見出し画像

【訂正あり】がん研有明病院の緩和ケア病棟を見学してきました

○はじめに

2019年1月の三連休の初日に、東京の有明にあるがん研有明病院緩和ケア病棟の見学会に行ってきました

今回の見学も主宰をして下さったのはベグライテンさん

昨年、聖路加国際病院の緩和ケア病棟の見学会を主催して下さった団体さんです。そういえば、昨年もこの有明病院の見学会に申し込んだのですが。そのときは体調不良で参加出来ず…

ということで、一年越しの参加となったこと、この note を書きながら思い出しました

それはさておきベグライテンさんは普段はさまざまなゲスト招いての勉強会を上智大学で。その他にこうした緩和ケア病棟や病院の見学会を開催されています。ご興味のある方はfbページをチェックをされてみて下さい

今回もこうした緩和ケア病棟の見学という貴重な機会をご提供下さり、本当にありがとうございました

〇今回の見学会

そして今回の見学会でアテンドして下さったのは同病院の患者支援センター長でもある 唐渡敦也さん。唐渡さんのご案内で以下のお話を伺い、病棟を案内していただきました

・がん研有明病院とケア病棟の紹介
・病棟の見学
・質疑応答

全体で3時間弱ほど。ちょっと長いかなぁ…と最初は思いましたが、唐渡さんの(本当にサービス精神旺盛な)ご説明もあり。そして病棟も部屋も含めてじっくりと見学をさせていただき。終わってみればあっという間でした

ちなみに唐渡さんはお医師さまになられて33年目。がん研では26年のキャリアをお持ちだそうです。これまでに、肺がん治療→緩和ケア→患者さんの支援→医療連携とお仕事をされてきているとご紹介がありました

〇緩和ケア病棟の見学

実際の順番とは前後しますが、まずは病棟見学のお話から。診療科と病棟はの内容について病院のサイトではこんな形で案内されています

緩和ケア病棟のお医者さまは10名ほど。病院全体では350名だそうなので、一割も満たない数です。出身の診療科もさまざまだそうです

病棟そのものは建物の12階(おそらく最上階?)の東側にあります。ちなみに反対の西側は VIP向けのフロアになっています(フロアの扉も豪華そうで、IDが無いと入れない仕組み)

12階のエレベータホールを出た目の前には、海側を見渡せる屋外テラスがあります。ただテラスの周囲には人の身長の倍近くある防護ガラスが張り巡らされています。ガラスの高さをこれだけ取っているのは、自殺など不慮の事故を防ぐためだそうです

そして病棟に入ると、暖色系の落ち着いた色合いのフロアになります。そこでまず目に入ったのは、談話のフロア。ピアノなども置いてあり、何組かの方々ゆっくり座れるぐらいのスペースがあります。こちらももちろん、東京湾側に面しています

また車いすもたくさん置いてありましたが、この車いす、さまざまな形での寄付品が多いんだそうです。そのため、種類もバラバラなんですよ…とのこと。理由を聞けば寄付品だから、というお話でした。もしこうした病院に車いすを寄付されたい方がいたら、どういうものが良いのか。事前に確認をした方が良さそうです

その他構造としては当然なのでしょうが、ナースステーションや管理系の設備がフロアの真ん中側に置かれています。また普通に病棟内を歩いていると、そうした設備が目立たないように配置や導線がなされています。つまり、管理設備は建物の中心側に。その周りに廊下があり。さらに外壁にそって病床が並んでいる形です

続いて病床、病室の見学に移ります

病床は全個室で25床。無料と差額ベッドが混合で設定されているとのこと。今回わたしたちが見学をさせていただいたのは、差額ベッド代が必要なお部屋で、一日3.3万円かかるそうです(上記病棟案内のサイトにも記載があります。)上記の通り病床は全室建物の外側に向かって配置され、ベッド、ソファ、洗面所の設備などは基本的に共通。差額ベッドとの差分は、電子レンジやテレビが有料かどうかというご説明でした

また部屋の大きさは4畳半ほど。実際には、ベッドと窓側に置かれたソファが部屋の大部分を占めています。これを広いと観るか、狭いと観るかはその人次第だろうなぁというのが正直な感想。わたしは4人部屋に入院の経験もあったりしますので、そもそも個室で。かつ個別の洗面所があるだけでも十分だよなぁ…と感じました

その他には、家族の宿泊施設も兼ねた待機室、作業室(本来は観察病室として使われるが緩和ケアでは必要ないためこの用途になっている。)またお風呂なども見学をさせていただきました。その中でも面白かったのは機械式のお風呂設備(機械浴と紹介されています。)病床一部屋分以上の広さを使ったものです。でもこの設備、一機で1,000万円ほどかかるそう。そのため有明病院にもこの一か所しかなく。他科の病棟の患者さんとも共用しているという説明でした

