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「信頼は人の心を動かす」・・・旅で見つけた物語を紹介します。


弁慶と義経の話

平家の落ち武者の話や浦島太郎の伝説、弘法大師の話などは
日本中に残っている。
実は、歌舞伎などで有名な義経と弁慶の話もいくつかの場所に残されている。
これはもしかすると、地方歌舞伎などの影響かもしれない。(実際のところは研究者にお任せします)


『関守の思い・・・』

安宅(あたか)の関の関守、富樫泰家は、

怪しげな山伏たちの正体を見極めようとしていた。

兄である源頼朝から追われた源義経と武蔵坊弁慶の一行が、

奥州平泉を目指して、関を通り抜けようとしている

と、知らせが入っていたのだ。

ある日、北へ向かうという山伏の一団の中に、

きゃしゃな若い山伏を見つけた。

屈強な山伏の中で妙に違和感があった。

「待たれい。そこな山伏。面を上げて顔を見せい」

一行に緊張が走った。

富樫が二の句を告げようとした刹那、その横に立っていた山伏が、

手にした金剛棒を振り降ろした。

「ええい。先を急ぐ旅だというのに。 おのれが義経に似ているために、 このような疑いをかけられるのじゃ」

何度も何度も打ち据える山伏の目に涙が浮かんでいた。

その時、富樫は悟った。

『間違いない。これは義経と弁慶だ。 だが、なぜそうまで主君を打ち据えられる。 まれに見る忠臣として音に聞こえた武蔵坊弁慶が あれほど強く主君を打ち据えられるものなのか。 義経もなぜ耐えておるのだ。痛くは無いのか』

富樫は、義経と弁慶の間に、余人には計り知れぬ信頼があるのだと思った。 そして、この主従の関係が、とても美しいもののように思えた。

「いやいや。もう十分分かり申した。お通り下され」

富樫は山伏一行の詮議を止め、関所を通した。

関所を通り抜ける時、弁慶は富樫に深々と頭を下げた。

富樫は、軽く会釈し、一行を見送った。

「羨ましいほどの信頼よの」

抜けるような青空が、安宅関を見下ろしていた。

心を動かされて何もしなければ、 自らを裏切ることになる。

義をもって人の道と呼び、慈愛にこたえて忠義が生まれる。

                   おわり

誰もが知る、勧進帳の一場面です。 この後、無事関を抜けたのを確認して、弁慶は土下座して義経に詫びるのですが、 義経は弁慶の心情をくみ取り、その行動力と機転を逞しく思うと言って 変わらぬ信頼を示したのでした。 安宅関は、石川県小松市の日本海側にあったと言われる関所ですが、 実はこの場所に関所があったとされているのは、謡曲の中だけで、 実際に関所があったかどうかは、はっきりとしていないようです。

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