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【もの語り】あの日、申し訳なさそうに消えていった心の躍動が、この時、ようやく報われた気がしたんだ

「警察官になりたい。」
小さい頃のぼくは言った。

「無理だよ。」
友達はそう言った。


ぼくは身体が小さいし、気も小さい。
前に出るのは苦手だし、スポーツができるわけでもない。

無理だよと言われても、言い返す言葉がない。
そんな自分に、かけてやる言葉もない。

浮かび上がった心の躍動は、申し訳なさそうにすぅっと消えていった。


中学生の頃、ぼくは自衛官に憧れた。
あの時の気持ちは、形を変えて、またやってきた。
消えたわけじゃなかった。ただ、隠れていただけだった。

ぼくは誰にも言わなかった。
自衛隊に入るんだと、ただ自分自身にだけ想いを打ち明けた。
そう、決めた。

きっと、ぼくは試したかったんだと思う。
ぼくにだって、出来るんだって。

強さに憧れた。弱い自分にないものだと憧れた。
頑張ることが苦手だった。
頑張るのを見せるのも恥ずかしかった。

ただこのままで生きていくよりも、人生で一度は頑張ってみたいと思っていた。
全力で走ってみたかったんだ。


なにも知らない無垢だったぼくは自衛官になった。
夢は叶った。あとは頑張るだけだった。
渡された迷彩服に袖を通すと、まだ見ぬ自分が、こっちを見ている気がした。

「髪が長い」と叱られて
「声が小さい」と怒鳴られて
そんなことがある度に、ぼくには向いてないと感じる日々だった。

慣れないことばかりだった。
厳しいことばかりだった。
でも、ぼくは頑張った。
ただ、目の前のことに精一杯向き合った。


そして、教育訓練修了の日。

「優秀賞授与」
ぼくの名前が呼ばれた。

驚きと緊張で返事の声が出なかったのを覚えている。
ぼくが精一杯向き合った訓練の成果は、表彰状として返ってきた。


あの日、申し訳なさそうに消えていった心の躍動が、この時、ようやく報われた気がしたんだ。
ぼくは頑張れた。
ぼくにだって、やれば出来たんだ。

嬉しかった。
やっぱり、無理だよってほんとは思っていたから。
自分にも出来るんだっていう自信をもらえた。
あの日、あの瞬間、ぼくは自分を認めることができたんだ。


あの時の自分がいるから、今がある。
そのおかげで、なんだってできるんだという気持ちで、今も前を向いていられる。



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