芳雄のミューで「何にでもなれる、俳優だから」とめちゃくちゃ刺さる言葉を発していたのも印象的。具体性を帯びないからこそ、サティーンと同じように“ファンタジー”にも見えるというか。しかし、「何にでもなれる」って、ムーランルージュで無双してる芳雄さんそのものすぎて、説得力が強すぎるぞ。

「エンタメを浴びたぞ!」という観劇後の満足感とともに、こんなに完璧な人が若気の至り故のどうしようもなさや、愚かさ故に引き起こした悲劇の見せ方が上手いので、それも含めて本当にツボすぎてどハマり案件。演劇史上最悪(だとジドラーに語られる)なリハーサルで、サティーンを我が物顔で寵愛する公爵への嫉妬が爆発して暴走するクリスチャンに「何もかもが台無しよ!」ってサティーンが言うけど、本当に、何もかもを台無しにするクリスチャンが哀れで可哀想であるほど燃えるよ…完璧な人がどうしようもない役を演じてくれる時の、愚かさや狂気に垣間見える色気がとても好き。

出ずっぱりのクリスチャン無双(曲順)

ここで終わらずに、今日の私は止まらないのでもう全部書きますね。何から書こうか悩ましいので本編時系列順に、曲順に行きます。
ナンバーを書き連ねても、クリスチャンって出ずっぱりなんだなと改めて実感。

Welcome to the Moulin Rouge!

「……なんて凄いんだ!!」はこちらのセリフだよ!!エロスの神がカスタネットを鳴らす‥…というより拍手を止めてくれないのならこの感動に身を任せいつまでも拍手してたいというのが本音。拍手を止められない客席と、なかなか次のセリフに移らず舞台上のカンパニーへまるごと拍手を浴びせ続けるためにリアクションの引き出しコレクションを順番に披露してくれる芳雄クリスチャン。頭抱えたり両手突き上げてはしゃいだり、可愛いの権化。(「可愛いの前では服従、全面降伏」だと逃げ恥のみくりも言ってたけど、それに近い気がするよ…)千秋楽はもう止まらない拍手と歓声に対してクリスチャン自身も歓声あげちゃって「Foooooo!!!!‥…なんて凄いんだ!!」という新たな展開で楽しかった!オープニングからあんなに歌って踊ってこんなに盛り上げてくれてただただ感謝。当たり前のことだけど、プレショーを皮切りに、カンカンを含めたこの大ナンバーで幕が開いたムーランルージュ、やっぱり最高にぶち上がるよ。こんなエンタメの結晶を浴びて良いんだろうか、こんな贅沢なことあって良いんですかと未だに実感が湧かないほどの非日常空間。

プレショー後、本編の幕を上げるのもクリスチャン。千秋楽を終えた今思うのは、この構成は、物語の最後にサティーンとお別れした後、数日が数週間に変わり、数週間が数ヶ月になり、サティーンとの物語を引き続き作曲し続けてる頃のクリスチャンの回想が始まる、ということなんだよね。幕を上げるほんの少し前に目の色が変わるのも好きです。サティーンを亡くした喪失感だけでなく、2人の物語を今から聴かせるんだという覚悟と、聴かせてやるから心しておけよという挑発のようにも感じて、何重にもわくわくした。

Truth Beauty Freedom Love

多分何度か同じ表現しちゃうかもしれないけど、芳雄さんのリズムの取り方がまじで好きです。曲調もあるけど、体幹強すぎない…?身体全体使ってるからこそのパフォーマンスなんだなと恐れ慄く。リズムの取り方が好きなのはこの曲と、Crazy Rolling。超前方列で観劇できた時に「We are Young」をマイクを通さず直接浴びた生声が忘れられない。ロートレックとサンティアゴと、4コマ漫画のような速さでほわ〜っと打ち解けていく様子も好きです。

