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【店づくり相談室 vol.5】 リアルの逆襲

しばらくは、本記事を一般公開させていただきます。
その後はGRIメンバーズ限定コンテンツとなりますので、
公開されるのは一部のみです。

コロナ禍を機にネット通販に押されていたリアル店舗が、次々と新しいコンセプトを掲げてオープン。実店舗への回帰が加速しています。そこに共通するものは、モノからコト、コトからトキ。そして、「心の充足」という顧客ニーズを満たすエシカルな企業姿勢です。


ハンズ旗艦店(新宿)にカインズ出店

2021年12月、ホームセンター大手のカインズは東急ハンズの買収を発表。2022年3月31日付で東急ハンズはカインズグループ入りしました。そして、2023年6月、カインズはハンズの旗艦店である新宿店に出店。カインズ、初の都心への出店となりました。ハンズとカインズは新たな顧客獲得を目指し、「DIY文化の共創」の第一歩をスタートさせました。 

出典:WWD

新生ハンズは、「ゾクゾク」と「ワクワク」で新たな顧客体験の提案

出典:gooニュース

カインズがハンズの旗艦店である新宿店に出店すると同時に、新生ハンズは、6月に店舗空間やフロア構成を一新しリニューアルオープンしました。新生ハンズは、ブランドメッセージをとして「手でソウゾウしよう。手でわくわくしよう。」を掲げ、商品・サービス・空間・接客を通じて、各フロアでこのブランドメッセージを具現化する提案を行っています。例えば、6階にある「HANDS DO」では、「つくる」「まなぶ」「ためす」が体験できる常設ゾーンで、金継ぎやレザーポーチを作るイベントなどが365日開催されています。

「見える資産」と「見えない資産」

新生ハンズを多くの人に理解してもらうためには、「見える資産」と「見えない資産」の2つの資産を活かす必要があります。「見える資産」とは、日本有数の繁華街に旗艦店があるということ。「見えない資産」というのは、消費者がハンズに対して持っているポジティブな反応です。マーケティングでは、これをブランドエクイティと言います。

「眠れる美女」

ブランドを再構築することで、ブランドを蘇らせる潜在的なブランドエクイティを持つ企業のことを「眠れる美女」と呼びます。この美女の目を覚ますためには、ブランドのヘリテージに立ち返ることが重要です。ハンズは、大量生産・大量消費時代のアンチテーゼとして生まれました。壊れたら捨てて、新しいものを購入するのではなく、修理したり部品を取り換えたりすることでモノを大切に使うというところがブランドのパーパスであったはずです。

ハンズ旗艦店の役割

地球環境保護や脱炭素といった社会課題を解決しなければならない時代。改めてハンズのブランドパーパスを見つめ直した時に、ブランドの認知を高めるとともに、「手で触れることでどんなことができるのか」という「手の役割を再定義」することでアナログな楽しさを提案しています。旗艦店舗の役割は、このハンズの新しい提案をより多くの人に伝えることにあります。たくさんのモノがネットで購入できる時代だからこそ、リアル店舗で多くのモノを見る「ワクワク感」や新たな発見をした時の「ゾクゾク感」。そういったワクワクする時間から新たな価値の連鎖が生まれるのです。


銀座並木通りにH&Mがオープン

2023年5月、スウェーデンの衣料品大手ヘネス・アンド・マウリッツ<H&M>の日本法人であるH&Mジャパンは、多くのラグジュアリーブランドが立ち並ぶ銀座並木通りのエストネーション跡地に新店舗をオープンしました。<H&M>は、2008年に日本1号店を銀座に出店しましたが、2018年に閉店してからの再出店となります。H&Mのカムバックで、銀座にはユニクロ、GU、ZARA、無印良品や昨年銀座に進出したワークマン女子など、ファストファッションブランドの店舗が出揃いました。

銀座店は体験型店舗の位置づけ

出典:TOKYO HEADLINE WEB

銀座の新店舗は、新宿店や池袋店のようなフルコンセプトの旗艦店とは異なり、取り扱う商品カテゴリーは、ウィメンズ、メンズのみの大人向け店舗です。商品数を絞り、見やすい陳列、広く回遊しやすい導線など、快適な買い物空間をつくることで、体験店舗としての特徴を打ち出し、訪日客を含めた集客を狙っています。<H&M>にとって世界的に見ても東京は重要な市場であり、銀座店ではこの店でしか体験できないサービスを提供することを目指しています。この店舗は、通常の店舗とは一線を画す試みが随所に施されています。キーワードは、「付加価値」と「体験」。ECサイトで服を買う事が浸透しつつある中、実店舗では単に洋服を並べるだけでなく「そこに行きたいと思わせる何かがあることが重要」なのです。

