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(書評) 美しく優しく香り高い、小さな物語---『雪のひとひら』


主に旧作を中心に、おすすめの本を紹介しています。旧作でもマイナーでも良い本は沢山あるので、そういう本が目に触れるきっかけになればと思っています。

★『雪のひとひら』 ポール・ギャリコ (新潮文庫)

ポール・ギャリコは私の大好きな、敬愛してやまない作家の一人。
スポーツライター出身の彼の文章は平易で読みやすいけれど、繊細で深い。
面白くてヒューマニズムに溢れ(弱者の立場に立った視線など)、温かい。


演劇・映画化された『七つの人形の恋物語(『リリー』)』、映画化された『ポセイドン・アドベンチャー』、心に沁みる『スノーグース』、自立した女性をユーモラスに描く『ハリスおばさん』シリーズ、猫好きの人にはたまらないと思われる(私は犬好きだけど)『トマシーナ』『ジェニィ』など、様々なタイプの作品を書いたが、どれも一度読んだら忘れられない名作ばかり。

中でも最高傑作と言っていいんじゃないかと思うのが、この『雪のひとひら』。短い物語だが、感動の余韻が長く心に残る。矢川澄子の格調高く美しい訳文も素晴らしい。今、こういう香り高い日本語の翻訳に接することは、ほとんどなくなってしまったように思う。


内容は「雪版・女の一生」という感じのもの。一片の雪として生まれた主人公が、穏やかな流れに乗って青春時代を楽しみ、伴侶に出会って可愛い子供たちに恵まれ、激しい急流に揉まれ、伴侶は亡くなり、子供たちは成長して離れていく。老いてひとりぼっちになり、やがて弱って天に召されるまでの物語だ。
小さな雪のひとひらにすれば大きなドラマだが、人間は気にも留めない、あまりにもささやかな生涯。


天に召される直前、雪のひとひらは、自分の本当にちっぽけでささやかな人生にも全て意味があり、誰かの役に立っていたこと。そこには無駄なことは何もなく、いつも “ 大いなる存在 ” に愛され、見守られていたことに気づく。最後の一言の素晴らしさといったら…この言葉が聞けるなら、死も恐ろしくないと思わされるような…。


ギャリコのような物語が書きたいと、ずっと思っていた。
一生に一作でいい、『雪のひとひら』のような作品が書けたら書き手冥利に尽きる…というのはもちろん見果てぬ夢で、アリがゾウに憧れるようなものなのだけど。彼の作品を読み返す度に、私は「なぜ書くのか」「何を書きたいのか」を突きつけられる気がする。


これらの作品も大好きです。

パニック映画の最高峰と言われる、オスカー受賞の『ポセイドン・アドベンチャー』はAmazonでも見れます。
モーリン・マクガバンの主題歌「The morning after」も有名。


よろしければ私の本。子供向けに書いたものではないですよ。


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