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(52)エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」

エフェクチュエーションを発見し、提唱したのは現在米国のバージニア大学ダーデンスクールでアントレプレナーシップの教授を務めるサラス・サラスバシーという経営学者です。

【エフェクチュエーションの5つの原則】

まず、熟達した企業家には、最初から市場機会や明確な目的が見えなくとも彼が既に持っている「手持ちの手段(資源)」を活用することで「何ができるか」というアイデアを発想すると言う意思決定のパターンが見られました。
このように「目的指導」ではなく、「手段指導」でできるかを発想し着手する思考様式は「手中の鳥の原則」と呼ばれます。
次に「何ができるか」のアイディアを実行に移す段階では、期待できるリターンの大きさ(期待利益)ではなく、
逆にうまくいかなかった場合のダウンサイドのリスクを考慮して、その際に起こり得る損失が許容できるかと言う基準でコミットメントが行われます。これは「許容可能な損失の原則」と呼ばれます。
これらの考え方を用いて熟達した企業家は、結果が全く不確実であったとしても「何が出来るか」についての具体的な愛イデアを生み出し行動に移すことが可能になります。その際、コーゼーションの発想であれば事前に誰が顧客で誰が競合かを識別し、市場の機会や脅威を予測しようとしますが、エフェクチュエーションの発想では行動する熟達した企業家は、むしろコミットメントを提供してくる可能性のある、あらゆるステークホルダーとパートナーシップの構築を模索する傾向がありました。これは「クレイジーキルトの原則」と呼ばれます。
相互作用の結果として、パートナーのコミットメントが獲得されると、起業家の活動には、参画したパートナーがもたらす「新たな手段」が加わるため、プロセスの出発点であった「手持ちの手段(資源)」が拡張され、もう一度パートナーとともに何ができるかを問うことになります。
このように、予期せずしてパートナーからもたらされた手段や目的を受け入れ、それを積極的に活用しようとする姿勢は、偶然をてことして活用とする「レモネードの原則」とも関係しています。熟達した起業家は、偶然手にしてしまったもの、もたらされたものを受けいれたうえで、それを自らの「手持ちの手段」の拡張機会としてポジティブにリフレーミングする傾向がありました。例えば失敗は思った通りに進まない。
現実も学習機会と捉え、新たな行動を出すために活用しようとするのです。

【手中の鳥の原則】

(目的ではなく、手段に基づくことのメリット)
目的から始めるかわりに、これらの手持ちの手段に基づき発想された「何ができるか?」から着手することにはどのような利点があるでしょうか。最大のメリットとして起業家が今すぐに行動を起こせることが挙げられます。
逆に目的から初めて最適な手段を追求するコーゼーションの発想では、目的を持つこと自体が悪いわけでは決してありませんが、それを実現するための具体的な行動を起こすことが難しく感じてしまう恐れがあるといえます

これに対して、既に持っている手段に基づいて「何ができるか?」を発想し具体的な行動を起こすエフェクチュエーションのメリットは、重要な、より高次元の目的を諦めることなく、今すぐに着手可能な具体的な行動を起こせることだといえます。

【手持ちの手段を考える上でのポイント】

まず、「私は誰か」には、企業家自身のアイデンティティーに関わるものであれば、どのような要素を含んでも良いといえます。他の人たちと比べて、ユニークな客観的な特性以外にも、企業家自身が「自分をどのような人間だと信じているのか」あるいは、「自分はどのような存在でありたいと考えるのか」といった、主観的な自己認識もまた「何が出来るか」に影響及ぼす、極めて重要なアイデンティティーの構成要素であるといえます。

経営思想家のピータードラッカーは、著書の中で、次のようなエピソードを紹介しながら「自分は何によって覚えられたいのか」をということの重要性を語っています。
「私が13歳の時、宗教の先生が『何によって覚えられたいかね』と聞いた。誰も答えられなかった。すると『答えられると思って聞いたわけではない。でも50になっても答えられなければ、人生を無駄に過ごしたことになるよ。』といった」

【手持ちの手段をアイディアに変換する】

着手する時点で、自分があまり価値のある「手持ちの手段」を持っていないのではないかと悩む必要もありません。
なぜならば「何を知っているかか」や「誰を知っているか」といった手段もまた、行動起こすたびに拡張されていきます。
手持ちの手段やそこから生み出される。何が出来るかのアイディアを考えるうえで最も重要なのは、それがあなた自身にとって「意味があるか」と言う視点です。


【許容可能な損失の原則】

【損失の許容可能性は、自信や動機の強さに連動する】
自分自身の許容可能な損失を認識した上で、その範囲や超えないように歩幅をコントロールした一方踏み出すことです。仮に自分のアイディアの価値に自信が持てない場合は、無理矢理自分を鼓舞して熱意を持とうとする必要ありません。


【レモネードの原則】


【偶然がきっかけとなって、生み出された科学的発見】
ペニシリンの発見も、そのきっかけはブドウ球菌を培養していたシャーレを放置している間にそこに別の細菌が入り込んで青カビが生えてしまった偶然でした。発生した運びの周囲でリゾチームで観察したことのある抗菌作用を確認したフレミングは、アオカビに「PENICILLIN」と名付けられる抗菌物質が含まれていることを発見しました。