店舗構成

店舗は3フロアで構成されており、店舗面積は約1300㎡。ラグジュアリーブランドが軒を並べる銀座ですから、大人が買い物をしやすい店舗空間にするために、店で過ごす時間を楽しんでもらえる工夫をしています。その工夫の一つがフロアごとに異なる色をテーマに取り入れた特別仕様の内装です。従来型の店舗とは明らかに一線を画しています。

1階は日本のリアル店舗では初めて展開するインテリアブランドの「H&Mホーム」、イベントや新商品の情報発信拠点となるプロモーションスペースとカフェで構成されています。「H&Mホーム」は、日本では2016年からインテリア用品をオンラインストアで販売してきましたが、今回国内で初めてリアル店舗でも販売。店舗にカフェを併設しているため、食器やランチョンマットなどキッチンやダイニング関連の商品を中心に約40種類を取り扱っています。カフェは、銀座での買い物スタイルを想定した1杯280円のテークアウト方式のコーヒーショップで、顧客ニーズに対応した付加価値施策となっています。

出典:Pouch[ポーチ]

2階は明るく楽しい印象を持たせる「黄色」を基調としたウィメンズのフロア。商品の価格帯も2,000円代のワンピースから、3万円を超えるハイブランドとのコラボレーションアイテムまで幅広く取り扱い、さまざまなニーズを想定しています。リネンシャツやショートパンツなどのアパレルの他アクセサリー類などの雑貨も展開しています。

出典:FASHION PRESS

3階はポジティブな印象で好感度が高い「ブルー」をテーマにしたメンズのフロア。大人っぽさを意識したコンクリートの什器が引き立っています。

出典:FASHION PRESS

2階と3階のフロアは、他の店舗に比べ什器間通路を広く取り、1階のカフェで買ったコーヒーを片手に、ゆっくりと時間をかけて商品を選べるようになっています。また、独自の試みとして店舗のVMD担当者がお勧めの着こなしを提案するVP(ビジュアルプレゼンテーション)を随所に展開しています。

エシカルな企業姿勢

環境配慮やフェアトレードといったエシカルやSDGsへの企業姿勢も訴えています。衣料品のフロアには、廃棄された衣類の繊維を原料にしている「PANECO(パネコ)」と呼ばれる循環型リサイクルボードで作った衣料品回収ボックスを設置し、衣料品のアップサイクルへの取組み姿勢を見せています。また、カフェでは、有機食品に対する認証制度である有機JAS(日本農林規格)と、児童労働を禁止するなどの基準を守った「国際フェアトレード認証」を取得したコーヒー豆を使用し、器やパッケージも環境負荷の少ないものを採用しています。


リアル店舗への来店動機を創る

リアル店舗に顧客が来店する目的は、実際にモノを見て、モノに触れて、新しい経験・体験ができることにあります。さらに、他者とのコミュニケーションが取れることが大きなアドバンテージです。来店した顧客が、笑顔になれて、新たなインスピレーションが得られる店づくり。そのために必要なのは、『空間価値』と『人の価値』です。その二つによって「心地よくなれる場所」「気持ちを切り替えられる場所」「新たな刺激をもらえる場所」を創っていくことができます。リアル店舗は体験価値の提供や信頼を獲得することができる貴重な顧客接点の場です。それが店舗デザインの形として落とし込まれ貴重な役割を果たしている例があります。

スターバックスの事例

出典:GQ japan

<スターバックス>は店内に巨大な焙煎工場を併設した<スターバックス>の高級コンセプト店<スターバックスリザーブロースタリー>1号店を2014年にシアトルにオープンして以来、2017年に中国上海、続いてミラノ、ニューヨーク、そして2019年に東京中目黒にオープンさせました。日本の旗艦店は、建築家・隈研吾氏とのコラボレーションで、建物を一から設計する初めてのロースタリー店です。そこは、まるでコーヒー工場に入り込んだような顧客体験を刺激する店になっています。また、吹き抜けを作るなど、全方位的に空間デザインを施すことで「インスタ映え」する空間を作り、写真だけでは伝えきれない魅力を拡散させることで、実際に店舗を訪れてみたいという気にさせる仕掛けを施しています。

