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全力で応援する潔さ(『空をゆく巨人』)

川内有緒さんの『空をゆく巨人』。
川内さんのお名前は『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』で知っていたけれど、著書を読むのははじめて。そして、蔡國強というアーティストについては、この本を読むまでまったく知らなかった。

1957年、中国福建省に生まれた蔡國強は、27歳のときに学生ビザを取得して日本にやってきた。銀座の画廊に通い作品を売り込むが、まったく相手にされず、そんなときに蔡の才能を見出したのが鷹見明彦という美術評論家だった。この鷹見さんという人が蔡と福島県いわきのパイプ役となった。

長きにわたって蔡の作品を制作する「いわきチーム」のリーダーをつとめるのが実業家、志賀忠重さん。蔡の作品と人柄にほれ込み、蔡を物心ともに支援している。蔡からお呼びがかかればどこにでも「出動」する。そして、蔡の頭の中にある作品を具現化していく。蔡と「いわきチーム」の付き合いは、いわきで個展が開かれた1988年から現在まで続いている。

東日本大震災後、志賀さんはいわきに美術館をつくり、そこで植樹活動をおこなっている(いわき万本桜プロジェクト)。震災後、故郷のいわきには人が訪れなくなった。ふたたびたくさんの人が訪れる土地になるよう祈りを込めて。また、原発というものに対する怒りやそれを迎え入れてしまったこと、負の遺産をのちの世代に残すことへの反省も。
目標は9万9000本。これが達成されるのは250年後だという。「やり遂げた!」という自己達成感を得るのなら一桁少ない数にしなければ…。志賀さんいわく、自分が見られるかどうかは関係ないのだそうだ。この活動の基盤をつくること、自分がいなくなっても続けてもらいたいと。美術館のデザインはもちろん蔡が行い、その後も支援が続けられている。
そこには強い絆とともに全力で応援する潔さがある。

利他ーー他人に利益となるように図ること。自分のことよりも他人の幸福を願うこと。

損得なしに誰かを応援する姿と比較して、自分の小ささにためいきをつく。そして、人間関係も希薄だ。
でも、まだまだ変わることができるきっかけはあるはず、と思いたい。


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