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【ショートショート】セルフリメイク「夜店の銀河売り(標準語バージョン)」

※この話は、小牧幸助さんの企画「#シロクマ文芸部」に、以前参加した際に書いた「夜店の銀河売り」をセルフリメイクしたものです。
(なので、今週のお題「書く時間」ではありません)

大筋は同じなのですが、よかったら読み比べてみてください。関西弁で書いた元の話との雰囲気の違いを楽しんでいただければと思います。

元の作品はこちらです。お題は「銀河売り」から始まる小説・詩歌・エッセイでした。



「銀河売りから買った銀河」
「え?」

 彼女はキョトンとして僕を見た。その手にはキラキラ光る小瓶がある。新婚旅行も終わって、新居の片付けをしているときに、彼女が僕の荷物から見つけ出したものだ。
「まあ、正確にいえばもらったんだけどさ」
「もらったかどうかはともかく、その『銀河売り』ってなぁに?」
 瞳がキランと光った。ワクワクするものを見つけた時の彼女の表情はすごく可愛い。
「銀河を売ってるお爺さん」
「やだ、まだ続けるの?」
 冗談だと思ったらしく、彼女はクスクス笑いながら小瓶に視線を戻した。

 緑がかって見えるほど厚めのガラスの瓶で、コルクで栓をしてある。中には星みたいにキラキラと光る砂粒のようなものが渦を巻いて浮かんでいる。

「不思議な感じのオブジェだよね。確かに銀河が入ってるみたい。きれい」
「だろ?」
「この銀河、何で出来てるの?」
「さあ」
「えっ、知らないの?! 気にならない?」
「僕もまだ小さかったから、そんな細かいことまで考えなかったんだよ。ただ、きれいだなぁ、って」

 *  *  *

 実家の近くに小さな神社がある。観光名所になるようなところではないけど、地元ではそれなりに有名で、夏祭りは毎年盛大におこなわれていた。
「銀河売り」に出会ったのはその夏祭りの夜だった。

 境内いっぱいに夜店が立ち並ぶ、昼間とは全く違う光景。提灯の明かりや屋台のノボリもズラリと並んでいる。
——もしかしたら、どこまでも続いてるんじゃないだろうか。
 そう思うと、どうしても並ぶ屋台の「端っこ」を見たくなった。僕は一緒にいた友人達に「先に行ってて」と早口で告げ、人混みの間をぬって駆け出した。

 なんとなく人が少なくなって、そろそろ屋台の端だろうかと思ったあたりで、突然「銀河売り」というノボリが視界に飛び込んできた。足を止めてみると、確かにそこが最後の屋台だった。
 布をかけただけの小さな台に、このガラスの小瓶がポツンと一つだけ置いてある。その小瓶がキラリと光った気がして、思わず僕は身を乗り出した。

「どうかね。きれいだろう? 手に持ってみてごらん」

 小瓶に気を取られて気づかなかったけど、その台の前にはお爺さんがニコニコ顔で座っていた。僕は両手でそっと小瓶を持ち、目の前に掲げ、ガラスの中の煌めく渦にしばし見入った。
「あの、これ、いくらですか?」
 お爺さんは僕の顔をじっと見るとニッコリ笑った。
「お代はいいよ。その代わり、大事にしておくれ」

 *  *  *

「え、なんだかちょっと怪しくない?」
「やっぱりそう思う? でもね、僕にはそのお爺さんが嘘をついてるようには見えなかったんだ」
 そう言うと、彼女はふふっと微笑んだ。
「あなたがそう言うのなら、きっとそうなんだろうね」

 僕は彼女に、その時お爺さんから聞いた話をした。
 なんでも、その小瓶にはこの地球がある銀河を詰めてあって、それを誰かが大事に見守っておくことになっているらしい。お爺さんも子供の頃に「銀河売り」からもらって、ずっと大事にしていたけれど、自分もすっかり高齢になったので、次に守ってくれる子を探すために、こうして夜店に並んだのだそうだ。

「えっと、ちょっと待って。この瓶の銀河があたしたちのいる銀河って?」
「うん」
「それはおかしくない? だったら、どうしてあたしたちは瓶の外にいるの?」
「さあ」
「さあ、って……。矛盾してるじゃない」
「僕もそう思う。でも、本当かどうかは分からないけど、僕たちが生きているこの宇宙を、誰かが大事に見守っている、っていうのは、なんだかありそうな気がするんだ」
 また彼女は微笑んだ。
「いいね、そういう考え方。あなたらしい」
 僕自身ではよく分からないけど、「僕らしいところ」を見つけると彼女はこんなふうに笑う。僕はこの笑顔がとても可愛いと思う。

 僕も彼女も、それっきりしばらく黙って小瓶の銀河を眺めた。
 キラキラしていて、ゆっくりゆっくり動く。ときどきキラッと光ったりもする。それはきっと流れ星的なものじゃないかと思う。

「じゃあ」

 だいぶ経ってから、彼女が小瓶を眺めながらぽつりと言った。
「このコルク栓を開けたらどうなるのかな」
「……」
「割っちゃたりしたら?」
「……さあ」
 また僕たちは静かになった。

「とにかく」

 口を開いたのは、やっぱり彼女だった。
「大事にしよう」
「うん。僕もそう思ってる」
 同じことを感じてくれていた。やっぱり、彼女と結婚してよかったなぁ。


 僕も彼女も歳を取ったら、僕もあのお爺さんみたいに「銀河売り」の小さな屋台を出さないとね。
 それまで、この銀河と彼女をずっと大事にしていきたい。


 関西弁バージョンが約1600字、標準語バージョンが約1800字。やはり関西弁バージョンはテンポ重視で、かなり勢いで書いたので、字数が少なく済んだようです。雰囲気は……我ながら、だいぶ違いますね。二通り書いてみるというのは、初の試みで、なかなか面白かったです。どんな言葉で表現するか、というのも今後の課題の一つにしたいと思いました。

 楽しい機会を作ってくださっている小牧幸助さんに、感謝です。


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