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【書評】『アートがわかると世の中が見えてくる』

「アートがわかるということは感じることではない」

はじめに、にそう書かれています。前提なしに見たり聞いたりして、感じることが大事だ、というアートに関して最近多く言及されていることとは違う切り出しになっています。そして、わかるために必要となる知識-歴史や作品の背景など-について説明しています。

言われてみればなるほどな、と思うことがあります。

僕は若い頃、わりと(ロック)ミュージシャンの自伝を読むのが好きでした。(いまの積ん読状態ですがいつか読もうと思い、ボブディランやブルーススプリングスティーンの自伝を持っています。)

興味があったのはミュージックビジネスについてではなく、ミュージシャンの背景、つまりどういう風に育ったか、どんな音楽を聴いたりどんな映画を観たりするとこういう曲を書くようになるのか、といったことに興味があったのでした。そのことで、曲の理解が深まったようにも感じますし、そこで新たに知った自分にとっては伝説上のバンドの曲を聴くようになって世界が拡がるといった経験をしてきました。

それに比べ、絵画やクラッシック音楽に対してそんなアプローチをしたことはありません。特に図画工作の成績が極端に悪く、絵を描くのが下手で嫌いで苦手だった僕は、自分からそうした背景を知ろうととなど思ったことはありません。そして本書に書かれている通り、僕が通ったような一般的な国公立校では、そんなことは教えてくれません。結果、ほとんど美術に興味を抱かずにきました。

たまたまレコード世代である僕は、レコードジャケットに使われる絵や写真を通して、そうしたものには人を動かす力がある、とは感じてきたので、興味が完全にゼロにはならなかったのはいま考えるとラッキーだったかもしれません。

なんにせよ、わかるためには一定の前提となる知識が必要だ、というのは当然のことだと思います。「経営は知識だけではできない」と普段から言っていますが、だからといって知識がなくてもできるわけでありません。恩田陸の小説の多くは、ある種の作品のオマージュになっていますが、元の作品に関する知識があるかないかで面白さが格段に違ってきます。

それをわかっているはずなのに、アートになると「前提なく作品を鑑賞して感じることが大切だ」と考えてしまうのは、そう教わってきたからという部分とともに、アートをある種の神秘的なものと捉えたり、高尚なものとして祭り上げたりしてきたからではないかと思います。それが結果として「敬して遠ざける」ようなことになったのだと思います。

いまから美術史家になるわけではないですからがっつり勉強しようとまでは思いませんが、自分が楽しめるくらいの知識は身につけていこうと思いました。そしてその過程で、世の中の不都合な真実、隠されている世間の仕組みなどを知ることもあると思いますが、それこそがタイトル「アートがわかると世の中が見てくる」の意味だと思います。見えてくるのは美しいことばかりではないでしょう。しかし、アートは癒やしではなく問題提起だと思っている僕からすると、それも当然のこととして受け入れていこうと思っています。

著者である前崎信也先生へのインタビュー(@アート思考研究会HP)

■アート思考研究会HPに載っている書評です。僕のものよりわかりやすいです。


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