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デザインのコツ:感覚は「セロリ」である

※今回のテキストの中に出てくる「デザイン」は主に装飾の部分を指しています。
22.5.8 加筆修正

デザインは感覚で判断されやすいもの

僕自身は、基本的に人にモノを教える・伝えるというのが得意ではありません。それが抽象的・感覚的なニュアンスのものだとなおさらです。

算数や社会・歴史とかであれば、公式・教科書に沿っていけば答えが導き出されます。1+1=2が正解で、1+1=5が間違っているのは、誰の目から見ても明らかですよね。

しかし、デザインとなるとそうもいきません。良くも悪くも正解がない。デザインの善し悪しを決めるのは、最終的にはなにかしらの「感覚」になるからです。

全ては感覚、というのは乱暴な結論ですが、誤解しないように書いておくと、デザインが天性の第六感の閃きによって生み出されるということはありません(一部の天才を除く)。
しかしデザインの決定が、最終的に人(特に決裁権のある人)の「感覚」に左右される点を考えると、「感覚」が決定打になるというのは間違っているとは思いません。(人の趣味嗜好を完全に排除はできません)

「感覚」は「セロリ」である

この「感覚」、言葉にするの、難しくないですか? 例えば「可愛い・かっこいい」という形容詞。その人の感性に基づいていたりするので、みんながみんな、同じでないのです。

佐々木希さんを「かわいい」と思う人もいれば「きれい」と感じる人もいるでしょう。菅田将暉さんを「かっこいい」と思う人もいれば「かわいい」と思う人もいるかも知れません。

なにがいいたいかというと、本当に感覚は人それぞれ。SMAPの名曲「セロリ」で「育ってきた環境が違うからすれ違いは否めない」と歌っていた、まさにそのとおりです。
だからこそ、デザイナーはヒアリングやムードボード・もしくは参考画像なんかを用いて、クライアントと綿密にすり合わせを行い、自身の感覚とクライアントの感覚をチューニングする作業を行うわけです。

※念のために補足すると、クライアントの好みに合わせてデザインを作る、ことの正誤を問うつもりはありません。クライアントの趣味嗜好を無視してデザイナーの思うように作ることも、これまた違うと思っています。デザインはクライアントとの共同作業なので、双方が納得行く形のアウトプットを目指すのが責務だと思います。

話がそれつつあるので本題に戻しますが、このデザインの評価で存在感を放つ「感覚」。これがあるからデザインを伝える・教えるというのはとても難しいのです。なんというか、人の数だけ答えがある=答えがない。

もちろん、いいデザインには一定のセオリーや法則はあります。それこそリサーチを用いてユーザーのインサイトを導き出し、それを解決するデザインをする、というような方法も多く生み出されています。デザインスキルを持っていない方であっても、上手く用いることができれば、デザインの骨格になる部分を作ることはできるでしょう。

しかし、その課題をビジュアルなどのアウトプットに落とす段階では、様々なセオリー・法則をデザイナー自身が駆使し、最後の最後は自身の感覚による調整が必要、というのが正解です。この部分はどんなにプロフェッショナルなデザイナーであっても、最後までもがき続けるところです。

だって、答えがないものの答えを決めるのは自分であり、クライアントなんですから。それでも、その当て無き道をたどって、納得行く答えにたどり着くには、デザイナー自身が「コツ」を会得する必要があります。

アウトプットの段階では、デザイナーが答えを探す必要がある

コツの正体

自転車に乗る、という技術に例えるとわかりやすいでしょうか。
コマなしの自転車に乗るには、姿勢・体重移動・ハンドル操作・もしくは自転車のサイズなど、様々な条件があります。「この角度・重心でサドルにまたがり片足は地面についたままペダルに40kgの圧力をかけて時速10kgの回転速度で漕ぐと自転車が慣性の法則で自立し自走する」という理論があったとして、それを知ってれば誰でも乗れるでしょうか。

知っているから体もそのとおりに動かせる、わけではないんです。最終的には、自転車に乗る人が「コツを掴む」しかありません。
辞書によれば、「コツを掴む」は以下のような意味があります。

物事の要点を把握し、核心を外さないように扱うさま。要領を得た様子。

weblio辞書 実用日本語表現辞典より

この「コツ」に当たる部分が、デザインには多くあると思うのです。

自転車に乗る技術同様に、デザインにも多くの技術が存在します。ワイルドなデザインにするにはこう、可愛らしいデザインはこう、高級感を出すにはこう、というような一定の法則やルールは存在します。また、デザインの4原則というような絶対的な大原則のようなものもあります。これらを理解せずにデザインをすることはできません。

