「横にいるのは殺人鬼だ。あなたを殺そうとしている！」

突然スマホの画面にそんな文章が表示された。

「何だこれは？気持ち悪いな」　

と思って顔を上げ、隣の席を見たら、
隣に座っている男が、スマホと俺の顔を見て怯えている。

ちらと見えた男のスマホ画面にも同じ文章が表示されている。

まさかこの男、俺が殺人鬼だと思ったのか。
そんな文章ひとつで簡単に信じるなよ。
そう思ったが、匿名の電話ひとつで何千万も見知らぬ他人に渡してしまう人がいるのだから、スマホに表示された文章を信じる者がいてもおかしくない。

「おい。俺は別に」

殺人鬼じゃないぞ、と否定しようと体を向けたら、
その男は恐怖に顔を引きつらせて跳ねるように席を立ち、
込み合う車内を掻き分け遠くまで移動していった。

その後ろ姿を見送ると、今度は向かいの席から悲鳴が聞こえた。
サラリーマン風の男二人が互いの首を絞めあっている。

「やられる前にやってやる！」

そんな事を言いながら、もみ合っているのだ。
停めに入るか、と思う間もなく、電車の中は阿鼻叫喚の渦となった。

皆恐ろしい顔をして、殴り合い、蹴り合い、殺し合っている。

何が起こったのか分からず戸惑っている時に、
俺のスマホが震えた。
画面には俺の顔写真。その上に、「この男が殺人犯だ」という真っ赤な文字が。

「ばかな。何だこれは！」

次の瞬間、車内の全員が俺に近づいて来た。

おわり

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