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中国の社会主義とは、どんな社会だったのか?

1980年代の学生時代、大学で中国文化を専攻し、古代から近現代まで、歴史から思想・文学まで、広く浅く中国関連の勉強をしていました。

当時の中国は、鄧小平のリーダーシップによる改革開放路線まっしぐらで、日本にもたくさんの留学生が訪れ、私の通った大学でも中国人留学生は多く、彼ら彼女らがいつも異口同音に「中国は遅れているから近代化に成功した日本や西欧に学ばなければならない」と、謙虚な姿勢で必死に学ぶ姿勢が印象的でした。

今から思えば、鄧小平の韜光養晦(とうこうようかい)政策が見事に中国知識人たちに浸透していたのです。

私自身は、逆に中国に憧れた素朴な学生だったので「どうして中国は素晴らしい歴史と文化を持っているのに」という感じ。そして大学3年の夏休み、先生の紹介で北京の某大学に6週間滞在=短期留学すべく、期待感いっぱいで中国に向かいました。

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(鑑真号の神戸出港:1987年撮影、以下同様)

神戸港を出港し、東シナ海から長江に入って上海に向かった鑑真号での体験は、青から茶に変わる水の色とともに「これで本物の中国を体験できるな」とワクワク感満載状況で今でも鮮明に覚えています。

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そして初めて大陸の大地に辿り着いてまず体験したのは、人民たち(中国では国民というよりも人民という感じなんです)の貧困状態。

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こののち、ネパールなどの最貧国にも旅行しましたが、貧乏な国は大体皆同じ。とにかく全てが汚いのです。人民の頭髪や服(あまり洗えないのかも)、道路、建物、あらゆるものが汚くて空気まで埃っぽい。

病気の予防に最も効果的なのはなんといっても「衛生」です(これは今まさに我々がコロナ禍で体験していますね)。貧乏は不衛生を招き、死を招く(貧乏→不衛生→病気が多い→死にやすい、という死のスパイラル)。そしてその先にあるのは飢餓。

当時の中国は改革開放路線の最中ではありましたが、まだまだ社会主義経済が色濃く残った施設も多く、特に鉄道や飛行機などの公共交通機関や国営(グオイン)と呼ばれる国営の商業施設やレストランなどに社会主義状況(=結果平等)が残存。

汚いのは貧乏な国はみんな一緒なんでしょうが、ここに加えて当時の中国で最悪なのは「結果平等の世界」が残存していたこと。

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(ブロードウエイマンションからみた当時の上海の街並み)

できるだけ働かない方が得なわけだから、グオインのレストランに入ったら大変なことになります。お店に入ったらまずやることは、店員探し。店員の袖を引っ張ってきてメニューを持って来させ、食べる料理が決まったら、また店員を探して袖を引っ張る、という具合です。もちろん挨拶などするわけもありません。みんな店員同士、店の端っこの井戸端会議に夢中で、お客さんに呼ばれるのは大迷惑。我々お客さんは彼女・彼らにとっては仕事を増やす邪魔者にすぎません。

一方で民営のレストランに行けば、店員はすぐに飛んできて大接待。そして一番高い料理を勧められます。外人は学生であっても彼ら彼女らにとっては大金持ちですから(なかなか食べたい料理を選ばせてくれないので、これはこれで面倒でしたが)。

これは公共交通機関のチケット売場も一緒。基本チケットを売るような面倒はできるだけ回避したいのが人民。チケットを取るのは「メイヨー(ありません)」攻撃をいかに回避して獲得するか、でチケットが獲得できると歓喜状態。旅行中は「これでやっと次の街に行ける、万歳!」という感じ。

接客してもしなくても給料は同じですから。その辺り人民は合理的存在ではあります(だからこそ私有財産を認めて自由経済に転じれば、あっという間に経済成長。成長に取り残されたという人民だって当時よりは、はるかに豊かな生活を送っています)。

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(外灘を走る連結型トロリーバス)

そこで人民はどうするかというと「賄賂」と「コネ」を使うわけです(私たち留学生は外人かつ学生という強みがあるので人民よりはまだチケットは買いやすい)。

コネを使うにもコネを持っている人にプレゼントが必要。中でもプレゼントとして絶大な効果があるのは、中国が外貨獲得のために外国人専用商店で売っている贅沢品。

そうすると人民は、外国人専用通貨=兌換券(今はありません)が必要となり、我々外国人から必死に兌換券と人民元を交換してもらおうと我々に近寄ってきます。当時の闇相場は兌換券1元あたり人民元1.6元ぐらいだったか。

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(ブロードウェイマンションからの眺め)

というわけで「結果平等が何をもたらすか」。こんなほんのちょっとの紹介でもよく理解できると思います。今の我々には想像もつかない世界かもしれませんが、実際に隣の国で40年前にあった世界です。

でも個人的には本当に貴重な体験でした。

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