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江ノ島に一人で海水浴に行ってキスをみた話

大人になって海水浴に行ける人は幸せな人です。
これは間違いありません。陰キャで恋人がいない者は海には寄りつかないからです。


僕は十数年、海水浴に行ってません。海あり県、なんなら港町に生まれたのに、海に泳ぎに行ったことはほとんどありません。

海に行く機会は大人になるにつれ減ります。遠いし疲れるし焼けるしでそもそもがコスパ悪めなエンタメ、それが海水浴です。
陽キャの友達に誘われるとか、恋人や気になってる人がいるとか。海辺の景色や空気を共有しながら身体を動かすのが、海水浴の楽しさの大部分な気がします。

それを思い知ったのは、一人で江ノ島に海水浴に行った時でした。海水浴場に単身で行ってはいけなかった。


水着ギャルへの憧れ


海水浴場に憧れていました。ギラつく太陽の日差しがそそぐ砂浜、常夏のビーチに咲くビキニ姿のいい女。サザンオールスターズが歌い上げる理想の艶かしい世界。


数年前の夏。
海に泳ぎに行きたい気持ちが満タンになりました。
どういうわけか、己の人生に足りないものは“海辺のド派手な経験”に違いない、という仮説を立てました。もっと海に行って遊ぶような人間なら、人生はバラ色だったのではないかと。
正確に言うと「水着のギャルを一度でいいから生で見てみたい。見ないまま死ねるか」と一念発起したのでした。

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海にいけば開放的な女性との出会いがあるかもしれない。にも関わらず海水浴に行かないのは人生の損失ではないか。悔恨の念が募りました。


海水浴場のドレスコードがよく分からなかったので、スポーツ店で水着と競泳用キャップ、ゴーグルを揃えました。画像参照です。

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江ノ島の孤独


思い立った翌週、一人で江ノ島にいきました。
江ノ島を選んだ理由は、マジでそこしか海水浴場を知らなかったからです。出典は勝手にシンドバッドです。

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「江ノ島が見えてきた〜♪俺の家も近い〜♪」


単身で江ノ島に赴いた僕はすぐに後悔しました。「お一人様の来る場所じゃない」と直感しました。

見渡すかぎり、男女のカップルか大学生風の友達連れの集団しかいません。みな肌が焼けて茶色い。健康的に引き締まっている。僕のようなひ弱な白肌ぶよぶよの、一人で海に来てそうな人間が江ノ島にはいませんでした。

砂浜は、引き締まった肉体美を披露するショーのようです。だから"夏がくるから痩せなきゃ"という価値観があったのか。週4ラーメン二郎で叩いた120キロのわがままボディが鈍色の存在感を放つ。

焦がれるような恥ずかしさを感じる。湘南のギラギラ太陽ビーチに、ふさわしくない己の場違い感。家でゲームをしてればよかった。が遅い。海に来てしまったのだ。

水着のぴちぴちギャル(©︎亀仙人)はそこそこいました。ナンパをする度胸はないので遠くから観光名所のように眺めました。度がついてないゴーグルを買ったため、あまり見えませんでした。何もかも上手くいかない。

寂しい。真夏のビーチで、こんなに孤独なことがあるのか。灼熱の太陽が俺とギャルを責め立てるはずだったのに。
小さいカニを目で追うだけの時間がありました。カニやエビって絶対陸で見かけたら虫だと思って食べられないよ…とか考えてました。


泳ぐ気にもなれず砂浜であぐらをかいていたら、こんがり焼けたぽっちゃりめな男の子が僕に近づいてきます。

男の子「かき氷いりませんか?」
海の家の売り子でした。とりあえずその子に着いていってかき氷を食べました。
500円なら高いなぁと思うくらいのガリガリ氷が800円でした。しかし、初めて夏の海らしいことができているという感動がありました。イカ娘の舞台でもある海の家に来れたのも嬉しかったです。

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(イカ娘のアニメが10年以上前って恐ろしいな…)


そんなこんなで気を取り直して、ようやく海に入りました。江ノ島の海は綺麗ではありません。沖縄みたいな透きとおる感じじゃなくて、ちゃんと生前は濁った川だったんだというのが伝わってくる茶渋色。

海辺ではみんな楽しそうにキャッキャと泳いでは水をかけあったり、ビーチボールで遊んだりしてます。
彼らを尻目に、自分は海岸の端から端をクロールで泳ぎ抜きました。それを何セットか繰り返す。死ぬほど疲れたし、世界で一番つまらなかった。海でシャトルランをやっている気分でした。


海の上でキスをする男女

海の上で、一組の男女がぷかぷか浮いていました。ポケモンの21ばんすいどうみたいに。目があったら泳いできて勝負仕掛けられるやつのように。

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近づいて分かりましたが、二人はキスしていました。海の中で抱き合っています。

どうせならキスをよく見ようと、カップルの周りを泳ぎました。何度も男女のそばをぐるぐるクロールで泳ぎ回りました。キスなんて滅多に見られませんし。ひとの家の火事ぐらいの気持ちで見てました。

しかし二人はこちらに目もくれずキスを続けます。明らかにヤバイヤツが周囲を漂っているのに。一切気付かない。

キスって凄いんだな、と思いました。これが愛の強さなんだ。二人が抱き合う姿は映画のラストシーンのように神秘的でした。

ひと通りキスを見終わった後、急に強い疲労が襲ってきました。体力だけでなく、MPも削られているようでした。僕は江ノ島に男女のキスを見に来たんだと思うと惨めな気持ちで一杯になりました。

砂浜でただずんでいると、焼けたぽっちゃりめの男の子が僕のところに向かってきました。海の家に連れて行ってくれた子です。寂しさを紛らわすために話せるな、などと思っていると

男の子「かき氷いりませんか?」

と言われました。かき氷のおかわりってあるんだ。よほどかき氷を食べそうなヤツと思われてるのかもしれない。

何もやることがなかったので、海の家にいって800円のかき氷を食べて、その足で快速電車で帰りました。

江ノ島にカップルで行くのが夢になりました。
ここまで読んでいただきありがとうございました。





P.S.

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これは銀兵衛のあゆむくんが海で溺れかけた時、偶然イルカに救われたときの写真らしいです。奇跡すぎて面白すぎるのでおすそ分けです。


#海での時間









身に覚えのない慰謝料にあてます。