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『ファースト・プライオリティー』

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初めて読んだ山本文緒さんの作品は『ファースト・プライオリティー』だった。
確か幻冬舎の『星星峡』で連載されていたと思う。
他の連載読みたさに買っていたPR誌だったけれど、毎月楽しみに読んでいた。

31歳の女性が主人公の、31のストーリー。
現実的で甘くはない。むしろ毒がある物語は、20代後半だったわたしの心に深く残った。
当時、そこそこ長く付き合っていた人と遠距離恋愛をしていた。彼は結婚を望んでいたけれど、わたしは決断することができなかった。
仕事、恋愛、親、気楽なひとり暮らし……。
結婚に伴う面倒と、失ってしまうものへの恐怖があった。

この短編を読みながら、自分の優先順位を考えたけれど答えを出す事はできなかった。
結局わたしは仕事も恋もその他のことも、何もかもを失いたくなくて、日々をがむしゃらに過ごすことしかできなかった。
(それから数年後の大晦日に振られてしまうのだ……)

社会で生きていくことの不自由さ、女だから受ける仕打ち、同調圧力……。
どうすることもできないもどかしさで苦しいのは今も同じ。
20年以上経っても変わらない。
古い作品ではあるけれど、読むたびに自分にとっての”ファースト・プライオリティー”を考えさせられる。

山本文緒さんの訃報に触れ、昔の事を思い出してしまった。
どの作品も、わたしの心の一番弱い部分を突いてくるので読むのがシンドくなる時もあるけれど、読まずにはいられない。
わたしはこれからも山本文緒さんの作品を色んな人に勧めていくと思う。
新作が読めない事が残念でたまらない。

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