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インクルーシブ✖️スポーツ③

みなさんこんにちは。
引越し当日、何とか荷物だけは運び終えました。
ただ、前の家の片付け、新居の整理、諸々の契約などやらなければいけないことは山積みです。

さて今日は、前回、前々回に引き続きインクルーシブとスポーツについてです。

これまでの記事はこちらをご覧ください。

さて今回は、インクルーシブ✖️スポーツ第3回、その課題についてお話しします。


課題

ひとえに課題といっても、そこにはたくさんの要素があります。
ここからそれらの要素を書き出しますが、前提として、

  • 今回は、「誰もが楽しむことのできるスポーツ」としてインクルーシブなスポーツを捉える

  • 当然、課題だけではなく良い面がたくさんある

ことは頭に入れておいていただきたいです。

準備の難しさ

まず挙げられるのはここかなと思います。
パラリンピックでも車いすバスケや義足者の100m走など、様々な面で専用の器具を用いた競技が見られました。

それらは選手にとって多様な可能性を提供する素晴らしい道具であるという一面を持つものの、その整備には多額の費用や環境が必要となります。

例えば里宇ら(2018)によると、生活用の義足とは別のスポーツ用義足は、特に機能性が求められる本格的な競技用になると約20~30万円にもなるそうです。

他にも、三阪(2019)によると、車いすラグビーでは、ブレーキや転倒による傷ができる可能性、バリアフリー環境の不十分さなどからほとんどのチームが専用の障害者スポーツ施設でしか練習できないというのが現状だそうです。

十分にできる備品の整備だけではなく、各スポーツが満足に行える環境を作ることも、これからの障がい者スポーツには求められます。

指導者の不足

これも重大な課題です。

指導者がいなければ、そもそもスポーツに親しむことができなくなってしまったり、仮にできたとして、その先のレベルアップやアスリートレベルへの挑戦ができなくなったりして、スポーツのモチベーションの低下につながってしまいます。

笹川スポーツ財団によると、国内の障がい者数が身体・知的・精神障害者を全て合わせて約964万人(令和四年度現在)、
一方で公認障害者スポーツ指導員は約2.7万人、かつ障害者専用、優先スポーツ施設において有資格者の有無を調べたこの表では、なんと未だに3割の施設に有資格者がいないという現状があるのです。

出典:笹川スポーツ財団

指導者が不足している原因として考えられるのは、

  • パラスポーツの認知度

  • 指導者になろうとしている人が少ない

  • 資格取得後、指導者として現場に立っていない

  • できる環境が少ない

などが考えられます。

障害種・大会・競技別の格差

例えばパラリンピックでは、障害のレベル別に一つの種目の中でもいくつかのブロックで分かれています。
また、パラリンピックに参加しない聴覚障害者には、独自の「デフリンピック大会」があります。
他にも、知的障害者に向けて、「スペシャルオリンピックス」という大会もあります。
そして、当然これらの大会にはないけれど、障害者スポーツとして誰でも楽しめるスポーツはいくつも存在しています。

ここで課題となるのは、これらの認知度や規模に違いがあることです。
パラリンピックばかりが目に入って、自分に本当に適した大会に出会えない、自分が最も楽しめる競技に出会えないという事象が起きてしまうと、これもまたスポーツのモチベーション低下であったり、そもそもスポーツに触れようとすら思えなくなったりしてしまうことが考えられます。

例えばパラリンピック、デフリンピック、スペシャルオリンピックスそれぞれの認知度は、小倉(2019)によると、
パラリンピック:97.6%
デフリンピック:10.1%
スペシャルオリンピックス:17.9%
というように、かなりの差があることがわかります。

また、下の図は同じ脳性麻痺の方向けの二つのスポーツの記事数の推移を表したものです。
障害の程度によってもちろんできる競技は変わります。
この二つだと、脳性麻痺7人制サッカーの方が参加する方の障害の程度は低いです。

ボッチャの方がパラリンピックで銀メダルを獲得し、一躍注目を集めていますが、脳性麻痺7人制サッカーの方が適している、という脳性麻痺の方もきっといるはずです。
そういった観点だと、この結果ではボッチャばかりが注目され、他の競技が薄れるということはあまり良いこととは言えないかもしれません。

出典:障害者スポーツに関する新聞報道の変容(山崎,石井:2019)

「パラリンピック」

私は、パラリンピック自体を否定しようとは思いません。
逆に、障がいを持った方でも「アスリート」として世界一を目指して大舞台に立つことのできる、誰しもに熱狂と夢中を与えられる最高のイベントであると思います。

ただ、「パラ」リンピックなのです。

「オリ」ンピックではありません。
これはどうしようもないことではありますが、「スポーツ」が誰もが楽しむことのできるもの、という存在でありたいとするならば、この区別は当然ない方が良いと私は思います。

スポーツは本来、ラテン語のdeportaleという単語の派生で、一時的に世俗を離れ、気晴らしをするという意味の単語でした。

当然、まだまだ誰もが同じ状態で同じ土俵に立ち、同じスポーツを同じステータスで楽しむ、ということの実現は難しいと思います。

これからのインクルーシブなスポーツ

先ほどあげたように、インクルーシブなスポーツにはまだまだたくさんの課題があります。

ですが、これらのスポーツは、誰もが楽しむ、気晴らしになるという
「deportale」の単語の実現には欠かせない要素となります。

たくさんのスポーツを通して、誰もが自分に適したスポーツを知る、自分のとって最も楽しいスポーツを見つける。
そういった環境をいかに作り出していけるか、人材面、設備面の両面から、もしくはニュースポーツの考案という視点からも考えていくことが必要であると考えます。

また、こんなスポーツもあるんだ、という興味、関心を一人一人が持ち、些細なイベントからでもインクルーシブなスポーツに触れていってほしいと思います。

参考文献

・障がい者スポーツにまつわるパラドックスーパラリンピックの課題を探ってー
小倉和夫 ,2019 ,日本財団パラリンピックサポートセンターパラリンピック研究会紀要12巻 p. 1-18

・障害者スポーツに関する新聞報道の変容─ 競技間格差に着目して ─
山崎貴史,石井克 ,2019 ,北海道大学大学院教育学研究院紀要 第134号

・笹川スポーツ財団 https://www.ssf.or.jp/thinktank/disabled/leader.html 
最終閲覧:2024.3.19 15:40

・下肢切断者のパラスポーツへの参加とスポーツ用義足の使用
里宇文生,大野祐介,岩下航大,梅澤慎吾,臼井二美男 ,2018 ,The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 55巻5号

・車いすラグビーの練習環境の現状
一般社団法人日本車いすラグビー連盟理事 三阪洋行 ,2019 ,リハビリテーション・エンジニアリング Vol.34 No.3

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