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【気づいてA君】『かがみの特殊少年更生施設』に出てきたマンガについて【考察】

今回は、“現実と仮想の間の曖昧な領域に物語を紡ぎ出すクリエイター集団“「第四境界」さんが手掛けるミステリーゲーム『かがみの特殊少年更生施設』の考察をしていきます。

X(旧Twitter)上では、「#気づいてA君」というハッシュタグで話題になりました。

今はYouTubeにも沢山の方のプレイ動画が上がってますね。
盛り上がってて嬉しい〜☺️

このゲームは、実際に『愛宝学園かがみの特殊少年更生施設』というHP上の情報、検索欄を駆使して、この施設に隠された闇を暴いていく……という謎解きミステリーゲーム。

ミステリーやモキュメンタリーが好きな人にはハマるかと。
所々に不穏なものが隠されてて、怖いもの見たさで秘密を探りたくなること請け合いです!

これ、時間制限もなく、1人でもプレイできるタイプのゲームなので、じっくり解くこともできるし。
お友達を誘って、みんなでワイワイ考察しながらもプレイできます。

まだプレイしてなくて、興味があるというならば、ぜひ自分でやってみるのをオススメします!

こういうゲーム初めてで、やり方わからないな〜、って人は公式から出てるチュートリアル動画を見ればだいたい理解できます。
ホラーちっくですが、オバケは出ないので苦手な方でも安心ですよ👻

ちなみに私は、この動画が出されるより前に、有志が作ったDiscordに混じって他の方の「謎解きスゲー」って眺めてる間にキーワードを普通に目にしてしまってたので、純粋に謎解きはしてません😅
こういうゲームだと知らなかったから……

実際にプレイしてみて、謎解きやキーワード検索に躓いたときは、攻略サイトがいくつか立ち上がってますので、そちらを参考になさるのも良いかと。

私のオススメはこちらのサイト↓


さて、前置きが長くなりましたが、今回はゲームプレイ後の人に向けての考察記事を書いていきます。

ネタバレありきですので、未プレイの方はプレイ後に。
続きをまた読んでいただけると嬉しいです。


※以下、ネタバレします※





∼∼∼∼∼∼


この記事では、全部で5パターンある『バイカラー・ムーン』の内容を考察していきます。
個人的主観で語っていく旨ご了承ください。


▣『バイカラー・ムーン』のイメージの変遷

■各稿の内容を振り返り

◈第一稿(no.116 特例機密ファイル)

・「大切な友人を失うまでの記録」でありイカれた学園の告発マンガ。

・舞台は愛宝学園。明らかに少年院のような見た目(窓の格子や有刺鉄線)。
・反省の見られない者には『特別な処置』が行われる。(「カネモリ式」と院生が呼称)

・乙坂が好戦的でやんちゃ。
 蒼乃も乙坂も、自分の犯した殺人に後悔はないと断言。

・“親の教えに従い正しい絵を描いてきた“ 蒼乃と、“自分の思うままに技法も関係なくのびのびと描く“ 乙坂の対比。
乙坂の絵を見た時、自分にはない “人を惹きつけるような力“ を感じ、敗北感のような、羨望のような気持ちを持った?

・乙坂の「描きたい絵を描いた」という言葉で、蒼乃が思い出したのは「初めて描いたマンガを花城に褒められ、嬉しそうに続きを描くシーン」。
蒼乃にとって「正しい絵画」より「マンガ」のほうが描きたいものなのだろう。

乙坂の絵のように「何かを伝える」絵が描きたいのかな。


◈第二稿(no.97 蒼乃晴翔卒院制作)

「大切な友人と別れるまでの記録」
・(おそらく施術後の乙坂に)上塗りされてしまった二人の合作絵は「正しい絵」
乙坂がはじめに描いた自由な絵は「正しくない絵」。
夜中に描きあげた二人の合作絵は「どう感じればいいかわからない」という評価になっている。
いつもと違うタッチで自由に描いたのかな……

・次に、消されて空白の部分と、黒塗りにされた部分について。

〈空白の部分〉
蒼乃の凶器。被害に遭った花城の様子。「教師を殺したことを後悔してない」のセリフ。乙坂が施術室に行くのを止めるシーン。卒業制作をマンガに決めたときの反抗的な顔。

⇨洗脳によって「正しくない」と刷り込まれた事柄か。
あとは嫉妬や羨望のような感情も?

