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「十二国記」 十数年ぶり続編と再会




十数年ほど前、たまたま教え子の女子学生から「十二国記」を教えてもらった。
「この本絶対面白い」といわれたが、知らない本だった。
以前、彼女から「六番目の小夜子」恩田陸著 という本を借りて、以後すっかり恩田陸ファンになってしまったので、この本も楽しめるに違いないと思い、読んでみた。
案の定面白かった、たちまち はまってしまった。
息つく暇もない緊迫感、読みだしたらやめられない。
当時、シリーズとして出ていた文庫本で、10冊ほどあったと思うが、一気に全巻読んでしまった。
「先生、読むの早いね」と彼女にいわれた。
地元の図書館になかった巻を、他区の図書館まで、自転車を走らせて借りに行ったこともある。
大河小説、大長編ファンタジー、奇書である。
異世界を舞台とした王国の興亡記で、王と王を選ぶ麒麟という神獣をメインに、将軍、妖獣、偽の王などが入り乱れて活躍する。
第1巻「月の影 影の海」から物語は始まり、平凡な女子高生陽子が、見知らぬ異世界に連れ去られ、苦難の旅がはじまる。
今になって考えると、この開始は、ベートーベンの「第九」の冒頭と似ていた。
なにやらわからぬモチーフの断片が、混沌のあちこちからたちあらわれ、そのあと、大波のようなメインテーマがとどろきわたる。
物語は次から次と苦難、闘争がおしよせ、激動のなか第一巻は終わる。
やはり以前、別の女子学生から、「先生、これおもしろいよ」といって「封神演義」という本を渡されたことがあった。
これも中国古典の奇書で人界仙界の戦いの本だった。
そのとき私が思ったのは、若い女の子が、このような戦い、苦難、戦記物といった厳しい内容の本を読むことの驚きだった。
こういった類の本は男しか読まないものと思っていたのである。
女の子は普通、学園青春小説とか、ハーレクイーンロマンのようなラブロマンスものしか読まないものと思っていたからである。
もっとも「十二国記」では、現代日本の普通の若い娘が、異世界の王となり活躍する話なので、形を変えたシンデレラストーリーと言えなくもない。
当時、私はデザイン専門学校の講師でCADやパソコンを教えていた。
学生たちは文系ではなかったが、読書のすきな学生はいたのである。
話がそれてしまったが、「十二国記」はタイトルどうり十二の王国の物語で、未登場の国がまだ残っている。
十数年前、既刊全巻読んでしまったが、当然物語はまだ未完で、次作待ちとなった。
作者の小野不由美という人は、大学で中国古典を学んだそうで、物語も中国古典の世界を思わせる。
ふりがな無しではとても読めない難解な漢字が多用され、硬質の文章世界を形作り、「登極」「禁軍」「台輔」といった独特の造語が、小野不由美ワールドの魅力をかたちづくっている。
 
その後、次作がでないまま歳月がすぎたが、つい最近図書館で新作にお目にかかったのである。
もっとも私が気が付かなかっただけで、もう数年前に出版されていたようだった。
「白銀の墟 玄の月」というタイトルで全4冊だった。
私はこの本を正月休みに読もうと思い、全冊まとめて借りてきた。
しかし4冊はさすがに圧迫感があり、机の上につんどく状態で、同時に借りた別の単冊のファンタジーの方を読んで正月休みはすぎてしまった。
前回公開した「黄色い夏の日」高楼方子著 である。
そのようなわけで、やっと今回第1冊めを開いたのだった。
永い空白期間をへて、久しぶりの「十二国記」ワールドに入っていったが、
数ページで、以前の感覚をとりもどした。
やはり辛酸と苦難の世界、王国は偽王に簒奪され、民は疲弊している。
不在の王を探して、あてどない遍歴の旅がはじまる。
おどろいたのは、この巻で登場、活躍している李斎という女将軍で、以前読んだ別の巻でもみかけているのである。
物語は全巻統一して構成されているようで、この巻を読み進むうち、かって見た片鱗の全体像が見えてきて、なるほどそういうことだったのかと納得した。
まだ第1巻のはじめなので、このたびの全4巻読了が楽しみである。
十二国はまだいくつか未知の国がある。
物語は深くからみあい、壮大に展開していく。
またまた、次回作を期待したい。

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