Shut Up and Raise Your Glass

次のYour Songではサティーンの心をクリスチャンが溶かすけど、ここではサティーンにリードされて、固く縮こまってた身体が解放されていくのが本当に可愛いし、解き放たれた後の引き込み方恐ろしいな…?ってなる。本当に盛りがある大好きなダンスナンバー。サティーンに襟を掴まれて誘惑される構図、舞台写真にしてください。。
サティーンのSparkling Diamondで骨抜きにされたり、「ママの仕事ぶりを見ていてニャーン!🐾」を受けたにゃんこの手や脚の真似っこ、このオフマイクでのお芝居もとても好きだったな。まじでこの作品、オフマイクでの見所も多すぎて目と耳が足りないのですよ(真顔)。

Your Song

一節歌うだけで世界が広がっていく、芳雄さんの真骨頂のような場面。全編通して観た後だと、真骨頂は2幕のCrazy Rollingに至るまでの畳み掛ける3曲かなとも思うけど、やっぱりYour SongやElephant Love Medleyも外せないよ。「精一杯の愛を贈ること」、両手広げて思いっきり愛を表現してくれるクリスチャンの勢いに、思わずサティーンも座り込むよね。
ところで、サティーンの身長に合わせて膝折キスまでしてくれるクリスチャンが良すぎないか…?勿論両パターン好きなんだけど、もう本当に無我夢中な様子が大変に刺さってしんどい。唇奪われて、ドアのノック音が聞こえてようやくサティーンに唇を離された時の完全に骨抜きになってる溶けそうな目、感覚が全部唇に持ってかれて全身の力抜けちゃってるんだろうなとわかるピュアな様子、しばらく忘れられないので…Chandlierもそうだけど、色事やお酒によって心を奪われる時の目、本当に細かくて、そうだ私好きな人の目(あと手)を追うのが好きなオタクだった…という自我を思い出したぞ。

So Exciting!

伊礼さんがTwitterで「芳雄クリスチャンが飛び跳ねてた」と呟いてたけど、いやほんとに相当楽しそうだった。公爵を囲んで5人でぐるぐる回るところ、ダンスフロアみたいな時もあれば、水溜りを大きく飛び越えるような時もあって。遊びがあって好きすぎる、こういう時に垣間見える余裕よ…(惚)
ここでの即興劇がのちの劇中劇に繋がっていくけど、即興とはいえ劇中とはいえ、サティーンと後任カップルになれるクリスチャンの喜びに満ちた表情も可愛すぎてたまらんの気持ち。

Nature Boy

「彼女、知りたい!!」ってキュルンとしたお顔でロートレックの思い出を引き出すクリスチャン。2人とも声がスーっと染み渡ってくるのがとても良くて、心地よさを感じるシーンではないかもしれないけど、サティーンの過去も踏まえた上で、彼女の人生があることもわかった上で、それでも覚悟を決めて彼女に飛び込んでいくクリスチャン。ロートレックも、歌の途中で気持ちが変わるんだよね。(ロートレックは、クリスチャンの前ではサティーンの人生を問い、サティーンの前ではクリスチャンの未来を問うので本当に難しい役だよね…)バイマイで芳雄さんが訳詞を担当されたジェーン・スーさんとデュエットしてくれたのも嬉しかったな!

Elephant Love Medley

「僕が恋人になろう」「僕と星を旅しよう」、その言葉一つ一つに説得力を持たせられるの本当にすごいなと。人生経験がないからこそ、無知であるからこその自信や勢い、「結構ハンサム」とサティーンに言われる顔の良さ、彼女の心を動かした曲の力。クリスチャンのこれまでの武器は正直このくらいだと思うんだけど、ほぼ丸腰であろうと、それだけあれば十分なんだと思わせてくれる。
他の俳優さんにも勿論言えることだけど、芳雄さんの空間支配力も本当に凄くて、歌わなくたって飲み込まれていくし、それが正義だと信じてしまう。あまりにも非現実的な誘いが続くので「ばかなの?」とサティーンに呆れられても、「そうなんだ!」っとむしろそんな自分を肯定して、サティーンにも客席にも笑いを提供して自ら道化に徹しながらも「All Need Is Love!!!」って窓に向かって叫びElephant Love Medley に突入し、笑って緩んだ空間を再び引き締め夢中にさせてくれるその凄さ。1フレーズずつ目まぐるしく曲が変わる1幕ラストの大ナンバー、まさにクリスチャンがその展開を動かし、サティーンの心まで動かしてくれるナンバーだけど、芳雄さんの引力にどこまでも導かれていたいと思ってしまう安心感。舞台転換後の星空のセットで、「僕と星を旅しよう」が実現するのも本当に大好き。