デザインのコツ

自転車に乗るということが、いろいろな技術の掛け合わせで、最終的に当事者の体感(安定する乗り方を頭で覚えて体が理解する=本人独自の感覚)が合わさることで初めて成り立つと同じように、デザインにも、様々な知識の集積と合わせて、本人の知覚=体感によるものが多く存在します。

知識だけでは上手く作れないし、IllustratorやFigma・Photoshopの技術だけあってもデザインはできないのです。知識と経験の掛け算こそが「コツ」だと僕は思います。

デザイナーの水野学さんの名著「センスは知識から始まる」で、とても詳しく描かれていますので、ぜひ読んでみてください。本稿では「コツ」としていますが「センス」と読み替えていただいても構いません。

コツを伝えるのは難しい

さて、デザインのコツは「知識と経験の掛け算」と書きました。今まで多くの新人デザイナーさんと接してきて感じたのは、コツの公式を上手く理解してもらうのがとても難しいということです。
デザインのノウハウの中には抽象度が高く、一度では理解できないものがたくさん存在します。僕自身、自身で学び、やってみて、見せてもらって初めて理解できるものが多くありました。

たとえば「ジャンプ率」というワードがあります。詳しい説明は以下のリンクに詳しいので割愛しますが、要するに要素と要素のサイズ感のバランスのことを指しています。メリハリ、というとわかりやすいかもしれませんね。

例えば要素の大小を大きくつける元気なイメージ、大小の差を少なくすると上品なイメージに、というような具合です。これ、字だけ見ると簡単に見えますが、実は非常に難しい。何%の割合にすると丁度いい、なんていう公式はありません。これをいかに上手く全体の中に溶け込ませるか「これぐらい」のバランスが一番ちょうどよい、という部分が「コツ」になります。まさに自身の知識と経験から導き出される答えです。

とはいえ、これを独学でやるのは相当難しい。客観的な視点で、自身の感覚をチューニングする必要があります。

たとえば新人デザイナーの見せてくれたデザインに対して「このデザインはメリハリが大事だからもっとジャンプ率をあげよう」と、言ったとします。しばらくして、修正が上がってきました。それをみてあなたは頭を抱えます…。

これの何がいけないのでしょうか。デザインの指示としては間違っていないのですが、問題は、当人の中にカイゼンの具体的な道が見えていないことです。なぜなら、カイゼンの方向性の抽象度が高いから、と言えます。

なので、僕がデザインのレビューをするときに心がけているのは、指摘するだけでなく、お手本を見せてあげるようにします。(言葉にするのが難しいというのもありますが…)

人の手を借りて感覚をチューニングする

やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ

大日本帝国海軍 連合艦隊司令長官 山本五十六

これは大日本帝国海軍 連合艦隊司令長官 山本五十六が述べた有名な言葉ですが、デザインのレクチャーにおいてもまさにこれは当てはまります。
相手のレベルを見て、これはまだ難しそうだと思えば、参考になりそうなものを見せつつ、実際に手を動かしてお手本を見せます。

「このデザインは元気いっぱいな感じがほしいので、なるべくタイトルの文字は大きく見せたい。ただ、目立ちすぎるのも良くはないので、これぐらいのバランスに抑えよう、ここを目立たせると、この写真が目立たなくなるので、少しサイズを増やしてバランスを整えましょう。ほら、どう?」

というような具合です。目標とする状態(抽象)とお手本(具体)を示しつつ、作ってくれたデザインと並べてビフォア・アフターを確認します。そうすると、どこが変わったか・どう改善されたかが一目瞭然で、本人の中に知識としてインプットされていきます。
理解してもらった後は、本人の手で同じように作ってもらい、それに対してさらにレビューを加えます。こうすることでインプットとアウトプットを同時に行い、人の手を借りて感覚をチューニングし、知識と経験をつなげることができます。

足りない部分を、補ってあげるイメージ

ワカラナイが分からない

よく聞くのが「指示を出しすぎると自分で考えなくなるのではないか」という意見です。これも間違ってはいません。あまりにも答えを出しすぎるのは本人の考える余地を奪ってしまい、指示を待つようになる危険があります。

