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〈ショートショート〉悲劇の幕は上がった

 彼と私は幼馴染という始まりだったから、もちろん私の初恋は彼だった。高校生にもなるといろんな男の人から声をかけられたけど、私には彼だけだった。だけど彼は違った。

 彼は自分のことを冴えないなんて言ってたけど毎回テストは学年10位以内だし、サッカー部では副主将だし。モテないわけはなく他の女の子の気配くらい気がついてた。

 私は彼の跡をつけた。女の子と抱き合う彼を見てショックだったけど(これで両親も納得してくれるかな)なんて妙にホッとして帰ろうとした瞬間、彼に声をかけられた。慌てた私は道路に飛び出し事故で人魚姫になった。

 私の日課は車椅子に座り窓の外を眺めることだ。家から少し離れた曲がり角。彼はそこで女の子と手を離す。彼は事故にあった彼女を健気に見舞う悲劇の主人公を演じているのだ。私は鼻歌まじりで入ってきた彼に声をかけた。一瞬怪訝な顔をして微笑み直した彼に出ない声を振り絞った。

「私を…して。」


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