【偶然を活用するための4つのステップ】

大きな成功のきっかけとなるような幸運な。偶然は、一般に「セレンディピティ」と呼ばれます。ただし、既に取り上げた事例からもわかる通り、偶然なので、情報はそれが起こった時点で幸運なものだとみなされていくわけではなく、その発生自体が偉大な発見やイノベーションの喪失を保障するわけでもなかった事は注意が必要です。
重要なのは、そうした欲しくなかったレモンを手にしたときにそれを捨てたり、見落としたりするのではなく別の可能性を考えて、新たな行動のための資源として活用することです。
①予期せぬ事態に気づく
②同じ現実に対する見方を変える
③の時代をきっかけに、手の持ちの手段を拡張する
④拡張した手持ちの手段を活用して、新たに何ができるかを発想する


【クレイジーキルトの原則】

[アイディアを事業機会へ変換する行動の重要性]
これまで確認してきたエフェクチュエーションのプロセスをここで一旦振り返ってみましょう。まず出発点となるのは、目的や機会ではなくあなた自身が既に持っている手持ちの手段(資源)、つまり、「私は誰か」、「知っているか」、「誰を知っているか」でした。そしてそれらに少しひねりを加えることで「何ができるか」を発想し、具体的な行動のアイディアを生み出しています。優れたアイディアなのか、有望なアイディアなのかを判断する必要はなく、むしろあなた自身がそのアイディアに実行する意味を見出せることが重要になります。

【パートナー獲得のための行動:問いかけ】

出資を断られたことで、11億億円調達する。
問いかけについて、具体的な事例を通じて理解深めたいと思います。クラウドソーシングサービスを提供するクラウドワークスCEOの吉田さんの事例
P130〜132

【エフェクチュエーションの全体プロセス】

非予測的コントロールによって存在しなかった市場が紡ぎ出される。
最初の時点で、企業家に目的や事業機会が見えている必要は必ずしもありません。
ベリークヴァストの場合は、大企業での仕事に不満はあったものの、会社はやめて、起業しようと考えていたわけではありませんでした。
彼はまず既に持っていたユニークな手段(何を知っているか)としてのラフティングのスキルとボード)を使ってすぐに実行可能な行動(観光客をボートに同乗させる)から、新しいアイディア(ラフティング体験事業)を着想し「誰を知っているか」(観光案内所で働く友人)を活用しながら、そのアイディアを形にするための行動に、やはり無理ないリスクの範囲で、一歩一歩着手していきました。そうした取り組みや成功する保証がない一方で、自身の知識や社会的つながりを活かして、実行可能な、そして、自身のアイデンティティーの自然に魅力と可能性を感じていると言う(私は誰か)と照らし合わせで実行する意味のある彼にとって合理的な行動であったといえます。
正しいこうしたアイディアが具体化されて、形になっていくプロセスが必ずしも直線的に進むわけではありません。時に、未来が予測できない中で生じる偶発性を取り込み、結果として大きな方向転換を軽減することがあります。

【フリーランスとしてのエフェクチュエーション】

“おねだり”という言葉を解説します。
このおねだりの意味は第5章で書かれている(クレイジーキルト)におけるパートナー獲得のための行動である“問いかけ”です。
あえてこの言葉を使う理由は、子供がお願いすると言うように、愛情や行為のある相手に対して自分の要望を叶えるために使えるからであり、また、おねだりをされる側にもおねだりをする人に必要とされたいと言う心情があることが前提となっているからです。

【「グリーンベースが売れる?!」エフェクチュエーション同士によるクレイジーキルト」




【地域クラウド交流会の新しい意味付け】

サイボウズではチームワークを「理想があり、それに共感し、役割分担をして理想に向かって協働を行う」ことと定義しています。
「地域クラウド交流会がサイボウズの製品を知ってもらうプログラムになっているだけではなく、むしろこのプログラムがサイボウズが企業理念に関わるチームワークを各地域で創るものとして重要であると意味付けするようになるのです。まさに最初から目的として狙ったものではない唯一無理な価値を持つ事業になっていくのでした。

さて、一般的な企業でエフェクチュエーションがうまくいかない時に使えそうな技がこのシーンにあります。エフェクチュエーションは既にお分かりの通り、最初の時点で目的が明確に設定されているわけではありません。そのためにその取り組みを会社としてなぜやるべきなのかという説明に苦慮をすることがあります。そこで利用できるのが企業のビジョンや存在意義です。例えば手持ちの手段で行動を始めたとしましょう。何回かエフェクチュエーションのサイクルを回して、新しい(手中の鳥)を得ていく過程で、この行動をその企業のビジョンを実現する手段の人として解釈できないだろうかと考えてみるのです。

【レモネードで生まれた「ラーニングコミュニティー事業」】




マネージャーは、メンバーのエフェクチュエーションを押すために、メンバーの(手中の鳥)である“私は誰?”という関心を理解することが肝要です。
さらにその関心から育む行動が、企業のビジョンにとってどういう意味を持つのかを紡ぎ出す大切な役割もあると言えるでしょう。

【PICのさらなる事業拡大へ】

事業計画を目標ではな「見立て」として捉えるということはエフェクチュエーションで解説するという数字の予測を(手中の鳥)としてづけることといえます。シミュレーションと言い換えても良いでしょう。



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