(千秋楽マジックの結果、「僕を信じて」とジャスミンを魔法の絨毯に乗せて空に連れ出すアラジンか…?って瞳孔開きっぱなしでぽやぽやしてしまった。あんまりにもかっこよすぎないか…?からの翌日ホールニューワールドを聴けるなんて誰が予想してた?未だに現実とは思えない夢みたいな展開。)

Backstage Romance

サンティアゴやニニをはじめとした、ムーランルージュのダンサー達が主役の大好きなナンバー、カッコ良すぎて最高にぶち上がるしかない。
密会の約束をしようサティーンに駆け寄るクリスチャンの大型犬ぽさ。曲中でストロボを浴びた後(「誰かをこき使って 誰かにこき使われて」のあたり)から、もうサティーンしか視界に入れないその徹底ぶりがすごいなと。大人数で構成する大ナンバーだからこそ、いかに当時のクリスチャンが自分本位になっているかがわかる。その状態でリフトされ投げられて、盛り沢山ですごいのでひたすら感嘆の気持ち。逆にサティーンはこのナンバーではクリスチャン以外だけに目線をやるのではなくカンパニー全員を見渡し、女神のように振舞うその対比が印象的。(望海さんのインスタのグリコポーズが忘れられん!可愛い!笑)

Come What May

「なんで!受け入れてる!!」いや公爵に支配されてるから表立ってサティーンと会えないこの状況を受け入れてないね可愛いね…あんなに1幕ラストのElephant Love Medleyで「僕を受け入れるんだ」とサティーンを何度も諭していたのに、2幕のCome What May前は「公爵に支配される状況を受け入れられないクリスチャン」が爆誕したのもあまりにも好き。
直接的な表現しちゃうけど、欲に支配されてる状態のクリスチャンはサティーンの唇をまず求めに行くけど、愛を確かめ合う時は唇に走らずおでこ同士をコツンと合わせる甘い構図だと思ってる。この対比が良すぎて!
Backstage Romanceの「決めた、今キスする!」も、Chandelierでアブサンの妖精を演じるサティーンを追いかけるときもそんな感じ。でも簡単にキスさせない妖精さんも好き!(笑)反対に、Elephant Love Medleyの曲途中(セット転換直前。でもELMは最後にキスで終わるけど、キスまでの過程が長くて好き。)や、ここでのCome What Mayも、愛が通じ合う時は、キスの前におでこ同士をコツン合わせて愛を確かめ合う。

後述するけど、千秋楽の2人のお別れ後、天に召されるサティーンに対するクリスチャンの最後の触れ合いがおでこコツンで終わるのが素晴らしすぎた。全ての伏線を回収する芳雄クリスチャンに鳥肌止まらないよ。

Chandlier

何回も書いちゃうけど本当に!芸が!細かい!と天を仰ぎたくなる。呷る、喉が焼けて悶える、目の色が変わる、覚醒しそう、いやまだ立てない、覚醒できない、辛い、何もかもみたくない!の流れが本当に細かくてずっと見てしまう。サティーンの幻影にすら吸い込まれそうになる。クリスチャンの青臭さがものすごく特出するシーン。
サティーンを忘れるどころか、もっと気持ちの強さに気づいてしまう展開。彼に夢中になってもはや彼と共犯になりたいと思いながら後半は観劇してた。のめり込みすぎ!(笑)