〈黒塗りの部分〉
主に蒼乃の表情、感情。花城の名前。
蒼乃の犯行シーン。
乙坂が受けてる施術に悲しむ表情、前言撤回し父親殺害を「後悔してる」と言い出す乙坂を問い詰めるシーンの表情。

⇨空白の部分により、記憶に齟齬が生じたというか、よくわからなくなってしまった部分なのかな〜

・二人の合作絵に布をかけるシーンは、“自由で明るい人柄の乙坂は、月の船と共に出航して戻らない“みたいな、もう存在しなくなってしまった乙坂の人格に対する哀悼の意だったのかな……

下絵では船に二つの人影が見えたのに、上塗りされた完成品には誰も乗っていないのが辛い。
二人で逃げ出すこともできず、船だけが残されたことを暗示?

『バイカラー・ムーン』のタイトルの「月」は、二人で絵を描きあげた内緒の夜の象徴だったのかな……


◈第三稿(no.77 精神医療データ)

・「大切な友人と過ごした日々の記録」
・舞台は変わらず愛宝学園で、有刺鉄線などもそのまま。
ただ「カネモリ式」が「悔悟の礼」に変化している。(→懲罰ではなく、反省の気持ちが特に強いものが受けるとされる)

・乙坂のケンカが、やや大人し目に変更されている。
また、父親殺害について最終的に強く反省している。

・蒼乃は、乙坂の描く絵へのコンプレックスはなく、ポジティブな言葉で褒めている。(描き方を教えてもらおうとはしていない)
・乙坂はそのままだが、蒼乃の犯行時の回想シーンがだいぶ簡略化。
そして罪を反省している様子。
夜中こっそり抜け出しての共作ではなく、授業中に時間を取ってもらえたことになっている。

・罪への反省、学園生活の美化。
二人とも、自分の犯した罪に向き合い反省してる。
今回は、自らの罪を強く反省し「悔悟の礼」に自ら志願した素晴らしい少年たちとして描かれる。

・卒院したら、「虐待されてる子供たちを救うシェルターを作りたい」と語る乙坂。
実際に乙坂とこんな会話があったのか不明。
乙坂ならこう思っていそうだとか、整合性のとれたセリフで、蒼乃の願望かもしれない。
→乙坂が施術され消えたことに折り合いをつけるために事実を捻じ曲げている?

・「絵を描くと自分の中身が見えてくるよな」というのはまさしく、このマンガも……


◈第四稿(X投稿動画)

・「実りある日々の記録」
学園の素晴らしさを伝えるためのマンガ。

「くずがわ学園」という架空の学校設定。
有刺鉄線など少年院らしさはそのまま。ただし、学園を少年院ではなくエリート養成学校だと思ってるフシがある

・よって、蒼乃も犯罪が理由で連れてこられたわけではなく、“学園の教育理念についての論文が目に留められ、入学した“ ことになっている
・前稿までは、やや内向的そうだった蒼乃が溌溂とした少年に変化

・「リーダー候補」「指導者としての道」などの単語。
・「カネモリ式」は「特別な教育機会(くずがわ特例)」に変化。

・見る人が混乱するような「正しくない絵」を描く乙坂に指導する立場をとる蒼乃。
乙坂のケンカが弱々に。
乙坂は「“学園の落ちこぼれ“ だったが、蒼乃の教えで、絵を通して頑張ることを覚え、優秀生として特例を受け卒業→大学部へ進む」という成長物語?

