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通信大学 文芸コースでのレポート公開

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記事一覧

京都のプライドを感じた水路を巡る旅

 文章をもっと学びたい。その思いを実現するため春から通信大学で文芸を学んでいるが、元から旅行好きで歴史好きなこともあり「トラベルライティング」の講義を受講することにした。旅先の感動や出会いを綴る手法を学ぶことは、色々な地域に出向いて企業や人を支援している自分の仕事にも役立ちそうな気がしたのも受講の理由だ。  小旅行の舞台は京都市東山区の蹴上。広島在住の自分が知らない町、知るはずの無かった町。だからこそ新しい出会いや体験を期待して蹴上駅へ降り立った。  街中でも自然の香りがす

短編小説「螺旋がつなぐ絆」

 前日までの雨で南国の森の中のように湿気が多い梅雨の夜。  古い木造建築を思い出すような白檀の香りの煙が漂う中、あまり親しくない人達と集まって酒を酌み交している。  こんなに気まずい雰囲気で酒を飲む機会はなかなかないよな…と思いながら、下敷きのように硬いスルメをかじりつつ、ビールが満たされて汗をかいた冷たいグラスを口へと運ぶ。  今日は父の通夜、といっても妻の父の通夜である。  四国の海沿いの田舎町にある妻の実家に親族や父の友人が集まり、僧侶による我慢比べのような長い読経

わたしが体験してほしい広島のまち

 私が住む広島市は原爆が投下されたことから世界的な知名度が高く、原爆ドームや平和公園といった平和のシンボルが各所に点在する平和の象徴的な場所として知られる。  外国人による日本の都市の知名度としては「東京」「京都」に並ぶほど高いと言われるが、日本最大の都市で政治と経済の中心地である東京、世界に誇る日本の伝統文化が残る京都と比べると広島市は大きく見劣りし、「平和の象徴」という知名度だけで他には何もないのが実状だ。 「広島は都会とも田舎とも呼べない中途半端なまちで面白さに欠け

わたしの心を揺さぶる解禁日の川

 遠慮がちな春先の暖かい日差しに冷たい川の水。釣り糸から釣竿をブルブルと伝わってくる生命の手ごたえ。水面から跳ね上がる銀色の魚。ランディングネットで掬いあげた魚の確かな重み。思わず笑みがこぼれる。  ―― わたしは渓流釣り解禁日の川が大好きだ。    実は若い頃から渓流釣りを楽しんでいたのだが、仕事や家庭が忙しくなりしばらく川から遠ざかっていた。ところが昨年、五十路を迎えたのをきっかけに渓流釣りを20年ぶりに再開した。  子供が高校生になり家庭が落ち着いたこと、勤め先か

 「魚とのフェアな戦い」

餌でだまし討ちする魚釣りはフェアな戦いとは言えないのではないか?   いつか魚とフェアに戦いたい。長年、魚釣りをしながら抱いていた思いだ。  その思いを実現するため、今年の夏は以前から興味のあった鮎釣りに挑戦する。 一般的な魚釣りは釣り針に餌を付けて魚に喰わせて釣り上げる方法をもちいるが、鮎釣りは餌を使わない「友釣り」を行う。 友釣りとはなわばり意識の強い鮎の習性を利用する釣りで、竿から伸びた釣り糸の先に事前に用意した生きた鮎を取り付け、リードを付けた犬の散歩のように

勉強について~今私が思うこと

高校二年生になる娘が今日も「宿題をしなさい」と妻に叱られている。それほど厳しく叱られているわけではないが、ピリピリとした空気が伝わり、娘の部屋から離れたリビングで仕事をしている自分も釣られてビクッとしてしまう。   「子供の頃はよく叱れていたなぁ……」というフラッシュバックなのか、パソコンで仕事や勉強をしながら、時々、ユーチューブを見ている後ろめたさからなのかわからないが、毎回のようにビクビクしてしまう自分が少し恥ずかしい。他の父親も同じと信じたい。   あらためて娘の勉強の

わたしのお父さん

「わたしのお父さん」という作文を参観日に娘が読んでくれたのは、彼女がまだ小学校低学年の時だった。 校庭には大きな庭木が立ち並び、机やロッカーは年季の入った木製、教室の床も木製で歩くとミシミシ音を立てるような、やけに木が目立つがぬくもりというよりも年輪を重ねた歴史を感じるような校舎だった。その校舎は一昨年に建て替わり、新しい校舎で新たな歴史を重ねている。 参観日の当日、埃っぽいようなどこか懐かしいようなにおいがする教室で、娘が朗々と作文を読み上げていたことを覚えている。私の

ベランダの睡蓮鉢

5月の晴れた日の朝、自宅のベランダにある睡蓮鉢を観察した。 朝日が降り注ぐベランダにある大きな土鍋をさらにひと回り大きくしたサイズの少し青み掛かった睡蓮鉢は、陶器製の表面が砂を被ったようなざらりとした手ざわりで昔からここにあったと錯覚する風格がある。 古ぼけた書筆の軸を集めたような竹製のすだれが乱雑に立て掛けられ、日差しがすだれを通して水面に影を落とす。影の隙間は日光が強く反射して眩しい。思わず目を閉じると日光がまぶたの裏に縦格子に残像を残し、それが魚の腹骨のように見えた

絶品の麻婆豆腐に出会った

午後からの講義が始まる前、近くにある行列の出来ている中華料理店に入り麻婆豆腐を注文した。既に食べ始めている先客を横目に期待に昂ぶる感情を抑えながら料理を待つ。 目の前に麻婆豆腐が静かに置かれた。目に染みるような色と香ばしいかおり。素材である豆腐、ひき肉、ネギ、そして豆板醤などが混ぜ合わされた焦げた赤茶色のその姿は決して美しくはない。ドロドロとしていて、パレットの上で混色された油絵具のようにも見え、いかにも辛そうで挑戦的なビジュアルだ。 本能が覚えていて「見ただけ」で味がわ

思い出のあなご

家族で訪れた金沢は歴史を感じる素敵な街だったが、娘にとってはなによりも食が素晴らしい街だったようだ。 4月に高2になった娘のたっての願いで入った寿司屋は抜群に美味しく、家族全員が存分に海の幸を堪能した。カウンターに座り板前さんの包丁さばきに見惚れ、天ぷらがジュッと揚がる心地よい音に心躍らせ、魚を炙る香ばしい香りに喉を鳴らせた。 カウンター越しに娘がオドオドしながら「あなごお願いします!」と注文している姿を見ていると、幼い娘と二人で「あなご」を食べたことを思い出した。 娘