El Tango De Roxanne

映画でも見たクリスチャンの見せ場だ!という印象だったのに、千秋楽にはもはや芳雄さんの声を脳直で流し込む時間になってしまい本当に参りました。帝劇中だけでなく観てる側の内臓にまで響かせてくれるその技量に浸ってたら、千秋楽は比喩でなくびりびり痺れた。油断禁物である。中毒になってることを悟った。少なくともあと1年はこのロクサーヌを聴けないとか信じられないぞ…
欲望、情熱、疑惑、裏切り、ってジドラーが言葉を重ねるたびに変わっていく表情もたまらん。色んな感情が生まれて、怒りだけはなくで焦燥感でどうしようもなく、自らを追い詰めていく感じが最高にたまらなかった。「なぜに泣くのか」で目の色が変わり、指差し威嚇しながら後退りした回も良すぎた。

Crazy Rolling

本当に大好き。CrazyからRolling in thd Deepに曲が変わる時、バスドラムの音に合わせてブレることなく身体でリズムを刻みながらも、自分で制御できないほどの狂気に既に襲われているこの感じ。ドラムの低音が一定に深く響く中で、舞台上では一点を見つめ気持ちのままに進むしかない。等間隔なリズムと、どこでピークが来るかわからない感情の昂り。その両者のアンバランスさに一気に煽られる。千秋楽は、Crazyの「信じたかったそうだろう?」くらいからギア入ってたなぁという思い出。自分自身への嘲笑から怒りへ。1幕ラストではサティーンと2人で星を旅していたのに、今度は1人で星空の下座り込み絶望するしかないこの皮肉。
アブサンを飲んでサティーンを忘れるとか、アブサンの威力に冒されて発狂するというより、アブサンを飲んだことによって自分の中のもっと深いところに埋まっていた気持ちの強さが明るみになって、制御できなくなり最後は泣くしかない、という印象。「みくびるなよ 覚えておけ」の威圧感、「暗闇などもう怖くない」の強がり、そして声が掠れて涙声と歌声が混ざる「もう聴きたくない」まで。ここの「もう聴きたくない」が本当に可哀想で、でも芳雄さんのクリスチャンは味方したくなる不憫さというより、自業自得だよと突き放ちたくなる愚かさも感じて本当にたまらない。
「どうやって君を連れ出そう」=「自らとサティーンのどちらを消すか」、の極限の2択になってたんだな。劇中劇で使っていたピストルに込める弾を入手して、弾を込め、舐めるように銃口を見つめ、狂気に満ちてるけどその裏に隠されてるのは溢れんばかりの泣きの表情。赤いドレスのサティーンに現実を突きつけられたことで、Crazy Rolling以降は狂気に包まれるだけじゃなく救いを求めるような懇願も。そんな脆いクリスチャン像が物凄い好き。
あれだけ劇中で何度もデュエットしてきたサティーンと、ついにハモらずにぴったり同じ旋律を歌う「お前の魂 空に放ち その運命に感謝すればいい」のフレーズ、本当にありえないほどかっこよかったね… 2人のサティーンはどちらも歌唱力がずば抜けて高い俳優さんだけど、そこで溶けるのか、主張し合うのか、色んなパターンがあって最高に面白かった。

Your Song(Reprise)

千秋楽の芳雄クリスチャンの話をして良いですか。「僕を見て?サティーン…」の後、サティーンに歌いかけられてようやく2人で目を合わせられたこのタイミング。千秋楽は、ここで彼の中で何かが決壊したんだな…と表情がみるみる溶けていく光景が本当にたまらず、私も泣きそうだったけどここで泣いたら最後までこの光景を見られないぞと相当耐えた。
サティーンとのお別れは、少し前に1階のいつもはオケピになってる席で観劇できた時の(多分それが一番の前方席だったなぁ)、慟哭してもおかしくないほどの状況の中で生まれる声にならない波動に多分私の細胞までやられたところがあるんだけど(からののど自慢あたりで完敗である)、本当に色んなパターンがあって、舞台の上で生まれることこそ真実なんだと何度も思った。
2人に容赦なく振り続ける紙吹雪、もう動かないサティーンの上に降り落ちた欠片を拭う姿には、最後まで彼女を愛おしく思うような純粋さにも、彼女の死を受け入れられてない現実逃避のどちらにも感じて、その光景を観てるこちら側の時間も止まるような感覚に。
平原サティーンとの回は、最後にもう一度キスしようと彼女がクリスチャンの首に手を回そうとするけどそれが叶わず事切れてお別れ、という見せ方だと思ってるけど、キスが叶わず、最後に彼女を包み込みながらおでこを合わせにいくクリスチャン、待って、それ千秋楽でやる?って唸った。キスじゃなくて、おでこコツン。前述した、焦がれるキスと、愛のおでこコツンの個人的比較の伏線回収があり得ないくらい綺麗で、さすがにすごい。1幕のTruth Beauty Freedom Loveの曲前にロートレック達に言われる「天才だ!」でした、まさしく。