なお、病床の稼働率は80%弱ほど。この日の空き部屋はわたしたちが見学出来た差額ベッド代が必要な一部屋のみでした。また有明病院さんは病棟への入院時に差額ベットの部屋かそうでない部屋かの調整は行わない方針だそう。つまり救急でも患者さんはその時空いている部屋に入る。それが差額ベッドであれば一旦はそこに入院をしてもらう。一方で患者さんは無料の部屋を希望する方が多いため、差額ベッドの部屋に入った方の多くが、その後、無料の部屋に移ることを希望されるという説明を受けました

こうしたやり方は病院によって方針が異なりますね…というのが唐渡さんのご解説です。この点、お金と関係の無い理由で有明病院の緩和ケア病棟を選ぶとと思わぬ出費になることは、事前に知っておくと良い点ですね

あとよくある質問だそうですが、生活保護の受給者でも入院は出来ますよ、とのこと。一律ダメというお話は制度上も無いそうです

ちなみに聖路加国際病院さんとの比較では、わたしは有明病院さんの方がフロアとしても配置としても、広くゆったりしている印象を受けました(あくまでもわたしの印象です…)

〇唐渡さんのお話

病棟の見学の前に、1時間半ほど、唐渡さんよりたっぷりとお話を伺いました。そのテーマは以下の4つです

・高齢多死社会とがん
・緩和ケア病棟の動向
・がんゲノム医療とコンソーシアム
・人生の最終段階における医療と人生会議

見学会を主催された方によれば、こうした内容は、毎回の見学会でもお話をして下さるとのこと。唐渡さんが年ごとに変化する内容(アップデート)とを組み合わせてして下さるそうです。となると、毎年アップデートされるお話を聞きたくなりますよね

ただその一方で、いわゆる緩和ケア病棟における「ケア」のお話を期待していくとちょっと肩透かしとなります。そちらを聞きたい方は、チャプレンさんもお話をして下さる聖路加国際病院の見学会の方をおススメします

一方で今回のお話は、日本のがん医療、そして緩和ケアを取り巻く環境のお話としては聞いておいて損の無い内容ばかり。わたしは今回、この4つのテーマのお話を聞けただけでも大満足でした

以下テーマごとにメモした内容から箇条書きでご紹介します。ただし、情報の基になっているデータは全てネット上などで確認出来るものばかりだそうです

高齢多死社会とがん

・平均寿命が伸びており80歳でも「あと10年」を考える必要性がある
・死因の統計に「認知症」と「誤嚥性の肺炎」が加わったが、記載はあくまでも死亡診断書がベース。このため実態と異なっている場合がありそう
・高齢になると特に男性はがんに罹るようになる
・がんの治療は進化しており、死亡率自体は減少という数値が出る。しかしがんで亡くなる方の総数が増えているので、がんが増えているように結果が出てしまう
・がんの罹患は70歳以上が5割。働き盛りが4割。AYA世代が1割(が唐渡さんの実感)
・地域医療をしている方が「感じる」がん患者さんの割合は6割。しかしがん研の中での認識は3割。これはがん研が働き盛りの患者が多いことが影響しているはず
・がん研は入院患者数では日本で一番多い(過去3年の統計)
・施設で亡くなる方が増えている。退院後に施設に入所の形があるのではないか。都内は在宅や施設でのサービスも受け易い環境が整っている(と思われる)
・死亡退院は大学病院1%でがん研は2%(想像より少なかったです)

情報量の最も多かったこのパート。全部は書かずに本当に主だったところだけにしておきます…(ごめんなさい)

緩和ケア病棟の動向

PCU=緩和ケア病棟のこと
・がん研の平均在院日数は24日。緩和ケア病棟の病床稼働率は8割弱。8割を超えると入院がしにくくなる
・入院患者の6人に1人は30日を目安に退院し、施設か自宅に帰っている(診療報酬の制度が影響している)
・病院によっては自宅や施設の退院と同じ病院の他の診療科に転院しているなど様々なケースがありそう
・病院が外来と往診を同時にやっていると自宅退院も増えていくのかもしれない
・がん研は「自宅(家庭)への退院率」が15~20パーセントで平均といったところ
・緩和ケア病棟は4万円/日かかる。この費用を緩和ケアで使うのがいいのか。在宅や地域ケアに割り振るのがいいのかは考えどころ…
・毎年200人ほどの方ががん研でも亡くなっており、そのうち緩和ケア病棟で亡くなる方が増えてきている(数字も割合も)
・有明病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)は現在9人。MSW が増えると一般病棟の死亡者が減るという相関が取れている

このパートもデータを基にした解説や、他の病院との比較の話もあって非常に面白かったです。そこから有明病院がどういう位置づけにあり。またデータから各々の病院の性格、緩和ケア病棟の方針が見えてくるということも分かりました。やはりデータは重要ですね…

がんゲノム医療とコンソーシアム

ここはおそらくお話の結論から書いた方がよいと思うのですが、いまのところがんゲノム医療(検査)を受けても、その効果が出るのは最大で2割(おそらくは1割前後)の人だけという点がポイント。つまり検査に多額の費用と時間を掛けたとしても、8割の方には効果がなく。【現時点では】その検査を保険で受けられるのも標準治療が終わったか、治療手段の無くなかった方のみ(※)。そして医療(検査)を受けられる病院もいまは一部の病院のみ、というのが現状だそう

