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【観劇記録】唐組 第71回公演『透明人間』紅テント/鬼子母神 —はじめての紅テント観劇—

野外演劇“紅テント”を創始した、劇作家の唐十郎が主宰である、劇団・唐組。

紅テントとは、名の如く赤い色の布地で張られたテントで、そこを劇場として演劇が行われる。
1967年に、唐組の前身である“状況劇場”にて、新宿の花園神社境内にて行われたのが最初だという。紅テント興行は現在に至るまで演劇界で唯一無二の存在感を放っており、アングラ演劇の代名詞にもなっている。日本国内のみならず海外でも公演が行われたこともあるという。
なお、花園神社にて行われるテント芝居は、唐組の紅テント、新宿梁山泊の紫テント、椿組のテントと、3つの劇団によって続けられている。

唐組の第71回公演『透明人間』は、岡山の岡山市旭川河畔・京橋河川敷、神戸の湊川公園、東京の新宿・花園神社と雑司ヶ谷・鬼子母神、長野の長野市城山公園ふれあい広場にて公演されている。

鬼子母神での初回公演に足を運んだ。

唐十郎氏による演劇を観るのは初めてである。
きっかけは、唐十郎の戯曲『少女都市からの呼び声』が、新宿・歌舞伎町に新たに竣工した劇場にて7月9日より上演される報せを受けたことから。
2023年4月14日に開業する「東急歌舞伎町タワー」内の「THEATER MILANO-Za」のオープニングシリーズ公演である。
その主演を務めるのが、安田章大なのだ。

安田章大については、下記の観劇記録に残している。

2021年7月30日公開
舞台『リボルバー〜誰が【ゴッホ】を撃ち抜いたんだ?〜』に息衝くもの。役者・安田章大という怪物について。

2022年9月30日公開
舞台『閃光ばなし』が放つもの。役者・安田章大という、生きる疾走感。

彼の生の芝居を観ないという選択肢はない。今回も、まずは初日の7月9日に観劇する予定である。
また、かねてから雑誌のインタビューなどで、安田章大自身も唐十郎作品のファンであるということは語っていた。
それならば、いち観客として唐十郎の作品を観ておきたいと考えた。いや、観て感じておかねばならないと思ったのである。


2023年5月20日、鬼子母神。
19時開演で全席自由であるが、開場時間の18時30分から整理番号順に点呼があり、劇団員の引率について並んで入場という形であった。

陽が沈んだ神社の境内、紅テントはその深い紅色で妖しげな雰囲気を纏う。テント内に入ると桟敷席となっており、靴を脱いで座る。前から埋まってはいくが、左右の端のほうであれば整理番号が後でも前に座ることもできる。
とはいえ、どの席からでも舞台は近く、役者の表情も肉眼でよく見えるし臨場感が味わえる。観客も、同じテントに集ったという妙な連帯感が生まれているように感じた。
温度管理され、ホールのスタッフに案内され、しっかりと自身の一席の椅子に腰掛けて観る劇場の空気感とは異なる。

ただ、舞台セットは、かなりしっかり作り込まれた立派なものであった。野外のテントだとは思えないほどに、建物の劇場の美術背景と遜色ない。
照明も音響も同様で、「野外だから、テントだから粗いな」と思うこともなかった。
照明はカチカチと色を変える音が聞こえはするが、それもまた一興。

いざ、芝居がはじまる。
演劇についてどうこうという前に、膨大な台詞量と、それらをしっかりと発していく演者の滑舌に感心しきりであった。

作品としては、“目に見えないもの”に支配され、捕われ捉われ囚われる、人間という生き物の性を見せつけられたように思う。
“水”もまた、その象徴に感じる。透明で、それでいてどうしようもなくまとわりつき逃れられない、存在感。苦しい。常にある、死の匂いと、生の匂い。
湿った手触りが、瑞々しく生きている実感が、沈められ奪われ閉ざされた絶望が、あった。

紅テントの空気感と、匂い立つような台詞たちと、役を引き寄せた役者陣の芝居と、すべてがねっとりと濃密で、内面や脳にこびりつくような感覚。
これが唐十郎の作品か、これが演劇だ、という、体感。

紅テントでの芝居の観劇という経験は、感覚的に強烈なニオイを放つものであった。

なお、唐十郎作の『少女都市からの呼び声』は、THEATER MILANO-Zaでの公演の前に、第74回公演 テント版『少女都市からの呼び声』として、劇団・新宿梁山泊によって花園神社境内・特設紫テントにて上演される。
そちらも観劇したいという欲が高まった。


■Information(東京公演)※6月10日(土)・11日(日)に長野公演もあり

唐組 第71回公演『透明人間』

【東京 新宿・花園神社公演】
2023年5月6日(土)・7日(日)/11日(木)・12日(金)・13日(土)・14日(日)

【東京 雑司ヶ谷・鬼子母神公演】
2023年5月20日(土)・21日(日)/26日(金)・27日(土)・28日(日)

料金(全席自由・税込)
前売券 4,000円  当日券 4,200円 (学生券、子供券もあり)
[お問い合わせ]
・唐組 03-6913-9225
・シバイエンジン https://shibai-engine.net/prism/webform.php?d=ayib8xpp
・イープラス http://eplus.jp/karagumi

【キャスト】
久保井研/稲荷卓央/藤井由紀/福原由加里/加藤野奈/大鶴美仁音/重村大介/栗田千亜希/升田愛/藤森宗/西間木美希/岩田陽彦/春田玲緒/金子望乃/壷阪麻里子
全原徳和/友寄有司/岡田優

【脚本】
唐十郎
【演出】
久保井研+唐十郎

【公式HP】
https://karagumi.or.jp/information/1102/


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