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#35【読書】『無人島のふたり』

発売後すぐに手に入れ、あっという間に読了をしてしまっていたのだけど、感想をうまく言葉にできないまま時が過ぎていた。

突然のがん告知から始まるこの日記には、山本文緒さんと夫である王子の最後の日々が綴られている。
(本書で“王子”という呼びかけはたった一度しかでてこない)

コロナ禍の闘病だったということもあり、出歩けず、人に会うこともままならず、軽井沢の自宅でふたりきりで過ごす日々は大変だったと思う。
体調や気持ちの波が率直に、けれども悲壮感なく描かれていて、さすが山本文緒さん!と読者のわたしは感じてしまう。
それくらい、優しくて幸せな時間が流れている日記で、読みながら涙が止まらなくなってしまっていた。

闘病生活なのに『幸せな時間』というのは、語弊があるのかもしれない。
事実は書かれていることと真逆なのかもしれないけれど、王子とふたり、穏やかな時間の流れがそこには確かに存在していたと感じた。
読者だけではなく、きっと残された王子にも明るく幸せな日記を残されたかったのだろうな、と思い感謝の気持ちでいっぱいだ。

未来がない、と何度か書かれていたけれど、明日も明後日も、きっとこの先ずっとまた何か新しいものを書いてくださる!きっと!と思わずにはいられなかった。

(略)改めて読み返して、これは闘病記ではなく逃病記だなあとしみじみ思った。
(略)
今、私は痛み止めを飲み、吐き気止めを飲み、ステロイドを飲み、たまに抗生剤を点滴されたり、大きい病院で検査を受け、訪問医療の医師に泣き言を言ったり、冗談を言ったり、夫に生活の世話をほとんどししてもらったり、ぐちを聞いてもらったり、涙を受けてめてもらったりして、病から逃げている。逃げても逃げても、やがて追いつかれることをしってはいるけれど、自分から病の中に入っていこうとは決して思わない。

『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』山本文緒/新潮社

病から逃げ切って欲しかった。新しい作品がもっともっと読みたかった。
人生のいろんなタイミングで山本文緒さんの作品に助けてもらった。
きっとこれからもわたしの道標として、その時々で再読をしていくだろう。

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