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敬愛する元上司の話

10年前に3年だけ派遣で働いた大企業に、ものすごく仕事ができる上司がいた。

頼れる男

何を聞いても即答で説明が端的でわかりやすい。
その人に聞けばもう二度と同じことを聞くことはない。
みんなその人に聞くので、異動後の今の季節はいつも列ができていた。
まさに生き字引である。

いつも何も見ずに答えるので大ベテランだと思っていたら30歳で転職してきたというから驚いた。
その部署にいる誰よりも社歴が短かったのだ。

じゃあ高学歴なのかと思ったら、偏差値低めの高校卒だという。

え?天才?

視野が広い男

困ってふと顔をあげると視線が合う。
視野が広いのだ。

その人を見ていると、実によく見ていて色んな人を助けている。

しかも自分の仕事はミスしない。
その人がミスをすると、みんなまず自分を疑う。
あの人が間違えるわけない、と3人ぐらいでチェックしてからお伝えしていた。

慕われる男

内気な人で自分から話しかけることはないが、いつも穏やかなので話しかけられ、笑顔の中心にいる人だった。

頼られ、慕われる。
すごい。

モテる男

しかもイケメンで独身だった。
吸い込まれそうな綺麗な瞳。
30代なかばで独身。
大企業におけるレアキャラである。
派遣の独身女性に激モテしていたが華麗にスルーしていた。
バレンタインは大荷物。
まさにモテる男である。

努力する男

天才には弱点があった。
読み書きが苦手なのだ。
大企業なので新業務開始前に分厚いマニュアルが来るのだが、人より読むのに時間がかかる。
マニュアルは持ち出し禁止。
いつも昼休みに、あまり人が来ない小さい倉庫でご飯も食べずに読み込んでいた。

たまたま倉庫に物を取りに入っても気付れかなかったほど、集中して読んでいた。

書くのも苦手でメモもノートも持っていなかった。

その人は若い頃に脳の病気で倒れている。
読み書きは元々苦手だったけど後遺症でより苦手になったそうだ。

座右の銘

【人は泣いて生まれてきて、笑うために生きるんやで。】

人生はいつどこで終わるかわからない。
だから常に今を楽しく生きる。
今やりたいことは今やる。
明日とか後でじゃなくて今やる。
そして、苦手なものに取り組んでいるうちに時間はどんどん過ぎていくから、苦手なことは人にお任せして、得意なことを徹底的にやる。

苦手なことがあってもイキイキと働いている姿を目の当たりにしていたから、とても心に響いた。

苦手なことがあってもいい

苦手なことは誰にでもある。
その人のように後遺症でどうしても難しい場合もある。
苦手な理由を探したり、克服しようと必要以上に固執するよりも、人よりも少しだけ得意なことを長く続けたほうが有意義だと教えてもらった。
得意なことをやっていると苦手なことをカバーできるようになるのだ。


穏やかで人の話をよく聞く彼は、小説も漫画も読めないけどたくさんのことを知っていた。
彼が読めなくても誰かが読んで話してくれるのである。


私は今日も苦手なことを得意なことを使ってこなしている。
苦手な単純作業を得意なエクセルで簡単にして誰よりも早く正確に仕上げている。

この元上司が私が一緒にお酒を飲む唯一の人であり、私の2番目の夫である。
もう夫婦には戻れないが、出会った頃よりも敬愛している。

私に大切なことを教えてくれてありがとう。

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