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【知の勉強会】アリストテレスのニコマコス倫理学に学ぶ「幸福とは?」

みなさん、お疲れ様です。広報・岡田です。

今回は新企画「知の勉強会」として、みんなと学びを共有する記事にしたいと思います。

先日の全体ミーティングで、今期のテーマとして“学び“というキーワードが挙がりました。この「知の勉強会」は、グリニッチが大切にしている考え方=Life Placeを体現している人やもの、エビデンスになる情報をみんなでシェアする場です。私たち一人ひとりをLife Placeを深く理解し、広く提案していくことを目的としています。

第一回は、誰もが一度は耳にしたことがあるであろう哲学者、アリストテレスが提唱した「幸福論」を取りあげたいと思います!

アリストテレス『ニコマコス倫理学』

アリストテレス

アリストテレスって、名前は聞いたことはあるけど、何をした人かと聞かれると...💁‍♀️❓という方も多いかもしれません。

アリストテレスは、紀元前384年生まれの古代ギリシアの哲学者。 プラトンの弟子であり、ソクラテス、プラトンとともに、西洋最大の哲学者の一人とされています。形而上学、政治学、倫理学、生物・動物学、天体学、自然学、詩学などの分野で多大な業績を残したことから「万学の祖」と呼ばれています。

『ニコマコス倫理学』

アリストテレスは、人生の究極の目的は「よく生きること」であるとして、史上初となる体系的な倫理学を確立しました。もともとは講義用の草稿だったものを、十巻の巻物でまとめたのが「ニコマコス倫理学」です。人はいかに生きるべきか?という単純にして根源的な問いを徹底的に考え、「幸福」を明快に定義してみせた西洋哲学史の金字塔と言われています。

今回どうしてアリストテレスの話を取り上げるのか?それは、アリストテレスが「ニコマコス倫理学」で唱えている幸福論が、グリニッチが提案したい「Life Placeをつくる」という考えのエビデンスとなるのでは?💡という両者の共通点に気づいたからです。2,000年以上前(!)の、しかもあのアリストテレスの考えとなると、これ以上のエビデンスは他にないのでは…?!ということで、ここからはアリストテレスが唱えた幸福論について、要点を絞って説明していきたいと思います。

幸福とは?

アリストテレスが唱える倫理学は「幸福論的倫理学」と呼ばれています。一言で言うと、「幸福とは何か」「どうすればそれを実現できるか」を考える倫理学です。

アリストテレスは幸福について、「人生の目的には階層があり、その究極目的が『幸福』である」と唱えています。

例えば、大学受験の勉強をしている学生に、こんな質問をしたとします。

「何のために勉強をしているの?」
→「大学に入るためです」
→「ではなぜ、大学に入りたいの?」
→「専門的な知識や技術を身につけたいから」
→「それはなぜ?」
→「よい社会人になりたいから」
→「なぜ?」...

人間の行為は何かしらの目的、その人にとっての価値を目指しています。その行為に対して「なぜ、なぜ」と”その目的は何か”という質問を続けたとき、それ以上「なぜ」と聞けないこと、つまり”究極の目的”こそ幸福である、とアリストテレスは言います(「なぜ幸福になりたいの?」という質問の先は答えられない!)。

でも、「究極目的が幸福」という理論は分かっても、その幸福の内実は様々。自分にとっての幸福と、他の人にとっての幸福は違いますよね。

アリストテレスはその説明に、私たちの生活には三つの類型があるとしています。

一つ目は、「快楽的生活」。これは、快楽すなわち幸福と考える生活です。少しでも多くの快楽を味わうことこそが幸福な人生である、という考え方です。でもこれは安定せず、多くの場合長続きしない幸福です。

二つ目は、「社会的生活」。社会のなかにおいて、しかるべき役割を果たすことによって自己実現していくことが幸福だと考える生活です。

三つ目が、「観想的生活」。この世界のありさまをありのままに見てとる、真理を認識することこそが幸福であるというもので、哲学者の生活とも言えます。

ニコマコス倫理学では、三つの中でも「社会的生活」において幸福になる方法が大半を占めています。「人間が持っている可能性・能力を、可能なかぎり現実化していくことによって達成される充実した在り方、そこにおいてこそ幸福が見出される」。つまり、自己実現こそ幸福であるということを、アリストテレスは唱えているのです。

自己実現というと「マズローの欲求五段階説」が有名ですが、それも20世紀半ばのこと。実はそのはるか昔、紀元前400年も前から、「可能性」や「現実化」という概念を、最初に本格的な仕方でつくり出したのがアリストテレスだった、と言うから驚き!