・「せっかくこの学園にいるんだから君もなにかになりたいだろ?」とは晴翔の心の声?何者かになりたかった?


第五稿(HP上に掲載)

・第四稿を、雑な黒塗り白塗りで改悪。
少年院からふつうの学校の寮のような感じに変えられている。
少年院らしさ、愛宝学園を感じさせるものは徹底して消してある。
施術室も「保健室」とされている。
登場人物の名前も別名。
藤棚!雑すぎ(笑)

・普通の一般的な学校モノに落とし込んでいる印象。
乙坂の将来の夢も、ふんわり学校の先生になっている。
全体的に「個性」というものが排除されてる気がする。


■施術とマンガが描かれたタイミングを予想


マンガのストーリーと、施術後の様子の兼ね合いをみて予想した流れ↓

∼∼∼∼∼

◈第一稿(no.116 特例機密ファイル)ネーム段階。
蒼乃や乙坂に起こったこと、学園の闇の実態が、事実に限りなく近い状態で描かれている。

✜第一施術【自己批判・催眠】


◈第二稿(no.97 蒼乃晴翔卒院制作)
ネームその2。
第一稿の一部が黒ペンで雑に塗りつぶされたり、消しゴムで消されたりしてる。
蒼乃の感情や記憶が曖昧になっている?

✜第二施術 【監薬療法】
強い自責と反省の様子が見られる。
「少年院の更生としてはこの時点で果たせていると考える」と報告書に記述あり。


◈第三稿(no.77 精神医療データ)
下書き。
絵柄やストーリーのまとまりがある。
少年たちが罪に向き合い反省し、そこからの成長を描いている。

✜第三施術 【UTT法】
自分が何をしてこの施設にやってきたのか答えられなくなり、記憶の欠如も見られ始める。



✜第四施術 【脳孵化術】
更生官に対しての尊敬の意を持つ。
何事にも全力で取り組み覇気のある様子が見られる。


◈第四稿(X投稿動画)
完成品。「表現祭」で展示されていた。
少年院の話ではなく、エリート養成学校のようなストーリー。
絵を通して人間性の成長を描く。


(完全な憶測だが、このあたりで蒼乃の予後が悪くなり、花城と会ったときのような状態になった?)

◈第五稿(HP上に掲載)
文字や背景からの情報を極力削ぎ取る雑な修正が施されている。
絵と合わない不自然なセリフや陳腐なストーリーに改悪されている。

(四コマ漫画も蒼乃作だとしたら、だいぶ絵柄が稚拙になってるし、ネタのキレも悪い。この時点で、前のように上手な絵を描いたり、漫画の構成を考える能力が無くなってしまった可能性もある?)

∼∼∼∼∼


▣蒼乃の心を映すマンガ

・蒼乃が昔に描いたマンガ作品は、X「気づいて」のヘッダー画像と、花城さんの投稿画像の2箇所で確認できます。

なんとなく、キャラの造形としては蒼乃と友人たちをモデルにしてるような感じしますよね。

(主人公→蒼乃、先輩→花城、仲間→ウルビリ教えてくれた友人)

・そして、このマンガは蒼乃の願望のようなものが透けて見えます。

「自分には隠された大きな力がある」

蒼乃くん、ヒーロー願望のようなものがあったんじゃないかな……

・親に言われるがまま、絵画技術を習得するだけの空虚な毎日。

しかしマンガに触れ、自分で描いてみて、それを花城に認められたことで張り合いが出るようになる。

自己肯定感が爆上がりしたんじゃないでしょうか。

花城を襲った教師への報復は、ヒーロー願望が行き過ぎてしまったのかな……と。

・ゲーム中で検索単語を調べるとき、バウムテストとかPFスタディとか「投影法」というものが色々出てきたので、サラッと読みましたが。

なんか、この「マンガを描く」という行為が、いわゆる「投影法」っぽいな〜、と感じました。
専門家でも何でもないので、ただの主観的感想なんですが……

心理学でいう【投影】とは
自分の態度や欲求などが抑圧されている場合、それを自分以外の人や物に託して表すこと。

深層心理を表現するようなんですよね。

・第四稿にて「せっかくこの学園にいるんだから君もなにかになりたいだろ?」と乙坂に語りかけるシーンありますけど。

これは晴翔の心の声なのかも。

何者かになりたかったんじゃないかな?

