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ナンカヨウカイ

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緋山まひるは正真正銘の化け猫。 一名を除き、妖怪ばかり所属する便利屋「ナンカヨウカイ」の従業員として、理不尽な所長に日々こき使われる日々。 今日も所長の一声で、まひるは同僚の河童… もっと読む
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ナンカヨウカイ もくじ

ナンカヨウカイ もくじ

緋山まひるは正真正銘の化け猫。
妖怪ばかり所属する便利屋「ナンカヨウカイ」の従業員として、理不尽な所長に日々こき使われる日々。
今日も所長の一声で、まひるは同僚の河童・ワタルと、唯一人間の高校生巫女・姫子とともに調査を開始する。
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「折る」【完結】
 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪

ナンカヨウカイ「折る」①

ナンカヨウカイ「折る」①

 やれやれ、今日も暑くなりそうだ。

 ショッピングモールの屋上。立ち入り禁止なので、当然誰も入ってこない。俺は柵に体を預けて、早朝の町を見下ろしていた。
 夜明けからさほど経っていないため、空気はまだ涼しい。俺はぼんやりと眼下に見える交差点を眺めていた。そこに誰もいなくても、信号は律儀に青に変わるのだ。

 バサ、と羽音がした。カラスが一羽、舞い降りて来る。

「おはようございます、赤虎の旦那」

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ナンカヨウカイ「折る」②

ナンカヨウカイ「折る」②

 窓の外から中をのぞくと、ジーパンに包まれた長い脚が見えた。
 足を高く組んで腰掛けているソイツは、何やらチャラチャラと装飾のされた、先のとんがった靴をはいている。
 なんとなくムカついたので、俺はそのヒザめがけて、ツメを出したまま窓から飛び込んでやった。

「いっ、痛たたたたたっ!」

 みっともなく悲鳴をあげたソイツからひらりと離れると、俺はそのままズブリと影に潜り、再び人の姿へと化けた。

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ナンカヨウカイ「折る」③

ナンカヨウカイ「折る」③

 逃げるように事務所を飛び出した、その1時間後。
 俺はプールサイドにぼんやりと座っていた。
 今回の仕事は、ここ『花咲プールアイランド』の監視員だ。

 プールといえば「長方形の水たまり」という俺の認識は、いつの間にか古臭いものへと変わっていたようだった。
 ドーナツ形のプールではぐるぐると水がめぐっているし、海みたいに波が立っているプールもある。おまけにジェットコースターよろしく、信じられない

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ナンカヨウカイ「折る」④

ナンカヨウカイ「折る」④

「まひるっち! まひるっち!」

 ……うるせえ、何だよ。

「ああ、まひるっち。乱暴で人使いが荒かったけど、けっこういい奴だったのに……安らかに眠ってね」

 おい。

「勝手に殺すな、アホ河童」
「あ、おはよ」

 目をあけると、ワタルのへらへらしたツラが見えた。
 どうやら気を失っている間に、事務室に運ばれたらしい。

「おい、ワタル。ふざけんじゃねーぞ。何が『俺にまかせてよ!』だ。さっさと

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ナンカヨウカイ「折る」⑤

ナンカヨウカイ「折る」⑤

「やあやあ、まひる。おかえり」

 ぼさぼさの頭でふらりと起きてきたのが、加賀谷衛(まもる)。
 みゆの父親で、俺の親友だ。

 年を取らない妖怪の俺と、人間の子供だった衛。なぜだか妙に馬が合って、もう30年近い付き合いになる。
 出会った頃はまだあどけないガキだったのに、今やすっかりヒゲ面のおっさんになっちまった。今は大学で民俗学を教えているとか。

「はい、パパの分」
「おー、おいしそうだね。

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ナンカヨウカイ「折る」⑥

ナンカヨウカイ「折る」⑥

 翌日、俺は朝早くから事務所へと向かった。

 事務所の中ではひとり、ワタルがヘッドフォンで音楽を聞いていた。
 なんだよこいつ、早起きだな。

「あ、まひるっち。おはよー」
「おっす。姫子いる?」
「んー、来てないよー」
「ったく、肝心な時にいねーんだから。補習だかなんだか知らねえけどさ」

「補習じゃないわよ、夏期講習!」
 りんと響いた女の声。

 見ると、事務所の入り口で腕を組んで仁王立ち

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ナンカヨウカイ「折る」⑦

ナンカヨウカイ「折る」⑦

 捜査の基本、現場百回。

 ってことで、俺は虎猫に姿を変え、手始めに花咲プールアイランド周辺で聞き込みを開始した。相手はもちろん、近所の野良猫どもだ。

「おはよう、お前ら」
 俺がたまり場に顔を出すと、2匹の野良がニャーとあいさつを返した。

「なんだい赤虎、仕事か?」
「まあな。お前らに聞きたいことがあるんだけど」

 俺は、ラッパみたいな妙な鳴き声を聞いたことがないかと訊ねた。
 2匹は顔

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ナンカヨウカイ「折る」⑧

ナンカヨウカイ「折る」⑧

 小学校近くのたばこ屋。
 俺は猫の姿のままで、窓口の下からニャーと鳴いた。

「なにがニャーだよ、可愛い子ぶっちまって」

 そう言いつつ窓口から顔を出したのは、真ん丸メガネをかけた小柄なバアさんだ。

「おっ、出たな化け猫ババア」
「ふん、お前も化け猫だろう。用があるならさっさと入りな」

 お言葉に甘えて、俺は窓口から中へと飛び込んだ。

 ハルさんっていうのは、このバアさんのこと。
 この

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ナンカヨウカイ「折る」⑨

ナンカヨウカイ「折る」⑨

 時刻は夜中の1時。
 花咲プールアイランドの入口前で、その男は何かを探している様子だった。

「こんばんはー。花咲小学校1年3組担任の坂本先生、だよねー」

 突如響いた声に、男はびくっと全身を震わせて、反射的に振り返る。

「ごめんごめん、驚かせちゃったー」
 へらへらと笑っているのはワタル。

「こんな夜中に探し物ですか?」
 にこりともせず、そう言ったのは姫子。

「あなたがたは……?」

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ナンカヨウカイ「折る」⑩

ナンカヨウカイ「折る」⑩

「どいつもこいつも、俺を無視して騒ぎやがって! ガキ共もそうだ。授業中でもおかまいなしに騒ぎやがる。ちょっと怒ったら、バカな親から厳しすぎるだの行き過ぎた指導だのと言われる。お前らに俺の気持ちが分かるか? ええ?! 親も教師、ジイさんも教師、俺も教師になったものの、毎日毎日ガキの世話! やつらは夏休みでも、俺は仕事、仕事仕事仕事! ふざけやがって!」

 こんな長台詞を、坂本は一度も噛まずにまくし

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ナンカヨウカイ「折る」⑪

ナンカヨウカイ「折る」⑪

 明け方近く。
 俺たち3人は、病院にいた。

 こんな時間にもかかわらず、シュウは起きていた。
 痩せた体を起こして、白いベッドの上にぽつんと座っていた。

 ……眠っている間に済ませようと思ってたんだけどな。

「お兄ちゃんたち、だれ?」
 そう言ったシュウの目は、どこか投げやりに見えた。

 なかなか良くならない病状か、坂本の呪いのせいか。
 目の下には痛々しいほどに青黒いクマができている。

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