が、最初から自分で考えさせすぎるのもあまり良くはないと思っています。というのも、彼らが困っていることは「ワカラナイが分からない=どこが駄目なのかすら分からない」だからです。
これは自分自身が新しいことにチャレンジした際に感じたことですが、本当にどこがわからないのか分からないんですよね(泣
今の自分でもそうなので、新人さんとかはもっとそうだと思います…。

教える側は、お手本を見せ、やってもらって、本人の弱い部分をチューニングしていくことに注力するのが良いと思います。ときには「どういうデザインにしたい?どこが引っかかっているポイント?どうすれば改善されると思う?」などと質問し返しても良いでしょう。
おそらくふわっとした答えが来ると思いますが、そこはグッとこらえどころ。「なるほど、その通りだね。あともう一点あるとすればここを調整したほうが良いね。ほらこんな風にするとどうかな?」と、先輩として新たな視点を与えるとよいかもしれません。

経験値が低いうちは「知識と経験の掛け算」の応用が上手くできていない状態です。本人は覚えることで手一杯で、一度にすべてを吸収はできません。四則演算ができれば、因数分解も余裕だよ、と教える教師がいるでしょうか?英単語さえ覚えれば、英語なんてちょろい、などという教師を信用できるでしょうか?こういった個々の要素や公式を、ちゃんとつないで、使える状態にしてあげるのが、教える側の役目だと思います。

目標を伝える

指示待ちにならないためにできる作戦の一つに、本人にいずれは自立してもらうと伝えることができます。
僕は最初の会社に未経験デザイナーとして入社しました。そのときに伝えられたのは「2ヶ月後からはお客さんともやり取りしながら作ってもらう」ということでした。こうなると、覚えることに必死になります。もちろん、自立した後も先輩のレビューはたくさんもらいましたが、それでも覚えなければいけないという危機感はとても強く、学習に大いに役立ちました。
教える側は、なっていてほしい状態目標をまずは示しましょう。あまりにストレッチしすぎた目標はよくありませんが、実現可能な範囲で目標を伝えます。そのうえで、そこにいたるまでに覚えるべきことを丁寧に伝えていきましょう。

まとめ

デザインのコツの正体

それは「知識と経験の掛け算」です。知っていれば体を動かせるわけでもないし、体を動かせるから知っているわけでもありません。この2つの要素がしっかりと結びついてはじめて「コツ」を身につけると言えます。なので、どれか一つを極めるだけでなく、知識を吸収し、手を動かしてやってみるを繰り返し繰り返し行うようにしましょう。

コツの伝え方

デザイン全般のノウハウは、どうしても抽象度が高いものが多いです。四則演算を覚えたばかりの小学生が因数分解をとけるわけがないように、教えられる側もまだまだそこに理解が及びません。「ワカラナイが分からない」状態があることを理解した上で、まずはお手本を見せながら、丁寧に基本をインストールしていきましょう。そして徐々に応用へと発展させるようにしましょう。レクチャーする際は、指示のレベル感にも注意しましょう。見ている視点が違うと、どれだけ良いことを言っても伝わらないものです。(対クライアントに置いても同じですね!)

おすすめの本

最後におすすめの本を紹介します。というかもうこれを読めば、十分かもしれません...。

センスは知識から始まる/著:水野学

具体と抽象/著:細谷功

個人的な感想

ちょっと偉そうに書いた部分も多いですが、これはこの数年で自分が新しいチャレンジャーになって改めて思ったことでもあります。
言葉としてはわかるんだけど、それを上手く扱えないから困っている、だれか手本を見せてくれーーー!と何度も思いました。今までの経験から、なんとかやれないことはないんだと思いますが、本当に五里霧中になることが多くあって、そのたびに「助けてくれーー」と泣いておりました。

もちろん、それなりに経験を積んだ身なので、自身でなんとかすべきなんだとわかって入るものの、やっぱり応用は難しいんですよね…。できなかったときの自分を思い出して、あのときこうしてもらえたら嬉しかったろうな…という気持ちで、まとめました。

あと、経験の浅いデザイナーさんたちを何人かみてきた、純粋な知見としてもまとめているので、誰かのお役に立てると嬉しいです。

デザインはどれも抽象度が高く難しいものが多いですが、つかいこなせるようになるとせかいがひろがります。ぜひ、コツを掴んでデザインの世界を広げてみてください。

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