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台湾好きランナー急増中!〜トレイルランナーが台湾にハマる理由

トレイルランニング 専門誌『RUN + TRAIL Vol.35』(2019年2月発売号)の特集は「アジア山遊浪漫」。香港・韓国・台湾・中国・インドネシア・ベトナム・オマーン・マレーシアなど、まだ見ぬアジアのトレイルを紹介。

台湾パートを担当した中で、掲載した2つのコラム「山屋光司がハマった台湾の魅力」と「現地在住日本人・深井亨さんに聞く『台湾トレイル事情』」を、加筆修正して再掲・合体します。

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台湾におけるトレイル第一世代

 外務省の海外在留邦人数調査統計によると、海外に住んでいる日本人は135万人以上。その中でトレイルランを愛好している海外在住者はどれくらいなのだろうか?

 深井亨さんは台湾駐在歴15年になるサラリーマン。じつは日本と台湾のトレイルシーンをつないでいる重要な人物でもある。

2013年くらいですかね、台湾でもトレイルランが盛んになり始めたんですけど、日本のUTMFのような100マイルレースに出るためには、日本や香港に出かけてポイントを取らないといけませんでした。台湾には数えるほどのレースしかなかったですからね。

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その頃にウルトラトレイルを走っていた人が台湾におけるトレイル第一世代で、黎明期を牽引してきた彼らが今、台湾でレースを作り出しています。 
中には台湾に移り住んだ外国人もいて、100人近い日本人ランナーが参加することで有名な『FORMOSA』を主催しているのはチェコ人のピーターという男です。今では20前後のレースがあって、草レースも含めると50くらいあるかもしれないですね。


台湾にハマる日本のトレイルランナー

初めて台湾を訪れたのは昨年の3月に開催された『Taiwania Ultra Trail 』に出た時です。

 そう話すのは、山屋光司さん。UTMFで2年連続TOP10をなし得た実力者であり、長きにわたり業界に精通しているが、近年ハマっているのが台湾だ。

『Taiwania Ultra Trail 』は、普段は厳格に入山規制された国家公園(日本の国立公園)を使って行なわれたレースで、樹齢1000年以上もの大木の森の中を走る神秘的なコースの美しさに感動を覚えました。
2度目の台湾は昨年の11月で、3月のレースで現地の台湾人ランナーと知り合って、セッションしに遊びに行ったプライベートな台湾旅行でした。 台湾人と日本人は似ていて、気遣いや配慮の感覚が近いので、コミュニケーションにストレスを感じないんですよ。  

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この山屋さんの話を深井さんに伝えてみた。

『Taiwania Ultra Trail』はナショナルジオグラフィックが映像作品にしたのですけど、お前以外に適任者はいない!と言われて、撮影に同行することになったんです。
台湾人は元来お節介好きで、友達なら助け合うものだという独特のローカルルールのようなものがあって、僕もすっかりなじんできたのかもしれません(笑)。ほら、世界で一番日本人に優しい国民性ですから!


山屋さんは台湾のどこにハマったのか?

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台湾にも温泉があって、豊かなトレイルがあって、ご飯は美味しく、人は優しいし、 物価が安い。レース抜きにして、台湾の山で遊ぶ楽しみ方を知ってしまったというか、 台湾のトレイルコミュニティと出会い、一緒に山へ行く楽しさ、人とつながる心地よさがドンピシャでした(笑)。

 意外に思う人がいるかもしれないが、台湾は日本と同じく国土のおよそ7割を山地が占める「山の国」であり、最高峰の玉山は、富士山よりも高い標高3,952mもある。

 そして、「高山」と呼ばれる3,000m以上の山が、なんと250座以上もあるという(ちなみに日本は20座あまり)。世界でも有数の高山密度を有する台湾には山文化があるのだ。

