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「人はつい闇の部分を見つめてしまう」・・・天空を渡る心。


『綱渡り』

摩天楼の狭間で、そんなものを見るとは思ってもいなかった。

友人にも恋人にも裏切られた俺は、故郷からなるべく遠く離れたいと考え、
地球の裏側までやってきた。

特に目的も無かった俺は、ただ都会をさまよった。
ある街かどで、人が空を指さしていた。

天空を歩く人の姿があった。

50階以上もある二つのビルの間にロープが張られ、
その上を男が歩いているのだ。

バランスを取るための長い棒だけを持ち、
1本のロープの上を命綱無しで男が歩いている。

その場にいる全員が息を呑んで見つめている。
俺は思わず、

「怖くないのか・・・」

と呟いた。
すると、隣にいた男が豪快に笑いながらに答えてきた。

「勿論怖いだろうさ。怖いに決まってる。
だけどな、怖さを知れば知るほど、生きてるありがたみって奴が分かるんだ。だから、生きてるうちは大いに楽しめば良いのさ」

そう言うと、男は高笑いをして、連れの女の肩を抱きよせた。

「あんた。生きてるかい? ハハハハ」

綱渡りが無事に終わった時、
ひとり残された俺は、暮れていく空を見つめながら
その言葉を思い出していた。

「生きてるうちは大いに楽しめば良いのさ」

俺は、暗い空に光る小さな輝きが、本当に愛しく思えた。



              おわり


地面やスマホばかり見つめていないで、上を見てみれば、何かに出会うかもしれない。闇に気を取られて、その中にある光を見つめられなければ、
人生を愛し続けることは出来ないのだ。


*加筆修正


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