『カモフラージュ』

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『カモフラージュ』松井玲奈(集英社文庫)

元アイドル松井玲奈のデビュー短編集。
どの物語も背筋がゾクッとする。ほんのりとこわい。

『ハンドメイド』は、同じ会社に勤めているあきこのお話。
彼女がいる林田と週に一度、逢瀬を重ねるあきこ。

会う時はかならず全て手作りのお弁当をホテルに持っていくあきこ。
冷めてしまったオムライスを「おいしい」と食べる彼はの毎日のランチは、本当の彼女が作ってくれた冷凍食品が満載のお弁当をニコニコしながら食べている。

”夢のような時間はあっという間だ。どれだけ今日を楽しみにしていたか、自分が一番よく知っているのに、始まってしまえば一瞬であっけなくて。いつも傷を負って帰ってくる。”

この苦しくて切ない気持ちがピタゴラスイッチのビー玉に例えられているのがすごい。溢れてしまったビー玉は元には戻らない。
溢れてしまった気持ちも、元には戻らない。
物語のラスト、林田の言葉がズルく、そして哀れだと思った。

私が一番好きだったお話は『いとうちゃん』
メイドに憧れて、田舎から上京しメイドカフェで働くいとうちゃんだったが、慣れない一人暮らしのストレスでどんどん太っていく。

”自分に満足している、のかな。私。
東京に出てきてまだ三ヶ月だけど、私は食べる事、増えていく体重に関して、確かに自分を肯定し続けてきた。だってストレスなんだもん、不安なんだもん、食べてると落ち着くんだもん、だから太っちゃうのはしょうがないでしょって。
誰かにそうだねって、しょうがないねって言って欲しいと思いん柄、自分を肯定していた。周りはそれを認めてはくれないから。
ああ、私はこんな自分が好きなあまちゃんなんだ。”

自分を肯定するって難しい。他人からの否定がつらい。自分を欺き続けた先にあるのは何だろう。
『カモフラージュ』というタイトルが秀逸。
カモフラージュの中で生きる人、解き放たれる人、どちらの人生も正しい。




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