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「猿の手」その1・・・超ショート怪談。願いは3回までと言われたら。


「なあ。猿の手って、知ってる?」

タケシは奇妙な事を聞いて来た。

「知らないけど。何?」

「それを手に入れると、願いを3回かなえてくれるグッズと言うかアイテムというか。まあ魔法のツールだな」

「ああ知ってる。ウサギの手とか、どくろの彫刻なんじゃないの?」

「色々あるのさ」

「それって、大概はうまくいくように見えて、結局不幸な結果になる、という話よね」

「そうさ。あと、願いを見事に叶えたら、悪魔がやってきて魂を持って行かれるバージョンが多い」

「それじゃあ。私はいらないかな。救いがないじゃない」

「そう。救われない。
例えばこんな話さ。老夫婦が手に入れて、一つ目の願いとして、「1億円欲しい」と言う。すると、一人息子が交通事故で亡くなって、生命保険金一億円が支払われる。
落胆した老夫婦は、二つ目の願いで「息子を生き返らせてくれ」と言う。
すると、急に嵐が吹いて家が揺れ始める。
どこか遠くから怪しいものが近寄って来る気配がする。
そしてついに、ドアを強い力でガンガン叩いてくる。
余りの恐怖に、老夫婦は三つ目の願いを使って
「もとに戻してくれ」と言う。
途端に嵐は収まり、ドアを叩く音も消える。
その恐怖とショックで、老夫婦は魂を奪い取られたように
なって亡くなってしまう。最後に悪魔が笑っている。そんな感じ」

「やっぱり嫌だ。どうなっても悲劇じゃない」

「そう思うだろ。でも俺は、それを打開する方法を思いついたんだ」

「どうするの?」

「いいか、三つしかないから、すぐ終わってしまうんだよ。
俺なら、最初の願いで、『叶える願いを1000に増やしてくれ』って言う」

「なるほど、その手があるか」

「な、簡単だろう。俺はそうやって絶対幸せになってやる。ハハハ」

タケシは、どや顔で笑った。

でもね。呪いの品や悪魔は、そんなに甘くないと思う。
「三つの願いを叶えると魂が取られる」、というのは、
「三つごと」という意味じゃないのかな。
だとしたら、1000回に増やしたら。
魂を330回以上持って行かれる、という事だ。

つまり、今世だけでなく、来世も、その又来世も、さらにその先も。
いつまでも生まれ変わるたびに、魂が奪われてしまう。
魂が生まれる前から悪魔のものに、なっている人間なんて・・・。

つけっぱなしになっているテレビから
ニュース番組が流れている。

戦争、殺人、詐欺、凶悪な内容の事件が続いた。

「もう願いを増やしちゃった奴がいるのかもね」

「え?どういう事? 俺のアイデアを横取りした奴がいるって事?」

「のんきね、あなたは。でも、私の願いも一つだけ聞いてくれる?」

「うん。いいよ」

嬉しそうに待ち構えるタケシに、私は言った。

「自分の願いは、何にも頼らず、自分の手で叶える事。良いわねタケシ!」

タケシは困った顔をしてため息をつくと、黙って自分の手を見た。
その手はやせ細って、猿の手のようにも見えた。

「夢は自分で叶えなさい!」

おわり

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