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(16)世界最先端のマーケティング

アマゾンはオンラインに軸足を置く企業だ。
しかし今オフライン空間に次々とチャネルを設け顧客を取り込もうとしている。
アマゾンダッシュ、アマゾンエコー、アマゾンゴー、アマゾンブックスなどを展開している。この動きは単にオンラインからオフラインへの販路の多様化と捉えたのでは判断を誤る。
アマゾンの狙いは、販路ではない。ネットとリアルを融合させたチャネルを通じて、顧客のデータを掴むことだ。
それを使って、販促、価格、商品のすべてをお客ごとに最適化する、つまり一連のマーケティングミックス、いわゆる4Pの革新を進めている。

「チャネルシフトのマトリクス」
横軸は顧客が「選択を行う場」オンライン・オフライン
縦軸は顧客が「購入を行う場」オンライン・オフライン

従来のオンライン店舗は選択も購入も全てオンラインで完結する。「オンライン×オンライン」で左上の象限に位置。従来の対抗軸は逆の「オフライン×オフライン」

「買収・提携でシフトチェンジ」
左下の象限プレイヤーであったはずのホールフーズはインスタカートという企業と組むことによって左上の「選択オンライン×購入オンライン」象限への進出を果たした。
提携することで双方の象限に対応。マトリクスの2/4を埋めることができた。

他社にはない購買体験を提供し、顧客とのつながりを創り出せるか。
重要なことはこのマトリクスの4象限で分類するのは「企業の戦略意図」であるということ。「顧客が各象限での買い物ができるかどうかの状況」ではない。
チャネルシフトは顧客の買い物行動が運良く自社で完結するように待ち構えるような戦いではない。企業が意図的にそれを設計していなければ、顧客を自らのチャネルに引き込むことはできない。

「オムニチャネル」の本質
シングルチャネルからクロスチャネルまでは「店舗を軸に顧客の管理を行なっている」のに対して、オムニチャネルからは「顧客を軸にチャネルの管理を行う」ことになる。これは大きなパラダイムシフトである。
顧客の買い物行動がオムニチャネル化している。
顧客の選択に影響を与える、店舗・アプリ・商品・メディア・SNS、そのすべてが情報であり、チャネルであると考えねばならない。

「オムニチャネルの次に来る戦い方」
チャネルの主導権は顧客に移っている。だからこそチャネルとは店舗ではなく、顧客とのあらゆる接点を対象にしなければならない。
競争の焦点はオンラインとオフラインにチャネルを置くこと自体ではなくそれによってどんな購買体験を提供できるかに移っている。

チャネルシフト戦略は
1オンラインを基点としてオフラインに進出し
2顧客とのつながりを創り出すことによって
3マーケティング要素自体を変革しようとする戦い方

「iPhoneアプリにおける月間ランキング」
上位のほとんど「人と人とがつながるSNS系のアプリ」か「情報探索行為を行うアプリ」いずれも、顧客が能動的に「使いたい」「その世界に入り込みたい」という意思があるものがランク上位に躍り出る。
つまり、顧客の課題を解決するものでなければ顧客は長期間にわたってアプリを保有することはしない。

「アプリでCRMプログラムを行うことのメリット」
「購入データ」は「点」に過ぎない。顧客へのコミュニケーションはダイレクトメールや、せいぜいeメール。つまり、購入データだけを取っても顧客との対話が生まれないのだ。対話が生まれなければ顧客とのエンゲージメントは深まらない。一方、アプリであればプッシュ通知での提案が可能になり、顧客のそれに対する反応も判断できる。顧客はいちいちメールなどを立ち上げることなく、アプリだけでシームレスな対話が可能になる。

チャネルをオンやオフにシフトさせるだけでは「チャネルシフト戦略」とは言えない。「つながりによるマーケティング要素の変革」こそが、チャネルシフトの真の目的である。

「投資判断視点の違い」
アマゾンゴーが無人レジを導入した真意は店頭オペレーションの効率化ではなく、むしろ「顧客認証」にある。
選択・購入データを「個客」に紐づけて把握することが狙い。
つまりアマゾンにとって無人レジ導入目的は「個客当たりの売上拡大」と考えられる。
無人レジの目的を「店舗オペレーションの効率化」とだけ捉えた場合には投資判断基準は「無人レジによって店舗運営コストはどの程度減少するのか」になる。
顧客を軸とした発想か、店舗を軸とした発想か。
つまり売上拡大に対する投資か、コスト削減に対する投資か。

【チャネルを「顧客とのつやがり」を作る場に】
企業は顧客から提供されるデータをもとに顧客に対しての「提案」を行なっていかねばならない。
つまり、顧客からのデータ提供と企業からの提案という「対話」を通じて顧客との繋がりを築いていくのだ。

「なぜ最初からカートに野菜が入ってるか」
オイシックスは顧客の選択データと購入データを活用して、顧客の選択段階に入り込み顧客に有益な販促提案を行なっている。
オイシックスは野菜を選ぶ前から商品がカートに入っている。
顧客が選択したコースに加え、顧客がお気に入り商品に付けたフラグを把握して、その商品を優先的に選んでカートに入れている。オイシックスは顧客のお気に入りフラグを活用してカートを顧客への提案の場に変えている。
ポイントは「カートに商品を入れて提案し、顧客がそこから選ぶ」という「対話」が生まれていること。
顧客の選択段階に入り込み、あえて「対話の場」を積極的に創り出すことで顧客とのつながりを維持、強化している。

【プライス】
重要なことは自社が獲得したい顧客はどんな人々で、どんな行動を獲得しまいのかを明確にし、そのためにどんな行動データを獲得するのかである。

「チャネルシフト戦略を実行するために」
顧客とのつながりと言う言葉を度々使ってきた。それは顧客との対話によって作られるものであり大和とは顧客から提供される行動データと、それに応じた企業からの提案であると説明した。それが顧客の購買体験の質を大きく左右し、その企業やブランドへの気持ちや行動を変えるからだ。
従来型のオフライン店舗では人的つながりが重要にかっていることは間違いない。しかしそれだけではせっかく築いたつながりという資産は可視化できない。店舗オペレーションレベルに留まってしまい、経営に活かされない。チャネルシフト戦略は言い換えればオフライン市場のDXである。

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