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【短編小説】鴨達からのエール

朝日に照らされた彼等は
 どこか誇らしげだった

穏やかに流れる川を悠々と歩き
藻(も)を啄(ついば)んでいる彼等は
輝いていた

┄┄┄┄

あの日、一般道は泥まみれ
川はドロの川と成り果て…
木の枝と粗大ゴミが散乱していた…

普段なら川と言っても
 水路みたいな感じで

鴨(かも)達も歩いて
 餌を探せるぐらいなのだが…

あの台風ではドロの川へと変貌し
溢(あふ)れ
橋を乗り越え
道路へと流れ出たのだ…

違和感だらけの風景
異様な光景に絶句した…


なぜか必死で職場に向かっていた

1ヶ月経った現在の私は
 笑ってしまうのだが
  その時は何も考えられなかったのだ

どんだけ社畜なんだか(笑)


泥まみれの一般道を
転びそうになりながら進む

不安と怖さに押し潰されそうになりながら進む

なんにも頭が働かなかった… 
" とにかく行かなきゃ "
  しかなかったのだ…


川は静かに穏やかに
あの日の事など忘れたかのように
流れている

川の両はし には風化しつつある
粗大ゴミや木の枝が存在しており

それを見ると思い出してしまう…
あの日の光景と自分の感情を…

鴨達は、私の思いなどお構いなしに食事に夢中だ

彼等が振り返ってコチラを見つめてきた

どこか誇(ほこ)らしげだった

「台風なんて俺たちは、よくわからん!
今を生きてる!」
 と言っているようで思わずクスッと笑っ てしまう

よしっ!私も今を生きよう!
今日も社畜として
元気に働けることに感謝して!!

今日まで良く頑張ったと
自分を褒めてやりながら…

前に進もう!これからも前へ!


ポケットから手を出し
最近お気に入りの曲を口ずさみ
朝日に照れされ職場に向かう私がいた

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2022年9月地元を直撃した台風
一晩中バケツをひっくり返したような雨が降り…見慣れた風景は消えた…
この惨劇を綴れるのはワタシしかいないのでここに記す
この話は台風直撃から1ヶ月後

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