自分の父親、祖父が有名な画家であったように。
どちらかというと「なりたかった」、というか「ならなければいけなかった」かな……

記憶が曖昧になりながらも、ずっと残ってたのは親から刷り込まれたプレッシャーなの辛いな。


・あと、乙坂の描く絵からは、なんか 「自由を求めてる」イメージが伝わってきます。
「蝶のような羽根っぽい絵」「月の船で出航」「鳥と藤棚をモチーフとした絵」

ここではないどこかへ行くような……


▣プレイヤーに提示される順番の上手さ


・まず、だいたいの人が最初に目にしたのは花城さんがXに投稿した隠し撮り動画の第四稿か、愛宝学園HPに掲載されている第五稿だと思う。

タイトルにもある「月」を中心に囲み、羽根を生やした少年2人がピュアな微笑みを浮かべる表紙。

それが資料を深堀りしていくと別の表紙バージョンのものを見ることになる。

・次に目にしたのは、おそらく「no.77 精神医療データ」にある第三稿のはず。 
第四、五稿と同じ構図であるが、羽根は消え、物々しい鉄の鎖と手錠に繋がれた少年たちの表紙。
だんだんと罪と少年院のことも明らかになり、他の資料との関連性が感じられるようになる。

・そして資料をさらに探るうちに、もっと前の段階である第一、二稿を目にすることになる。
そこには、施術によって苦悩する少年たちと、まさにその過程がありありと描かれている。

その内容を見ていくと、今まで見てきたマンガが、ガラリと違ったものに見えてくる上手い仕組みとなっている。


・例えば……表紙のイメージ。

「鎖と手錠」
当初→少年たちが犯した罪の重さと、更生施設にいるという現実。

最後→辛く苦しい学園内の環境。
殺人という重い過去を背負いながらも、鎖のように強固な絆を持った二人。

「羽根」
当初→ 少年たちの純真さ、明るい未来に羽ばたくようなイメージ

最後→施設から逃れることはできず、脳孵化術を施されお利口な雛になってしまった二人。

・また、 “セリフと絵がちぐはぐで苦笑いするような出来映え“ だった第五稿も笑えなくなる。

第一稿では告発のために必死になって描いた内容だったのに、施術のたびに蒼乃の記憶や認識が変化して、自ら描きかえていった成れの果てだとわかるからだ。

最終的に、蒼乃の苦悩も乙坂の苦しみも全てなかったことにされ、悪行はびこる学園を讃美するというグロテスクな構図になっている。


◎最後に感想

個人的に、現代基準で考えると荒唐無稽だけど当時は大真面目だった良心を無くした実験とかの話は題材として好きなんですよ……
人間の愚かしさというか、業の深さというかが具現化されているよね……

この作品に出てきた少年少女たちが、ことごとく大人のエゴで割りを食う状況なのが胸糞悪かったですね。
愛宝学園に連れてこられた彼らも、きちんとした環境下でなら健やかに成長して犯罪も犯さなかったろうに……
環境整備する前に人の思想を矯正しようとする政府はヤバヤバでしたね😞

HPの中を調べていって不穏な種を拾っていく感覚。
種が芽吹いた瞬間がたまらないですね!ゾワゾワして楽しかった〜☺️
『バイカラー・ムーン』を全部見終わった時が一番のゾワゾワポイントでしたが😅
本当、すごいよな〜

第四境界さん、素敵な作品をありがとうございました!

・かがみの特殊少年更生施設:https://kagamino-jrep.net/
・第四境界Xアカウント:https://twitter.com/daiyonkyokai
・第四境界YouTubeチャンネル:


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