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「空き地の王様」・・・ガキ大将が、みんなを集めた目的は?

『空き地の王様』


「お~い。子分ども、王様の命令だぞ。集まれ~」

五年生のツヨシ君は、自分の事を「空き地の王様」と呼びます。

ツヨシ君の小学校には、五年生はひとりだけ、
後は四年生、三年生、二年生。みんな年下です。

なので、登校する時も下校する時も、遠足の時でも、
ツヨシ君が子分のように引き連れて行きます。
本当は「王様」だったら「家来」なんだけど
ツヨシ君はあまり気にしていないようです。

「良いか。今から言うことを、耳カッポじって、よ~く聞けよ」

三丁目の空き地に集まった子分たちを前に
ツヨシ君は、大きな声で演説を始めました。

「はい。かっこいい王様」

三年生のショウタ君が、いつも一番最初に褒め言葉を言います。
気持ちいいくらいお調子者です。

「へへいのへい。王様」

一番年下のオサム君は、なぜか「へい」でしか答えません。
お寿司屋さんみたいで、みんなは少し笑ってしまいます。

「はいはい。偉い偉い王様」

おませなレイナちゃんは、面倒くさそうに答えます。
でも、この気のない返事が聞こえると
ツヨシ君はなぜか嬉しそうな顔をします。

「それで王様。用事は何なの、早く言いなさいよ」

「ああ。そうだな。え~と今日言いたいのは
この先、楽しいことは起こらないってことだ」

子分たちは何のことだか分からず、顔を見合わせました。
王様はそんな子分たちを見て、怒りだしました。

「なんだ、お前たちは。
よーく思い出せ。先週、先生が言ってただろう。
人の脳は一日経つと、体験した事を7割くらい忘れる。
今、どんなに苦しかったり、悲しかったりしても
新しく楽しいことが起こったら、すぐに忘れてしまう。
忘れるように出来てる生き物だから、
人は生きていくことが出来る、ってな。
覚えてないのかショウタ」

聞かれたショウタくんは覚えていませんでしたが
調子よく答えました。

「はい。王様。
覚えているような、いないようなですが、
でも王様が言うんだから、言ってたんでしょう。
確かに先生は言ってました」

それを聞いてツヨシ君は、とても偉そうな口調になりました。

「やっぱりなぁ。一週間も前の事だと全然覚えていないか、
だから、お前たちはダメだと言うんだ。」

ダメな奴と言われて、子分たちは不満げでしたが、
ツヨシ君は気にせず話し続けます。

「だけどな。俺様は、お前たちとは違うぞ。
王様はどんなことでも忘れないんだ。
タカスギ山に遠足に行ったことも、
ナガレ川で泳いだことも絶対忘れない。
もちろん、お前たちの顔も忘れない。凄いだろゥ」

「何よ。何が言いたいの?
そもそも楽しいことが起こらないってどういうこと?」

レイナちゃんが、いらいらして聞き返しました。
少し面倒くさくなったようです。

ツヨシ君は一瞬怯みましたが、
すぐに気を取り直して背筋を伸ばしました。

「いいか。なぜ楽しいことが起こらないか
それは夕べ、俺が神様にお願いしたからだ!

子分たちは、いよいよツヨシ君が何を言いたいのか
分からなくなってしまいました。

『この先どこへ行っても
俺の回りには楽しいことを起こさないでください』

って、三回もお願いした。
だから、ゲームだって負け続けるし、
テストで褒められることも無いだろうし、
駆けっこもビリッケツだろう。
福引もハズレだらけ、せいぜいティッシュだ。

もし神さまが俺の願いを聞いてくれなくて
お前らのことを忘れそうになるほど
楽しいことが起こったら、
俺はその楽しいことを忘れるくらい、
お前らを思い出して名前を叫ぶからな。グスン」

ツヨシ君は、必死に涙を我慢していました。


「どこへ行っても、何があっても
百万回も百億回も叫ぶからなぁ
だから・・・だから、お前らも、
俺のこと、絶対忘れんじゃねぇぞ! うわ~ん」

我慢できなくなったのでしょう。
ツヨシ君は大粒の涙を流して泣き出しました。

ショウタ君もオサム君も一緒になって泣いています。

「忘れないです。王様ぁ。うわ~ん」

「へへいの・・・ええ~ん。王様ぁ」

みんな、ツヨシ君が明日遠くへ引っ越して、
もう会えなくなると、知っているのです。

「まったく、しっかりしなさいよ
あんた空き地の王様なんでしょ。
そんな泣き虫の王様なんか、
誰も忘れる訳ないじゃないの
。クスン」

いつも不機嫌なレイナちゃんの頬にも、涙が一粒流れました。

そんな子分たちの姿を見ると
ツヨシ君は余計に涙が出てきました。
そして、涙をこらえるように空を見上げ、大声で叫んだのです。

「神様の野郎!
俺の身に楽しいことを起こそうったって、そうはいかないからな。
楽しいこと起こせるもんなら、起こしてみやがれ。
それでも俺はこいつらの事を忘れない。
絶対忘れないぞ~」

王様と子分たちは、抱き合って泣き続け、
まん丸で真っ赤な夕日が、
空き地にいる全員を温かく照らしていました。


                   おわり


以前、ヴォイスサンプル用に作った作品を加筆改訂しました。








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