※上記、標準治療に関する記述を正確にするために【現時点では】を追記をしました。1/15付けの日経新聞さんの記事にもあるように、今後こちらが標準治療の実施の有無などに関係なく、今年度から保険適用されるというお話だと思います

つまりその狭い領域や可能性に対して、多くの方が期待をかけ。またこれからかけてしまう状況が産まれつつ…あるということですね

もちろん、将来その状況が変わる可能性はあると思うのですが、その恩恵を少額の負担で受けられるようになるのにもやはりまだまだ時間がかかりそうです。そこに多額の社会保障費を掛けるのが正しいのか。正しくないのか…

唐渡さんはそこまでは言われていませんでしたが、わたし自身は、判断がとても難しい問題だな…と正直に感じました。以下メモより。

・遺伝子を調べることでがんの分類や治療が変わりつつある。オプシーボがこの治療薬に該当
・ゲノム=遺伝子、ではない。DNA>ゲノム>遺伝子という順番
・現在はがん細胞を調べて抗がん剤を作る(使う・探す、のではなくて、作る)へと変わりつつある
・オプシーボはとにかく対象となりそうな細胞を攻撃するクスリ。そのために「疑わしき細胞」も撃ってしまい副作用も出るし。効果そのものがない可能性も高い
・オプシーボを自由(民間)診療で隠れて使用する患者さんもいる。それはデータを観れば分かってしまう。自由診療では検査をしないので、どうせやるなら検査を受けて使って欲しい(というのが唐渡さんの願い)
・オプシーボが効くがんがあることは分かっている。場合によっては3割のひとに効くのは確率として本当に高い
・キイトルーダはがんに対してなんにでも効くがその確率は4パーセントでしかない
・キイトルーダの服用や幅広い形で検査を行おうとすると海外の製薬会社の方が幅広く調べられる。でもそれはお金(医療費)が海外に流れ出ていくことも意味する

こちら、今日一番気になったお話でした。本当に勉強になりました。医療費の問題。その費用が海外の会社に流れ出ていく現状。それに対抗するために日の丸コンソーシアム(オールジャパンの体制)を作ったこと、などなど。こうしたお話をコンパクトに聞けたことが、一番の収穫です

人生の最終段階における医療と人生会議

(http://www.fdma.go.jp/neuter/about/shingi_kento/h30/kyukyu_arikata/syoubyousya/01/shiryo2.pdf より)

がん研でも、こちらのイメージ図をいまみなさんが一生けん命頭に叩き込んでいる段階だそうです。それを基に以下のお話をして下さいました

・このイメージ図を覚えておけばOK
・いまは終末期医療とは言わず「人生の最終段階における治療」へと言うようになっている
・家族だけでなく、家族「等」と事前に相談にする対象が拡大したことが大きい
東京都緩和ケア連携手帳が役に立つ

時間が無くこちらのパートは簡単な説明のみ。まずは自分もこのイメージ図を覚えておこうと思いました

〇まとめ

人によって(終末期医療の)方針を決め(られ)る、決められないがあり。それは生き方によっても変わってくる。そのひとが何を大切にしているか、その人の納得を得ることが大事。そのひとの生活に根差して出てきたものを否定しない。ご本人や周囲の方によるちゃぶ台返しが起きるのも自然なこと。そうしたこともあるよね…という懐の深さや割り切りが医療者の側にも必要だ…

「自分で治療やケアの方針を決めていかなくてはいけない中で、どういうケアが患者さんには必要か」という質問に対して唐渡さんがこんな回答をされていました

こうしたお話に触れて毎回思うのは、こういう懐の深さを持ったお医者さまに本当に自分も出逢いたいなということです。設備がどんなに良くても。環境が整っていても。最先端の素晴らしい治療を受けられても。こうしたお医者さまや医療従事者の方々に出逢えなければ、エンドオブライフや QOL(クオリティ・オブ・ライフ) は本当には満たされないと思うのです

逆にそれが満たされれば、環境はどこでもいいん、とも言えます

今回の学びはそこでしょうか
まずは自分の大切な人がどこで最期を迎えるのがよいのか
それは大切な人の希望や想いに沿っているものなのか

そんな想いや考えを深めたいと感じた唐渡さんの言葉でした
長時間のご対応、本当にありがとうございました

今回のレポートとは以上です。最後までお付き合いをいただき、ありがとうございました(読むのにまた5分以上もかかりますよね…)

2019年6月30日追記
誤字の修正や表現の見直しなど、文章全体に手を入れました。半年前に書いた内容ですが、いまでも多くの方が読んで下さっているようです。本当にありがとうございます

この記事が参加している募集

デス・カフェ@東京主催。ヒトやペットの区別をしない、死別・喪失のサポート、グリーフケアのお話をしています