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番外編「個人的 ALL TIME ベストテン」~なにか私を自分で裸にする恥ずかしさがあるのです~

 ちょくちょく聞かれるのが「生涯のベスト・ムービーは?」と。まだ生涯を達してないと思ってる身からすると、違和感ある問いではありますが、好奇心を持って頂けるのは有難い訳です。おおよそ「小奴はどんな傾向の映画が好みなのか?」を把握し以降の会話をスムースにしたい意図が見え隠れ致します。これ程に自らマニアを豪語する以上、相当にマニアックなタイトルを挙げてギャフンと言わせてやろうか? と思ったり、相手に迎合し無難な大ヒット作を挙げて逆にこちらが反応を見たり。丁々発止の攻略を一瞬でこなさなければなりません。なにしろマニアックなタイトル挙げても相手が「何?知らん」となったら元も子もない。逆にベタなタイトル挙げて、「へえ、普通なのね」的に反応示されるのも嫌なもので。だから、割と人間関係の入り口で困惑するシーンなのです。

 そもそもこれまでで映画館鑑賞歴約5000本超えとなると、お気に入り作品は膨大で、単なる好きを超えて我が人生に及ぼす程のインパクトを咀嚼せねばなりません。当然に世評とは関係なく、でもある程度の知名度を有する作品で、それを示して私なりのお薦め作品ですよの意味まで持たす事が要件でしょうね。どう足掻いたところで、提示した結果「ふむふむ」と見透かされたようで面白いはずがない。だから、そこに意図を張り巡らせたところでレッテルを張られることから避けようがないわけです。こうしてグズグズ先送りしているのも、すべて言い訳となってしまいますので、現時点での私のベストテンを書きます。

1位 サウンド・オブ・ミュージック
2位 ベニスに死す
3位 生きる
4位 惑星ソラリス
5位 となりのトトロ
6位 アポロンの地獄
7位 アメリカン・グラフィティ
8位 未知との遭遇
9位 ウエスト・サイド・ストーリー
10位 ラスト・エンペラー

 結構ベタでしょう、実際そう言われた事が複数回ありますから。微妙にイタリア映画とソビエト連邦(現・独裁国家ロシア)を忍ばせ、邦画も混ぜ、よりによってアニメまで加えるなんて恣意そのものでしょ、と言われても構いません。巨匠のメジャー作品ばかりで、個性がないねぇ、でも全然構いません。選びに選んで、泣く泣く10本に絞り込んだ結果ですからまさにこれが「This is Me」です。

「音楽の調べ」なんて邦題にしなくてよかった

 「サウンド・オブ・ミュージック」1965年 は何回観たでしょうね。この作品が無かったらここまで映画漬けの我が人生にはなってなかったと思われます。無論初公開時は子供もいいところで、一人で映画館は到底無理な頃。でも、新聞広告見て「音楽の音?」って変なタイトルと印象が子供心に残ってました。自分の采配でお小遣いを使えるようになった頃に、いわゆるリバイバル上映で70mm大画面の理想的環境で出会ったわけで、もちろんインターミッションありで。言うまでもなくサントラ盤は無理して買いましたね。その後複数の映画館での鑑賞の機会の後、遂にレザーディスクが発売となり、我が子の鑑賞に重ねて骨の髄まで沁み渡ったわけです。数年前にオーストリアのザルツブルグへ旅行した際は正直に白状します、実に感涙ものでした。それにしても湖面を流れるように走る観光船が、およそ世界中から集まった観光客で埋まり、サントラからの歌曲が船のスピーカーから流れ、岸辺の古城やら豪邸がトラップ家に見え、感無量とはこのことです。ただ、ここで働く皆さんは毎日毎日この曲を聴くのですね、ご苦労様としか言いようがありませんでした。

