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手抜き病名?

皆様今年もよろしくお願い申し上げます。
すっかり更新が滞ってしまい申し訳ありません。

今年初の記事は今日の外来であった出来事をひとつ。

2週間前に「下痢と便秘を繰り返す」という主訴で他院で過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome、以下IBS)と診断されて内服処方をされた方。
内服はしているがあまり改善がなく便秘がメインになってきたので下剤が欲しいと私の外来を受診されました。

話を聞くといろいろなストレスがあるとのことで、それは前医でもお話をされていたためIBSという病名が付けられて処方がなされたのだとは思います。

処方された薬は整腸剤とIBSの適応がある消化器薬でした。その他今回処方されていない薬剤にはIBSにのみ適応がある薬剤も存在します。

さてこのIBS、簡単に言えば内視鏡検査などで異常がないにも関わらず下痢や便秘などの症状を繰り返すもの全般を言うようです、要は精神的な要因などで発症するものを言います。良くある例では「トイレに行けない環境になるとトイレに行きたくなる」
例えば「長い会議が始まる」「急行電車に乗る」などトイレに行きたくても行けないという心理的ストレスが影響するとも言われています。

さて今回の方はそんな診断にて内服薬2種類を2週間飲んでも改善がなくむしろ便秘気味になってきたと。

まず私が聞いたのはストレスがあるとのことだったので
睡眠がしっかり取れていますか?という点でした。

するとやや驚いた様子で「なかなか寝付けなかったり、寝てもすぐに目が覚めたりします」という返答。当然ストレス過多で過緊張状態から交感神経優位な状態になっていることが予想されます。そんな睡眠状態ですから、真逆の副交感神経支配である胃腸の動きは悪化するのが当然です。

副交感神経優位、つまりリラックスした状態で眠っている間に胃腸が動いて朝にすっきり排便があるのが理想ですが、それとは程遠い状態です。そう話すとその方もかつてはそのような良好な状態だったそうです。

何らかのストレスに長時間さらされた結果現在のような状態になってしまったと予想されます。

ですのでまずは睡眠状態の改善をアドバイス。
 ・就寝前1時間程度でテレビ、スマホ、パソコンなど                            見ないようにする
 ・入浴時、就寝時などはリラックスできる音楽を流す
 ・なるべく部屋は真っ暗に
などです。
目からの刺激は脳を活性化させて交感神経優位にします。逆に音楽によって副交感神経を優位にすることで良眠に誘うのが目的です。

また腸自体の調子も改善させるために腸内細菌が喜ぶ食生活指導も合わせて行いました(こちらは詳細はまた後日)

つまりIBSという診断をしたまでは良いのですが、その原因となっているであろう部分には触れずに薬を出して結果治らないというお粗末な対応だったということです。
そもそも原因となるストレスなどの要因は多岐に渡るのにも関わらずIBSに対して適応の通った薬剤があるということ自体が既に「大きな怠慢」なのではないかと思うのです。

この方には整腸剤を継続として、便秘が相当辛そうだったので便秘に対する薬剤を少量追加させていただきましたが、睡眠、食事指導などに非常に興味を持っていただき、お帰りの際には「御丁寧にありがとうございました!」と笑顔で帰って行かれました。
時間と手間はかかりますが、報われる瞬間です。

改めまして皆様本年もよろしくお願い申し上げます。


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