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「失踪の理由(わけ)」・・・隠そうとするものほど、明るみに出てしまうものである。

あっという間に読める、超ショート怪談。でも、その場面と背景にあるものをよ~く想像してみると、じわっと何かが迫ってくる。


『失踪の理由(わけ)』   by  夢乃玉堂

「買い物に出たまま帰らないんだ」

奥さんの捜索願を出しに行くという青木に付き添って
地元の警察署を訪ねた。

「失踪は、その原因を突き止めることが
何より肝心です。
原因が解決しないと、見つかってもすぐに又
いなくなってしまう事が多いのです。
ですから、夫として、
何か出て行く原因は思い当たりませんか?」

緊張感の無い警察官の質問の中に、
責めるような含みを感じて、俺は少し腹がたった。
しかし青木は特段気にする様子もなく、
生真面目に警官の質問に答えようとした。

「原因と言えるような事は何も。
いなくなった日もいたって普通でしたし・・・
なあ。裕子の行きそうなところは覚えが無いか?」

青木は、俺の方に体を向けて問いかけてきた。

「海は行かないよな。山かな」

「どうだろう。山は無いんじゃないか」

俺は、何となく否定したが
青木は俺の言う事を聞いているのか聞いていないのか
自論の展開を続けた。

「やっぱり山かな。山のような気がする。
遠くの山かな。近くの山かな。どっちだと思う?」

「分からないけど。遠くじゃないのかな。
何かが嫌になって家を離れたいなら、遠くに行くだろう」

「そうかな。近いところにいるような
気がするんだけどな」

青木はまたもや俺の言う事を無視した。

「ああ。そう思うのは勝手だがな」

俺はいきおい冷たく答えてしまったが、
青木は相変わらず生真面目に話を続けた。

「近くの山というなら、
夢美山か、奥田山。
去年の秋、お前の奥さんたちも一緒に
登山をした夢美山かな。どう思う?」

人の言う事を無視するくせに、
青木は質問を重ねてくる。
俺はちょっと意地になり、
青木に認めさせたいような気分になった。

「夢美山は違うだろう。
運んだりするのは難しいからな」

「運ぶ?」

一瞬で部屋の中の空気が変わった。

しまった。
俺は後悔したがもう遅かった。
警官が立ちあがり、
今度は俺に聞いてきた。

「運ぶってことは、自分で動けない状態だということですよね。
奥さんは失踪したのではないのですか?
誰かが運んだんですか?」

「あ。いえ。それはその・・・」

俺は助けを求めるように
青木の方を向いた。

青木は、すべてお見通しだという目でこちらを見ていた。

その時俺は思い出した。
青木の実家が、青森の古い名家で、
イタコの血を引いていることを。


                        おわり



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