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「おやすみ、リリー」を読んで~ネタバレ注意~

人によっては読みにくいと言われますが、私は、あまりに号泣しすぎて、ぐったりしてしまうほど、物語の中に入り込んでしまった。
そして、SNSでも、自らコメントを書く事など殆ど無い私が、この本を紹介していた方へ、メッセージを送ってしまうほど、どうしようもなく、感情移入してしまったのだ。

ペットを見送る本は何冊か読んでいるが、「おやすみ、リリー」は、一味違う。(数年前に読んだのだが、いつか紹介したいと思っていた)



妄想の中で、愛犬の病魔と闘い続ける飼い主


闘病中のペットの苦しい様子や飼い主の壮絶なグリーフ体験を記したエッセイなども、読んでいて辛くなるのだが(辛くなるのに読んでしまうのは、飼主とペットの絆や深い愛を感じる、心が揺さぶられる作品だからだ)
「おやすみ、リリー」の、飼主は、いつかくるリリーとのお別れを認めたくないため、最初から病気を言葉にしない。腫瘍を、タコと表現している。
時に病魔を擬人化してみたり、直接的な描写ではないからこそ、飼主と愛犬の、より壮絶な体験を味わう事ができるのだと思う。

飼い主とリリーは会話をする(時に、人はそれを妄想と呼ぶ)

その時、のちにリリーとなる子犬が、僕の靴紐をかじっているのに気づいた。
ーーーー中略ーーーーーー
「ぼくはエドワードだ。テッドって呼ばれてる」耳元でそうささやき、自分の耳をリリーの頭に近づけた。その時はじめて、リリーが話すのを聞いた。
このひとが!わたしの!かぞくに!なるのね!

本文より抜粋

水を差すようだが、リリーの言葉が「!」で区切られているのは、スタッカートで話す=吠えるからだ。ワン!ワン!ワン!

飼い主は、ロサンゼルスに住むゲイで、犬のリリーとは、どんな男に惹かれるかを木曜日の夜に語り合ったりする。そのほかにも、ボードゲームをしたり(妄想だが)幸せなひと時を過ごしている様子が伝わる。

リリーは12歳で、犬年に直すと、84歳。飼い主のぼくは、42歳だから、犬年だと294歳になる。
そんな二人が、共に過ごした幸せな12年、犬時間なら84年だ。
そんな幸せな日々に、リリーの病魔がジワリジワリと入り込み、飼い主を苦しめる。苦しいなんてもんじゃない!

飼い主の溢れる愛情表現に涙が止まらない

長い共同生活の中で、リリーに苛立ち、ケンカしたことを思い出す。
リリーは、絶対に助かる。救うんだ!という、強い信念が、病魔を擬態化させることで、エッセイでは表現しきれない、病魔に対する激しい怒りや憎しみがストレートに表現されており、飼い主の激しい抵抗、苦しみ、絶望、希望、あらゆる感情が刺さってくる。
そして、弱っていくリリーへの愛が膨らみ続けていることも、そのままストレートに感じることができる。

そして私が、一番、泣いたのは「リリーのニックネーム一覧」の長さである。単なるニックネームの羅列に、嗚咽が漏れるほど、泣いてしまい、ページを進めることができなかった。

皆さんも、愛するペットに、様々なニックネームを付けませんか?
そして家族がいると、それぞれ別のニックネームで呼んだり。。。

リリーはしばらく考えてから尋ねる。「どうしてわたしのこと、そう呼ぶの?」
ーーー中略ーーーー
「そういうのは、愛称っていうんだ」
「大好きな人を呼ぶときに使う名前とかことばのことだよ」
「わたしには愛称がいっぱいあるのね」
「ぼくはきみをいっぱい愛しているからな」

本文より抜粋


我が家のチンチラ「けだま」は、たくさんのニックネームがある。
わたしと夫が、それぞれ、つけたものだ。

友人も愛ネコに様々なニックネームをつけている。多頭飼いしているため、会話中、どの猫の話をしているのか、一瞬、わからなくなるほどだ。

実家の犬や猫たちも、家族によって、呼び方が違ったりした。

そんな何気ない呼び方を「愛」だと言われ、いや、言われる前から気づいていた。ニックネームには、それだけ沢山の思い出と、愛が詰まっていることを!

ペットの闘病と父の気持ち

この本を読み始めてから、久しぶりに実家で一緒に暮らしていた、愛犬たちとの日々を、まじまじと思い出した(この本を読んだ時期と、ペットロスを学び始めた時期が重なり、この頃、頻繁に思い出すようになっていた)

親犬ポポは、乳がんでなくなっている。
20年以上前に、田舎の動物病院で手術をすることになったポポ。
ポポはポインターなので、そこそこ大きい。
病院へ連れて行った父は、手術中、ポポを抑える手伝いをさせられたそうだ。電子メスで焼ける皮膚や癌の匂いは、忘れられないらしい。

リリーの話から、私の知らないところで、父はどれほど犬や猫たちのために、心を砕いてきたのか。はじめて考えた。

確か、私が小学生の時、ポポが肺炎にかかってしまい、帰宅すると家の中にポポが寝ていた。母の話では、私が帰宅する前に死んでしまっては大変だと、必死だったようだ。

記憶では、ポポはしばらく室内にいたが、すぐに元気になったと思う。

そんな父だから、私が、けだまの術後看護をしている間、ずっと気持ちに寄り添ってくれた。そして、「心配した分、より一層、愛情が深まるだろう」と言い、子供のいない私に「一度、味わって欲しい感覚だった。」といった。

父の子供とペットに対する深い愛情を理解した。

安楽死

日本と違い、ヨーロッパでは、ペットに苦しみしか残されない場合、安楽死させるのが、飼い主の義務になっている国がいくつかある。
日本では、動物病院でも、なかなか安楽死を勧めないのではないか。

リリーの病魔との死闘の末、リリーの飼い主さんは最後の、最大の愛として、安楽死を選択する。共に苦しんだ末の、決断。現実を見つめる。

おやすみ、ぼくのちび犬ちゃん。
おやすみ、おサルちゃん。
おやすみ、おばかなグース。
おやすみ、小ネズミちゃん。
おやすみ、お豆ちゃん。
おやすみ、リリー。

君は熱烈に愛されていた。

本文より抜粋

新しい絆を結びなおす

リリーとのお別れから1か月。飼い主は、新たなパートナーになる相手に出会う。風の中でリリーの声がする。

ひとつきで!じゅうぶん!かなしむのは!

「最近、大切なパートナーを亡くしたんだ」
ーーーー中略ーーーー
「上手く説明できないけど、今日は彼女が、ここにいる気がする。僕たちと一緒に。きみと、ぼくと、彼女で・・・」

本文より抜粋


お別れ前と、お別れ後のグリーフ

ペットロスについて、以前より知識を得てから読み返した「おやすみ、リリー」は、グリーフ(反応)やグリーフワークが、そのまま表現されている。
私たちは、学ばなくとも、愛するものと別れるとどうなるか。体験的に、知っている。
しかし、理屈で理解しておくと、少し客観的になれるので、悪くないと私は思う。
ペットを失ってからのグリーフを、ペットロスと言うが、ペットを失う前のグリーフも、同じ反応がおこるのだ。

わたしは、「けだまと、お別れするかもしれない。」と思った体験から、ペットロスカウンセラーになろうと考えるようになり、今に至ります。
おやすみ、リリーを読んで、少しでも、誰かの役に立てれば。と思いました。


興味のある方は、是非、読んでみてください。








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