【連載小説】Another Life
第3章 『潮風の街で』
⒊
橋をまたいで細く流れる川の斜面を降りた柔らかい緑の 床に腰をおろし、私たちはティータイムを思い思いに楽しん だ。風に乗った潮の香りが時おり強くなる。それもまた良い感じである。
お茶うけの会話は、夏子がほぼ一方的に楽しそうに喋っていた。母のDNAを継いで絵の得意な妹は、部活には入らず 一年生の有志で漫画サークルを立ち上げたこと、購買のベーカリーが美味しくて大人気だけど昼休みに買うのが大変なこ と等々。
だが、話が一息ついてケーキドーナッツを頬張った彼女に実家の様子をたずねると、顔がすこし曇った。
「ナツ、ウチでなにかあった?」
「べつに...ママは忙しそうだよ。絵の会もお華もまだ続いてるし最近はクッキング講座にも通ってるみたいだし。」
本題はそこじゃないだろうと言いたいのを飲みこんで、黙ってうなずく。何も言わない方がイイという直感だった。
「あいつ...(烏龍茶をゴクリと飲んで)ほとんど帰って来ない。」
それは前からだ。
「ぶっちゃけ居ない方が平和だからイイんだけど。アタシらに痣も増えないしさ。」
ドクン...ドクン...心拍数あがってきた、と同時に抑えきれない怒りもこみ上げてくる。
「マジな話、今度やったら直ぐに警察へ電話しなよね、謝っても躊躇うコトないから。」
「わぁーかってるってば。」
妹の明るさに救われる思いだ。
そして、
「ところで、お姉ちゃんウチ出てどうなのさ?アタシぜーんぜん教えてもらえないんだモン。」
と、ふくれてみせた。
「アハハ、わるかったよ。話す話す。」
私たちの表情はいつも通りだった。
〜次回へつづく〜
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