極限状態を演じてくれる姿に夢中になるというのは安易なのかもしれないけど、ずっと残り続ける燻りみたいなのが胸の中にあって、またそれが大きくなって一気に自分の中のストライクゾーンが広くなり、もう舞台に生きて何を歌ってどんな感情を見せてくれるだけでもたまらなく刺さる境地。というのが、ムーランルージュに通い詰めて芳雄クリスチャンを浴び続けた今の私ですね…

Finale(Come What May)

サティーンへの弔いなのか、役を解いた存在として訴えかけてくれるのか。まだクリスチャンなのか、芳雄さんに戻ったのか。役と俳優さん自身の狭間の絶妙な存在という感じがして、不思議な気持ちになるけど、だからこそ染み渡るカタルシスがたまらないな。

なんて素晴らしい君のいる世界

プリンシパルのWキャストで一番「なんでこの2人が同じ役…?」て謎に感じるのがクリスチャンだと思ってる。こないだまでトートとルドルフだったのにね!同じ「俳優」でも何倍のキャリアの差があるかわからない。実年齢だって親子役をやってもおかしくないほど離れてる。Wキャストなので色んな意味で比較されるわけで、お互いにとって相当なチャレンジだったんじゃないかな。でも2人のクリスチャンはどっちも正解を提示してくれた。このタイトルなのにここで甲斐くんのクリスチャンの感想を書くのは、お互いにとってフェアじゃないと思うのでまた改めて書くぞ。

あと、ラグタイムの稽古との並行も本当にすごい。どんなに無敵な俳優さんでもいつ何が起こるか分からないことは身を以て感じることも多い中、何十年ものキャリアを重ね、この界隈のトップを走り続けている状況を手放しに「当たり前」だと考えるのはファンの傲りなのかなぁと怖くなるし、多忙スケジュールにはさすがにいつだって心配な気持ちを寄せてしまうけど、プロの力を侮っちゃいけないなと。どんなに忙しくたって劇場では「1回きりの極上体験」を与えてくれるその信頼感。こないだ初めてキャスト固定のマチソワ観劇が実現した時にすごく思ったけど、ソワレだって、2公演目じゃなくで、1公演目ですけど何か?っていうくらい。芳雄さんの声が帝劇の天井破りそうな勢いで空間を包み込み自分の内臓まで響いてる時に、同じ時代にミュオタとして生きられる喜びを感じるのであった。まじであの時チケットを当ててくれて私を博多座エリザベートへ誘ってくれたプラみよ(突然)、ありがとな!なんて素晴らしい井上芳雄さんのいる世界。

最後に。『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』は「音楽」と「感情」どっちを大事にする?という裏テーマが確かにあるんだろうなと思ってる。配役ごとの観劇感想を拝読していても、それぞれのキャストに焦点を当てられてるし私も共感の嵐だけど、どっちもできちゃうのは単純にすごいなぁと感嘆する日々です。そして皆さん、片方に強みがあろうとどっちもできちゃうからオーディションで選ばれてきた。リズムや旋律があるからこそ曝け出せるものがある。シンプルなラブストーリーや王道な悲劇であるからこそ、見せ方も無限大。それは芳雄さんだけでなくどのキャストの皆さんも。みんな違ってみんな良いんだということは何度でも言いたい。おわり!



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