幸福に不可欠な「徳」

ではどうすればその幸福は実現できるの?
「幸福になるためには人間としての力量、すなわち徳を身につけることが必要である」とアリストテレスは言います。

ここで登場する「徳」の考え方がとても重要!🙋‍♀️

徳はギリシア語で「アレテー」といい、これは「卓越性」「力量」と訳されることもあります。ここで言う「徳」は、「徳を積む」などで言う“良いこと”の意味ではなく、「内に漲っている力」を意味します。例えばアレテーの言葉の使い方に、「ナイフのアレテー」のような言い方があります。ものがそのものとして優れた働きを為すことができるように高められていること、それが「徳」のある状態とされているので、「アレテーのあるナイフ」は、「よく切れるナイフ」を意味します。

人間が生まれながら持っている可能性が実現し、より充実した力強い人間として優れた働きができるようになる、それを可能にするのが徳なのです。

様々な徳の中でも、極めて重要なものが4つあるとアリストテレスは言います。それが、「賢慮」「勇気」「節制」「正義」です。「賢慮」は判断力、「勇気」は困難に立ち向かう力、「節制」は欲望をコントロールする力、そして「正義」は他者や共同体を重んじる力を意味します。全ての徳が「力」という観点から捉えられているところがポイントです。人間としての内的な力を身につけること=徳を身につけることで、元々持っている可能性が現実化して、充実した働きができるようになる、すなわち幸福になるのだ、とアリストテレスは唱えているのです。

徳を身につけるには?

「徳を身につけることが、幸福になるための前提条件である」ということがわかりました。では、徳を身につけるためにはどうしたらいいのでしょう?

一つは、モデルを作ることです。例えば技術を身につけたいと願う人は、その技術を体現する師匠との関係において学んでいきます。同じように、徳を身につけたいと願う人も、その徳を体現している人物をモデルに学びます。善き共同体(そこには師匠やモデルがいる)があるからこそ、はじめて善い個人(徳を身につけた人)が生まれ、その善い個人が今度は共同体を支える軸になっていく...社会に徳を身につけた人が増え、幸福の輪が広がっていくイメージが湧いてきます。

もう一つは、中庸を身につけるということ。中庸とは「まあまあ」「ほどほど」という意味もありますが、アリストテレスは「ど真ん中を射抜くこと」の意味で使っています。例えば「節制」の徳でいえば、ちょっとでもおいしいものがあれば食べてしまう「超過」でもなく、かと言ってどんなおいしいものがあっても全く無関心な「不足」でもなく、自分にとってもっとも必要なものを程よいバランスで食べること、それこそが「節制ある人」なのです。その場で最も的確な立ち向かい方をする、つまり中庸を選びとることを積み重ねることも、徳を身につけることに繋がるんですね。

アリストテレスの幸福論とLife Place

共通点は?

アリストテレスが唱えた幸福論と、Life Placeの考え方に共通する考え方をまとめると…

アリストテレス
人間が元々持っている素質・資質、能力、可能性。それらを一回一回の行為の積み重ねを通じて現実化していくことで、徳は身に付き、人は幸福になる。」

Life Place
「人間は本来、個々に優れた能力を持っている。それを最大限発揮するために必要なのが、「置かれた環境」と「場の環境」。本来備わっている人の「能力」や「素質」を取り戻す居場所=心を満たす居場所=Life Placeを作ることが、自己実現=幸せにつながる。」

2,000年以上も前の、日本からはるか遠い国で、しかもかの有名なアリストテレスが唱えたことと、私たちグリニッチが提案したい考え方には、共通する部分が確かにある!これは、私たちの提案したい想いに説得力が増すだけでなく、私たち自身にとっても今一度きちんと考えを整理し、理解を深めることにもなります。そして先人の考えを参考にした、私たちならではの新しい提案につながるかもしれません。

考え方をどのように活かす?みんなで考えてみましょう!

人が本来持っているもの、それを最大限発揮することで人は幸福になる。そのために必要なものは「徳」である、とアリストテレスは唱えています。一方で私たちが提案したいのは、インテリアを通した「能力や素質を最大限発揮できる環境づくり=Life Place」。そこにアリストテレスの「徳の身につけ方」のエッセンスを取り入れることで、アリストテレスの考えを活かした、私たちらしい提案ができるかもしれません。

例えば、実際に徳を身につけている人(=能力や素質を最大限発揮している人)をモデルとしてwebマガジン「eläväni」で紹介したり、自分が心地良くちょうど良い(=中庸)と思うものを選びとる方法を北欧ジャーナル で紹介する…環境づくりに「徳」のエッセンスを加えることで、Life Placeをもっと深く、もっと幅広く提案することができるのではないかなと考えています。広報としてLife Placeを発信していくヒントに、ニコマコス倫理学で学んだことを生かしていきたいと思います。

このような今回の学びを通じたひらめきや、「Life Placeとも関連するこんな考え方を聞いたよ」など"知のネタ"も大募集!みんなで学び、知を高め、Life Placeの提案をより良いものにしていきましょう🙆‍♀️

広報 岡田

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