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連載『オスカルな女たち』

《 過去からの手紙 》・・・2

「昔は銀行いかなくても、行員が家に来てくれてたろ? そういう付き合いがあるから、葬儀の日もお焼香に信金の人が来てくれてたんだよ。今じゃ考えられないけど、な」
「あぁ、信金の近藤さん」
「…葬儀の時、つき合いのない親戚やら遠縁の連中に引っ掻き回されて、姉貴も大変だったろ。…せっかくの誕生日に、毎年親父の葬儀のこと繰り返し思い出させるのはかわいそうだって、母さんが」
「それは…」
(そうだけど…)
「だから、旧姓のままだったのね…」
 それは合点がいった。しかし、
「気づけよ…」
 呆れた継(つぐ)言葉に、まだ納得ができない。
 通帳があったからといってどうだというのか、吾郎とは無関係ではないのか…そう言いたい気持ちを抑えて口ごもった。
  事実、毎年自分の誕生日の朝は必ずと言っていいほど葬儀の日のことを考えてしまう。
(でも…)
 よくよく考えてみれば、今までひとりだったことはなかった。弟たちが家にいる頃は家族の誕生日には必ずバースデーケーキを作った。それは自分の誕生日も例外ではなく、なんだかんだと弟たちにいいように焚きつけられ、自分で自分のバースデーケーキを作らされて弟たちにふるまった。
  結婚当初は吾郎と一緒だったし、吾郎が出て行ったあとは必ず弟たちの誰かが傍にいた。そして誰も都合がつかなかった年には犬が送られてきた。

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