世紀の美少年ビョルン・アンドレセンは日本でCМにも出演し大人気でした

 「ベニスに死す」1971年 マーラーの交響曲第5番の第4楽章「アダージェット」とともに映画芸術の頂点に君臨する作品と私は思ってます。トーマス・マンの原作では主人公にバッハを想定とのことですが、監督ルキノ・ヴィスコンティがマーラーに設定を変えてのことだそうです。死臭ただようベニスに絶望を感じ、若作り化粧に抗しがたい欲望に触れ、響き渡る余韻に身を任せる悦楽を知ったのですね、偉そうに。シルヴァーナ・マンガーノ扮する貴族の佇まいに上流階級の存在を目の当たりにしてしまった。なのにいまだ私はベニスに行ったことがない、温暖化で水没する前には行きたいのですが・・・。

ゴンドラの唄は涙なくして聞けません

 「生きる」1952年 言わずと知れた黒澤明監督の名作で、ちょいと前にはイギリスで再映画化されてましたね。ノーベル文学賞のカズオ・イシグロによる脚本でロンドンを舞台にビル・ナイの主演でした。骨子は同じで時代設定も同じですが、戦後復興の湧き上がるエネルギーが乏しく、女性の価値観がまるで異なりましたね。実を申しますと、遠い昔ですが私の結婚指輪の内側には「LIVE」と本作を意識してタイトルを刻印してもらったのですよ、夫婦2人の分両方に。それ程に私の生きる指針となった映画なのです。

鏡と水が本作のキーワード

「惑星ソラリス」1972年の作品ですが日本公開は5年も後の1977年 スタニスワフ・レムの小説を基に旧ソ連のアンドレイ・タルコフスキーが映画化したSF映画の金字塔。冒頭から延々と映る小川の藻の流れに面喰う以上に、妙に身を任せられる不思議な感覚となりました、今だったら睡魔にあっけなく降参でしょうが。ソラリスの海と意識の記憶が混然となる不思議なトリップ感が電子楽器によるバッハの響きと共鳴し、訳分からないまま納得してしまうのです。既に「2001年宇宙の旅」鑑賞済みであり、宇宙での不可思議も難なく受け入れられたのです。

ジブリパークへ「ゆっくり来てください」ったって混み過ぎだぜ

 「となりのトトロ」1988年 宮崎駿の最高傑作。東宝の邦画館で昭和63年4月16日(土)に「火垂るの墓」との2本立てで公開、翌17日の日曜に幼い長女を連れて満員の劇場で鑑賞。あまりの素晴らしさに打ちのめされ、「火垂るの墓」の鑑賞を中止して劇場を出てしまったのです。無論、幼い長女に火垂るはちょいと荷が重いだろうの判断もありましたが、この圧巻の感動を妨げられたくない一心の方が強かったのです。「ナウシカ」も「ラピュタ」も鑑賞済みの身には、アニメ界から一挙に根源的な子供向けの普遍の世界に転身した潔さが眩し過ぎたのです。

主演のフランコ・チッティはパゾリーニお気に入り

 「アポロンの地獄」1967年 イタリアの鬼才ピエル・パオロ・パゾリーニの脚本・監督、ギリシャ悲劇オイディプス王をベースにした作品。現代のボローニャから一挙に紀元前の古代ローマに飛び、荒涼たる砂漠を舞台に根源の罪を描いて行く。「父親を殺し母親と交わる」とのキャッチーなキーワードの向う側にあるゼロの地平を映像で叩き付ける。その衝撃はたった一度の鑑賞ですが、その渇きが今も私の深層に潜んでいるのです。パゾリーニの後期作品は天真爛漫か露悪趣味の際どさでしたが、真摯にパゾリーニ自身のあからさまを隠すことなく、この頃より既に可視化しておりました。 オイディプスの実母役でここでもシルヴァーナ・マンガーノが登場、モンスター・プロデューサーであるディノ・デ・ラウレンティスの妻として、芯までブルジョワジーの光沢は東洋の島国青年には眩し過ぎました。