出典:https://store.starbucks.co.jp/detail-1514/?mode=concept

その後、<スターバックス>は「リージョナル ランドマーク ストア」を展開。これは、日本の各地域の象徴となる場所に建築デザインされ、地域の文化を世界に発信する店舗の総称です。訪れる人々がその地域の歴史や伝統工芸、文化、産業の素晴らしさを再発見し、その発見を通じて地域へ絆を感じられるよう、様々なローカルのデザインエレメントを織り込んでいます。富山環水公園店や道後温泉駅舎店、京都二寧坂ヤサカ茶屋店など従来の店舗づくりとは一線を画す設計となっています。

アップルの事例

出典:トラベルwatch

シンガポール中心地のマリーナベイに<アップル>の水上店舗があります。水に浮かんだガラス球のような奇抜な外観が観光客の注目を集めています。直径30mの球体が特徴で、水上部分はガラス張りになっていて、店内からは湾や金融街が一望できます。外国人客を想定して、合計23か国語に対応するスタッフが揃えられています。<アップル>としては世界で初の球状デザインの店舗です。


今後の店舗デザインの方向性

消費者は、品ぞろえの豊富さやブランドには反応しなくなりました。取扱いアイテムが限られている<アップルストア>がその証左です。消費者が求めているものは、生活を変えてくれる、あるいは生活に刺激を与えてくれる“何か”。「ブランドが提案するモノ」ではなく、“生活という感覚”であり、未来の楽しさを感じさせてくれる体験の“場”や“空間”です。時代は「モバイルで何でも呼び出せる」状況にあるため、家の外に出る必要がなくなり、大規模商業施設には人が集まりにくくなっています。これに対して、“全方位型の空間へのこだわり”や“その時にしか楽しめないイベント”“体験型の店舗”“ポップアップストアの提供”など、あの手この手でとにかく外に出てきてもらうような風潮があり、<スターバックス>や<アップル>の例はその成功事例と言えます。五感に訴え360度全方位の体験を提供するような、ある種“テーマパーク化した店舗”が増えてくるでしょう。 


心の充足というニーズ

店舗に求められる役割が、「買う場所」から「過ごす場所」「体験の場所」に変わっているのであれば、店舗をつくる時の方向性も「店舗での購買促進」から、「店舗で楽しく過ごしていただくためにはどうあるべきか」「新しい発見や体験のためにどうあるべきか」という視座が必要となります。顧客が欲しているコト(経験・体験)は、どういう価値観に基づく経験・体験なのかを考えて提供していかなければなりません。
宅配ピザに代表される各種デリバリーサービスやネット購買の無料配送など、従来は、外に出なくても済むというのが、課題解決の方向性でした。デジタル技術が進んだ今では、どうやって人を外に出すかというのが社会的な課題解決の方向性になっています。その背景には、外に出なくても済む生活に慣れてしまったことがあげられます。外に出なくても生活には困らなくなった一方で、一人暮らしの世帯が増え「心の充足」が求められるようになっています。だからこそ、人々は無意識に外に出る理由を探していて、さまざまなコミュニティや地域でつながっていたいという気運も明らかになってきています。


心に残る体験価値を生む「時間軸」

出典:Newton

購買のフックを作り、顧客を商品に導くという従来のVMDの概念は、顧客に新しい発見と気づきを提供し、新しい経験・体験へと導くCXMD(カスタマーエクスペリエンスマーチャンダイジング)へと進化しています。買い物体験においては、AIを活用したサービスの導入が進んでいます。例えば、利用者がAIにプレゼントの相談をすると、AIが送り先の関心や趣味について聞き返し、十分な情報を得ると、おすすめ商品を提示するといった具合です。「これは、便利だ。時間の短縮につながる。」と考える方もいるかもしれません。しかし、プレゼントは、相手を想う気持ちが大切で、何にしようかと思い悩む時間こそが貴重なのではないでしょうか。過去のデータに縛られたAIの提案ではなく、時間をかけ、自身の創造性を活かした選択こそが、心に残る体験価値を生み出すのです。そうです。この「ギフトを選ぶ時間」=「相手のことを想う時間」こそ、至福の時。最高のひととき。ギフトを贈る側は、受け取る側の3倍の幸福感を感じることができるといわれる所以です。


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