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連載『オスカルな女たち』

《 過去からの手紙 》・・・16

〈遅くなってごめんね…今、帰ってきた〉
《織瀬(おりせ)さんは…》
〈うん。今、おりちゃんのマンション。旦那様と連絡がつかなくて…放っておけないから〉
 泊まることにした…とまでは言う必要はないだろうかと、中途半端に言葉を飲み込んだつかさ。自分はいったい誰に気を使っているのか。
 連絡がつかない夫のことをどう思っているのか、それとも無理に連絡を取りたくないのか、体調の悪い織瀬に聞くこともしなかった。
《そうですか…。落ち着きましたか?》
〈うん。点滴でだいぶ痛みも治まったみたい。やっぱり胃痙攣だったみたいだけど、胃潰瘍になりかけてるって言われた〉
《胃潰瘍?》
〈仕事が大変なのか、な…。他に悩みを抱えてるのか…とにかく、大事には至らず帰ってこれたわ。…心配かけたわね〉
《いえ。落ち着いたのなら…よかったです》
 どうして一緒にいたの…とは、聞いてはいけない気がした。
《連絡、ありがとうございました》
〈うん。折を見てお店にも顔を出すわ。ふたりで〉
《…あ。はい。お待ちしてます…》
 心なしか、歓迎されていないような気がした。勘ぐりすぎだろうか。
(あたしが気にすることでもないのか…)
 カウンターを挟んだふたりの姿を眺めながら、口数も少なく、出してもらった一杯だけでふたりは店を後にした。

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