ガキ達が集まるローラースケート店員のハンバーガーショップ

 「アメリカン・グラフィティ」1973年 ジョージ・ルーカスが「スター・ウォーズ」でブレイクする前、意欲満々の処女作SF映画「THX 1138」の興行が思わしくなく、多くの名監督がそうであるように自らの来し方に立ち返って制作したのが本作。で、これがアメリカ人に大受けの大ヒット、この成功により「スター・ウォーズ」が無事生まれたのも確かですね。いまでは一流監督のロン・ハワードが髪フサフサの頃、アイビー・ファッションに身を包み爽やかな青年を演じ彼女と学業の選択肢で悩む。リチャード・ドレイファス扮する親友はすったもんだの末に、東部へ学業の道を選ぶ、当然に成功の道を切り開いたルーカス自身が投影されています。サンフランシスコからヨセミテ国立公園へ行く途中にルーカスの出身地モデストがあり、映画のまんまの町が平べったく拡がってました。60年代のヒット曲が全編流れ、否応なしに観客ひとり1人の来し方を登場人物の誰かに感じ取れる辺りがヒットの要因ですね。夜明け近く空が白む頃の空気感が私を締め付けます、ふと我に返る痛恨が痛い。

公開まで宇宙船の画像は絶対厳禁でしたね

 「未知との遭遇」1977年 どうして「2001年宇宙の旅」か「スター・ウォーズ」でないの? 私も大好きな作品なのに。と言えば、それは明日にでも私に起こり得る現象かもしれない身近さと、WE ARE NOT ALONE の通りの楽観が心躍らせるから。・・な訳ないでしょって、100%否定出来ないわけで。強いて言えば、SWは心躍る戦争活劇ですが多くの戦死者がいるはず、2001は悲観論に支配され宇宙の根源まで遡り形而上までジャンプ、私との距離はまるで遠すぎますので。今も宇宙は拡張し続けてます、私達程度の存在が地球にだけであるはずがないでしょ。

スピルバーグ版は存在意義が見当たらないのでした

 「ウエスト・サイド・ストーリー」1961年 昔は「ウエスト・サイド物語」が邦題でした。原案ジェローム・ロビンズにより、アーサー・ローレンツ脚本、レナード・バーンスタイン音楽、スティーヴン・ソンドハイム歌詞による「ロミオとジュリエット」を巧みに現代に置き換えたブロードウェイ・ミュージカルを監督に名匠ロバート・ワイズを迎えての映画。本年オスカー・ノミネートのブラッドリー・クーパー監督・主演の「マエストロ」に練習シーンが描かれてますね。カラフルな縦線のイラストで始まるオープニングがやがて摩天楼に変わる感動は映画的興奮マックスでした。松竹系の丸の内ピカデリーで500日を超えるロングラン上映は語り草ですね。スペイン語のプエルトリコ移民の人種の基準が当時も今もまるで私には分からない、美人スターであったナタリー・ウッドがプエルトリコの役って??でしたね。

今でしたら絶対に協力しない中国当局

 「ラスト・エンペラー」1987年 芸術性と娯楽性を両立させ得た圧巻のこれが映画の最高峰。故宮で世界初のロケーションを中国共産党政府の全面協力により数週間借り切って撮影敢行。坂本龍一が日本人として初めてアカデミー賞作曲賞の快挙。アカデミー賞ノミネートの9部門のすべてで受賞。など褒める事象にはこと欠かない。黄色の幕が風で膨らむ色彩感覚に幼き皇帝と居並ぶ兵士を一瞬で描写する映画的高揚の見事さ。イタリア人ベルトルッチに託す理由はここにある。それにしてもテレビの低能番組で中国の映像になると途端に「ラスト・エンペラー」か「燃えよドラゴン」の曲が被さるワンパターンには辟易してます。

 以上の10本、私と言う人間が少しでも分かって頂ければ有難い限りです。でも、結局何の意味もなかったかもですが、改めて記述することによりそれらの作品への私なりの愛が深まったと申し伝えておきます。

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