 これら地理的な理由に加えて、日本も深く関わる歴史的背景もあると深井さんは付け加えてくれた。

38年間も戒厳令が敷かれた国民党の一党独裁から民主的な体制へと変化したのは、つまり、山をレジャーとして楽しめる門戸が開かれたは、わずか23年ほど前のことです。
そのおかげで台湾に空前の山ブームが起きて、トレッキングルートとして日の目を浴びたのは、かつて道なき道を開拓した旧日本軍の陸地測量部の踏み跡でした。
今でも、「高山」を歩いていると、陸地測量部が残したであろうビール瓶や缶詰に出くわすことがあるそうだ。それだけ戒厳令下の台湾では、入山が規制されていた。

 深井さんが作り上げた台湾コネクショ ンの恩恵に預かっている人は少なくない。『Taiwania Ultra Trail 』でダブル優勝した小川壮太さんと星野由香里さんを大会側とつないだのは深井さんだ。

 UTMB復活プロジェクトに邁進していた鏑木毅の台湾合宿をコーディネートしたのも深井さんであり、この私の台湾取材も深井さんのおかげで成り立っていた。

きっと「自分の知らない山を見てみたい」 とか「新しい人に出会いたい」といった自分の根底にある好奇心とコミュニティ性がマッチしているんでしょうね。(山屋)


台湾とアジアのトレイル事情

 日本に鉄砲が伝来した16世紀中期、台湾近海を航行していた一隻のポルトガル船の船員が、水平線の先に緑に覆われた島を発見して叫んだー「Ilha Formosa!」。

 かつて日本がジパングと称されたように、台湾がポルトガル語で「美しい島=フォルモサ」と呼ばれた瞬間だった。

 台湾は、与那国島から約110kmの位置にあり、縦に細長い形も面積も九州とほぼ同じの島国。気候は台北などの北部エリアが亜熱帯気候で、高雄など南部エリアが熱帯気候。日本と同じく環太平洋火山帯に属し、温泉も豊富だ。

台湾は九州くらいの大きさの中に2300万人が住んでいて、感覚的ですけど、競技人口は数千人程度じゃないかなと思うんです。それだけ小さな母数ですから、 顔が利くというか、どの大会に行っても知った顔があるので、コミュニティが形成しやすい環境かもしれないですね。(深井)
平均所得も日本の半分以下くらいなんですけど、 ギアの値段はあまり変わらない。台湾におけるトレイルランニングの立ち位置は、トライアスロンと並んで、お金と時間に余裕がある人のスポーツと言えるかもしれません。(深井)

 今、アジアのレースオーガナイザー同士が横でつながる組織作りをしていく流れがある。

 今後、トレイルランニングとしてアジアでは大先輩の日本人に対応したレースも各国で増えてくることが予想され、一方の日本も、アジアのこうしたトレイルコミュニティを受け入れる体制を作る必要があります。出遅れているくらいです。(山屋)


アフターコロナとトレイルランニング

 コロナ前、アジアのトレイルシーンは沸騰間際の熱量が感じられたが、今年に入り香港で民主化デモが起き、国家安全維持法が制定されたことで、様子はガラリと変わった。また、国をまたげない現在、各国の交流は途絶えたままだ。

コロナ前、山屋さんはこう話していた。

結局、心がボーダレスなもの同志を引き寄せ合うつながりが、楽しくて仕方がないのだと思います。世界のどこに行ってもトレイルランナーってすぐに打ち解けて仲良くなれる。
台湾はもちろんですが、アジアは欧米より親近感があって、落ち着くというか、欧米ほどのアウェイ感がないんです。これからのアジアは面白いですよ。中でも台湾はしばらくの間、ハマりそうですね。

 サーファーが良い波を求めてサーフトリップするように、バックパックを背負って世界中のトレイルを旅する時、現地のトレイル事情に詳しい日本人がいるとこんなに心強いものはない。

 世界にはきっと、深井さんのようなトレイルランナーがたくさんいるのだろう。Withコロナになっても、トレイルランナーのコミュニティは結びつきを強くしていくことだろう。

 またトレイルトリップできる日が待ち遠しい。

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