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あたたかい砂

いっそわきまえていたつもりでいて
足元に流れ込んだ泉の目の覚める温度
いやいやながらに歩きはじめる
行かなくたっていい道を

南国の花の香は勇ましくすらある
ひと噛みの甘さをそこから拝借するたび
色づく口もとが他愛ない

花木のあいだ
千切るたび取り落として
もっとさいわいに顔を上げていられればよかったが
虫たちの歌う音階がそこかしこで燃えて
もがく指先をときどき焦がしていく

(ねえ、針を運んでいるって、どんな気持ち。
 ついぞ卵を通すことのない、その、針を。)

衣擦れの音は軋みで
私の芯にはどうやらシナモンとクローヴ
あるいは濡れたオークモス
あなたとは別の海を持っている

別の海を
あてもなく歩いて

わたしはまた眠るのでしょうか

水面にただよう星が
そのうちさびしくはちきれてなくなってしまうまで
波に打たれる岩壁が
ほどけてあたたかな砂地を作るまで

忘れる前にお話をしましょう
長い長いお話をいくつも
幾度のうたた寝を許してください
長い長いお話をいくつも

わたしたちはまた眠るのですから

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