見出し画像

おいしいは正義? 肉食を再開したわけ

「食」の話は飽きない。思いを巡らすのは楽しい。

とはいえ、何がそんなに面白いの? 興味をそそられるの? といわれそうなことを壁打ち的に書いているだけ。でもいいんです。ただの思考のお遊びですから。笑
 

 
さて、日本人の肉食の話です。

建前ではそうだったとか、諸説ありますとか、そういうことは承知の上で、あえて物事を単純にして進めますが、この土地に生きた古の人々は、肉を食べることから一時期、遠ざかっていました。

個人的には、遠ざけた理由に関心あるのですが、話をそちらへ向ける前に、禁制をひるがえし公然と肉を食べるようになった経緯をみてみたいと思います。

『ダメ!肉食!』という禁忌は、行政的にも倫理的にも、依然として効力はありましたが、暗黙のうちに肉を食べる人たちはそれなりにいて、そんな彼らを忌み嫌う人たちも根強くいて、ただ肯定派と否定派をひっくるめて社会全体としてみると、肉食の習慣はまだまだ稀だった。というのが、江戸時代の終わりまでのこと。その状況を一変させたのが、維新後の文明開花でした。

『ダメ!肉食!』なんて戯言だ。肉は栄養に富む優れた食材である。と、西欧から入ってきた思想や文化に触れた知識人たちが唱えはじめたのです。一方、戊辰戦争で負傷した侍らや、日清戦争・日露戦争に赴いた兵士たちは、「生命が惜しければ肉を食え!」「勇ましく戦うには肉を食え!」とばかりに、その時々の政府から強く促されたといいます。

肉食のハードルが低かった知識人たちは都市部に多くいたので、そこでは洋食を提供する飲食店が受け入れられて、肉料理を食べる機会が増えていきます。対して、農民のいる地方では、戦いを終えて帰郷した兵士たちから、軍隊で食べた肉料理のおいしさや、食材としての肉の素晴らしさを繰り返し聞かされたことで、肉食への強い抵抗を解いていくきっかけにしたそうです。

やはり、お肉はおいしかった。笑

こうしてみると、上からか外からかの違いはあるものの、人々は何らかの“圧力”に促されて肉食を再開し、その味を肯定的にとらえ直したようです。

その間、どれくらいの年月がかかったのでしょう。幕末から明治維新、大正あたりまでのことですから、半世紀ほど? 人間の生きる時間からすると、1世代か2世代くらいでしょうか。

つまり『ダメ!肉食!』という、およそ1200年もの間、保たれた社会通念は、ほんの50年やそこらでひっくり返ったというわけです(米を基盤とした国家体制の下、人々を稲作に縛りつけるための効力があっという間に……)。

まさに、おいしさは正義。食にこそ人の道理あり。食欲は最強ですね。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?