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走る才能を考えるとき

「この子は将来有望、活躍できる」

初見で一際目立ったパフォーマンスを発揮する子を見たときに少なからず、その分野に関わっている人なら感じたことがあるのではないでしょうか。私も長く長距離走に関わっていると、自身が選手の時も、コーチの立場になっても、「この選手はポテンシャルが高い、将来はすごいレベルまで伸びるのでは」と考えることはしばしばあります。

長距離走の才能を考える時、どう才能を定義するのかは人によって異なると思います。そして一番多く考えられがちなのが以下の意見ではないでしょうか。

「練習を行っていない状態、または競技を始めて短期間でどのくらいのレベルにあるか」

つまり伸び代(まだ専門的な練習を多く積んでいない状態)がある状態で、パフォーマンスがどのくらい高いかによってポテンシャルが高い、才能があると考えやすいと思います。

他にも走りのセンスがいいなども関与すると思います。しかし、ここでも良い走りの定義が人によって異なります。バネの効いた走り(弾むように推進力のある走り)、腰高、腕振りなどみるポイント、重視するポイントは違い、フォームが自分好みかどうかも意識的であれ、無意識的であれ物の見方に少なからず影響はすると思います。研究者的な観点からは言えば、走りの効率性(一定のペースを少ないエネルギーで走れるか)、特定の遺伝子があるか、生理学的指標が高いかなどを挙げる場合もあるかもしれません。

いずれかの考えによって才能を定義するにせよ、将来、最終的にどのくらい速くなるのかの予測に用いるものだと思います。そのため成長の早い段階で速く走れる子はスカウトの目が止まり、推薦によって高校、大学へと進学します。

ただ将来どのくらい速くなれるか、活躍できるかには個人の肉体的能力以外にも関与する要素が多くあり、それらが複合する上で競技パフォーマンスは成り立っています。

学生の時にコーチ、両親、チームメイト、外部の陸上関係者にどのようなフィードバックをもらうのかは本人の意欲に影響し、続ける、辞めるの選択が分かれることもあります。

実際に当時チーム内で一番走力が低く、練習から離れてた日に、たまたま他校のコーチに「君は才能がないから他の競技をやった方がいい」と言われて本当に辞めた選手もいます。

また母校の先生から伺った話では入部当時はウォーミングアップについていくのが精一杯で先生も続けさせるか迷ったが、その時は見守ることにした結果、みるみる走力は伸びて3年時にはチームのエースに、現在では実業団で活躍する選手までになっています。

成長過程でどのような人々に出会うか、大きな困難に直面した時にそれまでどのような経験をしてきたかでも物事の捉え方は変わります。

例えば前者の選手がこの出来事の前に、何か他の取り組みで他者から同じような事を言われても、続けた結果、成果を出した経験があれば辞めずに続けたかもしれません。

逆に後者の選手が早い段階で成果が出ないことは自分に向いていないと教え込まれたり、そう思い込むような出来事を経験していたら、そのまま辞めていたかもしれません。

部活でもクラブでも、チームで競技を続ける以上、そのチームの練習システムが構築されている場合がほとんどです。そのシステムに適合できるかどうかも、個人がどう伸びるかに大きな影響を与えます。システムというのは練習の面だけでなく、生活、人間関係も関与し、寮生活となればその影響はさらに大きくなります。競技の面では上手くいっていても、人間関係がうまくいかず、辞める人もいると思います。逆に関係性は上手くいっているが、練習のシステムに適合できず、例えば繰り返す故障、それでも練習はチームに合わせないといけないなどにより練習を積めずに力を発揮できないケースなどです。

将来の競技での成功要因を考えると各成長段階で考慮する要素が変わり、才能を語るときの見る点も異なってくるものだと思います。
例えば競技を始めたばかりの子なら意欲、初期段階での能力など、プロのレベルまでいけば、練習外の生活、故障をしない、レースの戦略、ピーキング能力など細かい点が重視されます。

ただ競技の発展を考えると、現時点の単調な視点で将来伸びる、伸びないの指標を用いて選手に影響を与えてしまうと、競技への参入が減ることに繋がるかもしれず、それが一番避けるべきことかもしれません。


今、あなたが選手なら将来どうなるかよりも続けたいならまずは続けてみること、指導の立場なら関わる選手の事をしっかり見て、まずは競技を続けてくれることを考えて指導をする必要があると思います。

日常からの学び、ランニング情報を伝えていきたいと思います。次の活動を広げるためにいいなと思った方サポートいただけるとありがたいです。。